第54話 討伐出発

 ミーチャが差し出したカードを受け取らないことにした。


 瀕死の危険性があるのは、僕よりもミーチャのような気がするし。


 それに、守られている時は大丈夫だと思うけど……。


 ミーチャは意外と行動が読めないところがあるから。


 もしかしたら、モンスターのど真ん中に飛び出す……。


 なんてことがあるかも知れない。いや、ありそう……。


「それにしても、ミーチャはなんでダンジョンに拘るんだ?」


「だって、冒険者になったんだもん。ダンジョン攻略は冒険者の夢じゃない!」


 本当かなぁ?


 なんか、胡散臭いんだよなぁ。


 だったら、薬草採取だけやってるなんて事はないと思うんだけど。


 あれこれ言っていたら、ようやく真実を語りだした。


「私、王城の図書館で読んだの。ダンジョンの最奥には……」


 不老の薬があるらしい。


 一切、歳を取らない秘薬らしい。


「女として生まれたからには、絶対に追い求めるものよ!!」


 ……これに僕は何を言ったら良いだろうか?


 勝手にしろ? それとも向上心を褒める?


「ふふふっ。それにね、伝説の聖剣だってあるのよ」


 乗った!!


 なにその単語。


 凄い気になる。


 いや、欲しい!!

 

 腰に帯びて、伝説の聖剣使いを自称したい。


「ロスティなら食いつくと思っていたわ。これがダンジョンを目指す理由よ。もっと早くに伝えておけばよかったわね」


 財宝って言われると、ピンとこないけど、具体的に言われるとやる気が不思議と起きてくる。


 だけど、その前にガルーダの作戦を確実に達成しないとな。


「ガルーダさん。作戦を教えて下さい」


「ちょっと待て。部隊が集まってからな」


 ガルーダ部隊……ガルーダ隊と呼ぼう。


 総勢20人。


 ガルーダのパーティの他にC級が多数を占める。


 D級は数人。E、F級に至っては僕とミーチャだけだ。


「これから作戦を言う。俺たちはここからダンジョンの外縁部をなぞるように移動する。前衛は……」


 それぞれの配置を発表していく。基本的にはパーティ単位での行動だ。


 やっぱり連携が取れている者で組んだほうが良いという判断のようだ。


 僕とミーチャはガルーダのパーティーと行動を共にする。


「そして、今回の作戦の要は……」


 僕とミーチャを指差してきた。


「あの二人だ。小僧はF級ながらに実力は俺が保証する。確実にA級に匹敵するだろう」


 あれ? B級以上とは言っていたけど……


 話が膨らんでいることに若干の不安を感じる。


「そして、嬢ちゃんは幻影を得意とする魔法使いだ。これで敵を撹乱する。モンスターの足はかなり遅くなるはずだ」


 幻影魔法と聞いたせいか、周りから感嘆の声が上がる。


「強敵が出現した時は小僧にやらせる。皆はそのサポートをしてくれ」


 どう考えても、いきなりやってきた僕を信頼できるわけがない。


 異論が噴出してもいい場面のはずだが……


 それだけ、ガルーダが信頼されている証拠なんだろうな。


 なんだか、急に緊張してきたぞ。


 そこには、「カードいる?」みたいな顔をしたミーチャがいた。


 もちろん、お断りだ。 


「よぉし! じゃあ、出発だ。いいか、絶対に死ぬなよ。生き残って、旨い酒を飲もうじゃねぇか。きっとギルマスが奢ってくれるぜ」


 今日一番の盛り上がりを見せた。


 やっぱり、こういう掛け声があるのはいいな。


 自然とやる気が溢れてくる。


 通り過ぎていく冒険者からは「頼むぞ」と声を掛けられた。


 やっぱり、緊張が……。


 だから、ミーチャ、要らないって言っているだろ?


「小僧。行くか。とりあえず、目の前の敵に集中しておけばいい。嬢ちゃんは基本的に小僧のサポートをしておいてくれ。必要があれば、俺から声を掛けるぜ」


 あとは、行動あるのみ。


 木聖剣を一度撫でる。


 どんな激戦がこれから待っているか分からない。


 頼れる武器はこの木聖剣だけだ。


 しばらくすると、ジャイアントウルフの群れと遭遇した。


「いきなりかよ。ついてねぇな」


 ガルーダがぼやいたていたが、ガルーダ隊の連携は相当なものだ。


 十数匹いたにも拘わらず、瞬く間に追い返すことに成功した。


 僕も数匹を仕留めることに成功した。


 実戦では初めてミーチャの闇魔法を見たけど、かなり役立った。


 ジャイアントウルフに近づいても、向こうは全く気づかないんだ。


 これって、凄くない?


 ただ、この戦闘で数人が離脱することになった。


 ポーションはあるけど、この先のために温存しておきたいというのがガルーダの判断だった。


 離脱する人に対して、皆が握手をしていく。


 なんか、すごい一体感と言うか、仲間を強く感じる瞬間だった。


「頑張れよ」


 そんな言葉をかけられた時は、嬉しくなってしまった。


 ……それからも度々、モンスターに襲われた。


 というか、百メートル進む度にモンスターという具合の高いエンカウント率。


 連携のとれたガルーダ隊でも、消耗がどんどん増していく。


「ポーションもこれで最後だ」


 ついに支給されたポーションが底を尽き、あとは回復なしの戦闘が続くことになる。


 その事態はさすがに想定していなかったみたいで、ガルーダにも焦りの色が濃くなっていた。


「小僧、まだいけるか?」


「大丈夫です」


「やっぱり、小僧は大したものだな」


 そんなつもりはないけど、不思議と疲れを感じない。


 むしろ、体のキレが良くなっていって、ジャイアントウルフも簡単に屠れるほどになっていた。


 でも驚くべきは、それに耐えている木聖剣だ。


 冒険者の多くは常に予備の武器を所持している。


 そして、今使っているのが、予備の武器だ。


 冒険者は想像以上に武器の消耗が激しい。


 そんな中で一番先に壊れそうな木聖剣が長持ちしているという変な状況が生まれていた。


 ほんと……これ、何? って思うほどに。


「そろそろ潮時だな。一旦、撤退するぞ!!」


 ガルーダがついに決断をした。


 もちろん、異論を唱える者はいない。


 満身創痍な冒険者も少なくないからだ。


 元気なのは僕とミーチャ、それとガルーダくらい。


「不思議よね。魔法って使えば使うほど、魔力が減るはずなのに、増えていく感覚があるのよ」


 ミーチャは自分の変化に戸惑っているみたいだ。


 不思議なことだ。


 でも、この状況では頼もしい。


 といっても撤収。戦闘終了。


 ガルーダ隊は安全な経路を探しながら、慎重に外縁部から脱出を試みた。


 しかし、その先に見た光景は……


 全滅しかかっている赤き翼隊の面々だった。


「なんで、あんなのがここにいるんだよ」


 ガルーダのつぶやきが聞こえてきた。


 視線の先で立っているのは、満身創痍のレオン一人。


 そこには巨大なモンスターがいた。

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