第53話 作戦
真っ赤な人の出現で、せっかく雰囲気が台無しになってしまった。
ミーチャはその人が怖いらしく、隠れるように身を寄せてきた。
結構、ミーチャって怖がりなんだな。
それにしても、物凄い外見をしているな……。
モンスターの返り血かな?
トマトだったら、さぞかしいい匂いをさせているんだろうな。
声だけなら赤き翼のレオンとも思ったけど……もしかしたら人違いをしているかも。
「あの……失礼ですけど、赤き翼の方ですか?」
「あん? 当たり前だろうが!! つーか、それを今言うか? 見れば分かんだろ?」
……いや、正直に言って分からない。
というか、レオンの顔をあまり思い出せない。
僕の中の記憶ではかなり薄いようだ。
「……それで、赤き翼の方が何の用でしょうか? こっちはちょっといい場面だったので、邪魔をしてほしくないっていうか、後にして欲しいなぁって思っているんですけど……」
これだけ丁寧に言っておけば、引き下がって……くれないのね。
「ふざけんじゃねぇ。俺はB級。お前はF級。立場が分かってねぇのか? ここでは俺がボスなんだよ。てめえは言われたことをただ従っていれば良いんだよ!!」
知らなかった。
まさか、ここでは赤き翼がボスだったとは……。
……なんだか急に帰りたくなってきた。
「分かりました。それじゃあ、帰りますね。お疲れ様でした」
「帰れ帰れ! そして、二度と俺の前に顔を出すんじゃねぇ!」
ボスに言われたなら仕方がないよね?
もともと、ドブ攫いと勘違いして来てしまって、準備も何もしてこなかったんだ。
ここまで来れたのも、偶然ガルーダと会うことが出来たからに過ぎない。
運が良かっただけ……
ガルーダに頭を少し下げて、帰ろうとすると……
「ちょっと待て。話を勝手に進めてもらっては困るんだが」
「あん? ガルーダは引っ込んでいろ! これは俺とこのゴミの問題だ」
急にレオンとガルーダの間に険悪な雰囲気が広がる。
ここに集まった冒険者たちが固唾を呑んで、この行方を見守っていた。
「いや、そうもいかない。小僧にはここに残ってもらう」
「おい、ガルーダ。気でも狂ったか? F級だぞ? 足手まといになるのが分からないのか?」
そう言われると、なんか腹が立つな。
というか、赤き翼はなんで僕達に突っかかってくるのかさっぱり分からない。
「才あるものにB級もF級もない。小僧には我らと共に戦うだけの実力があると判断している」
「ふざけるのもいい加減にしろよ。いくらガルーダだからって、言って良いことと悪いことがあるぜ。じゃあ、何か? 俺とこのゴミが同じ実力だって言うのかよ」
ガルーダはここでため息をついた。
「ならば、無理を言うつもりはない。小僧には我が方の部隊に付いてもらう。それで文句はないだろ?」
「ちっ! 好きにしろ。こいつを加えたことで部隊が全滅しても、俺は知らねぇからな」
話が全く見えてこないんだけど。
一応、僕の話をしていることは分かるんだけど、完全に置いてけぼりだ。
「済まなかったな。レオンのやつは実力と顔はいいんだが、性格がな。それがなければ……我らももっと親しくなっていたのだが」
うん。多分、親しくって……そういうことだよね?
あまり深堀はしないでおこう。
「あの部隊っていうのは?」
「ああ……」
サンゼロの街のギルドに所属しているB級は20パーティー、約80人程度らしい。
今回のギルマスの要請に応じたのはこの内の半分。
この10のパーティにそれぞれCからF級の冒険者を付けて、部隊としている。
ただ、E、F級のほとんどは今回の作戦から除外されている。
実力が伴わないからと判断されているからだ。
「A級とかS級はいなんですか?」
「いるが、あの方達は常にダンジョンに潜っているからな。今回参加しないB級だって潜っている最中だ」
なるほど。
S級、A級の実力というものが分からないけど、きっと凄いはずだ。
勇姿を見てみたかった……。
しかし、気になることがある。
勝手に決められた部隊のことだ。
「不服か?」
ちらっとガルーダのパーティーを見る。
どれもが一騎当千の風格を持っているが……オカマだ。
いや、別に偏見とかないよ?
けどね……。
「お前は大丈夫だ。まだ、俺たちのタイプじゃねぇからな」
いやいやいや、凄く怖いことを言っているよね?
まだ、って何?
この先に可能性を示唆するのだけは本当に止めて欲しいんだけど。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
一応、確認。
「ああ、安心して、俺に後ろを預けてくれて構わないからな」
……
「僕にはミーチャがいるんで、間に合ってます!」
「そういえば、連れがいたな。同じF級か? これからどんなモンスターが出来るか分からねぇから、実力がない奴は付いてこないほうが良いぞ」
僕もそう思う。
まぁ、実力に関しては僕についても自信があるわけではないけど……
ミーチャは今まで、戦闘の経験は皆無のはずだ。
ちょっと……いや、かなり不安だ。
「私も行く。ううん……連れて行って下さい!! 絶対に……足手まといにはなりません!!」
「ふむ。得意は?」
「闇魔法です」
「ほお。変わったのを使うんだな。たしか、幻影が使えるんだったか?」
闇魔法というのは本当に珍しいらしい。
ガルーダも聞いたことがないくらいに。
それでも、ガルーダにかかれば、作戦に加えることくらい朝飯前のようだ。
「よし。だったら、俺のパーティーの側にいろ。身の安全は一番に考えてやる。その代わり、辛い役割を頼むぞ」
ミーチャにはモンスターに幻影魔法を使い続けるという役割が与えられた。
要は、モンスターを撹乱するってこと。
そうしておけば、モンスターは冒険者を襲ってこなくなる。
この隙にモンスターを退治していくって作戦のようだ。
ミーチャはやる気に満ちた表情で、強く頷いた。
ガルーダの実力はギルドでも定評がある。
きっとミーチャの安全は確保してくれるだろう。
出来れば、僕の安全も確保をお願いしたいところだな。
「小僧は最前線に決まっているだろ」
あ、はい。一番危険な場所になってしまった。
いや、抵抗したよ。
でも、無駄だった。
「作戦の要は小僧だ」
こんなこと言われたら、引き下がれないだろ?
でも、本当に大丈夫なのかな?
『戦士』スキルと木聖剣に未だに不安が残る。
ミーチャもきっと僕を心配しているはずだ。
「ガルーダさん。本当にロスティをそんな危険な場所に置いても大丈夫なんですか?」
やっぱりね。
こういう優しさが心にジンとくるよね。
「ああ、実力だけならB級にも劣らないからな。とはいえ、F級にこんなことをしたらギルマスに何言われるか分からねぇな。……よし。この作戦が上手くいったら、俺がギルマスに頼んでランク昇級の特例を頼んでやるよ」
どういうこと?
どうやら、ギルマスの裁量でランクの飛び級が認められているらしい。
それにはB級以上の冒険者三人以上の推薦が必要で、ギルマスが判断をする。
認められれば、最大でB級まで昇級できるというものだ。
「F級からいきなりB級になれるんですか!?」
「なれるかどうかは、ロスティの働き次第だな。他のB級のやつらも納得する強さを見せれば、可能性はあるだろうな」
僕としては、ドブ攫いや薬草採取をして徐々にランクを上げたいと思っているんだよね。
そっちの方が色々経験できそうだし……
「ダメよ!! そんな考えは捨てて」
いきなり否定された。
「ダンジョンよ? 魅惑的な場所じゃない? B級にならないと攻略が出来ないのよ。絶対にB級を目指すべきよ。こんなチャンスは滅多にないわ!」
「嬢ちゃんの言うとおりだな。こんなチャンスはそうそうないな。どうする?」
でも、B級はともかく、自分の実力がどの程度なのか、測るのにもちょうどいいかも知れないな。
ガルーダの作戦に乗ることにした。
すると、ミーチャがすっとカードのような物を差し出してきた。
「これは?」
「魔道具よ。瀕死になっても一度は回復をしてくれる優れ物よ」
ミーチャさん……瀕死になるまで戦え、と?
ミーチャとは一度、真剣に話し合わないといけないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます