第52話 パーティー

 ガルーダとの共闘は勉強になることが多かった。


 冒険者は個人技と思われがちだが、そうではない。


 モンスターは基本的には多数で襲い掛かってくる。


 ジャイアントウルフのように、モンスターながらに連携を取ってくるものも少なくはない。


 それに対抗するためには、どうしても仲間が必要となる。


 そう、頼りになる仲間が……


「小僧には要らないのではないか?」


 何を言っているんだ?


「個人としての戦闘力は、ハッキリ言うが異常だ。どのようなスキルを持っているか知らんが……熟練度の点ではかなりのものだろうな。先祖代々、育んできたのだろうな……しかも、分かるぞ。それに胡座をかかず、ひたすらに鍛錬をする姿が……」


 あれ? 急に涙が……


 この人には分かってくれるのか……


 まぁ、『戦士』スキルは先祖代々どころか、商人の孫から最近交換したものなんだけど……


 流石に言えないよな。


「そんなに僕の力は上がっていますか?」


「気づいていないのか? ジャイアントウルフの時もすごかったが、さっきのオークキングでの戦いは凄まじかったな。あれを一撃のもとに沈めてしまうとは……しかも、そんな粗末なもので」


 ガルーダが僕の下半身を凝視してくる。


 ……違うからね。そっちじゃなくて、木聖剣の方ね。


 でも、木聖剣も粗末なものじゃないからね?


「それ、木の枝であろう? オーガキングの鎧のような体に叩きつけて、よく折れないものだな。『棒術師』か『棍棒使い』辺りなのか? まぁ、むやみと詮索はしないが……」


 どっちもはずれぇ!!


 でも確かにガルーダの言う通りだ。


 木聖剣の材質がとても気になるところだ。


 本当にいいものを拾ったものだな。


「む? どうやら仲間と合流できそうだな。小僧。世話になったな。ところで相談なんだが……オレのパーティーに入る気はないか? 小僧なら、即戦力として十分だ」


 誘いは凄く嬉しかった。


 嫌な理由で公国を去ったが、その時ミーチャがいなければ、確実に人間不信に陥っていた。


 そして、こんなモンスターだらけの場所で一人だったら、自分の立ち位置も分からずに迷走していただろう。


 居場所を与えてくれる人は、本当にかけがえのないものだと思う。


 ガルーダにとって、パーティーがどういうものか分からないけど、とても大切なものなんだろ。


 それに誘ってくれるってことは……きっと、家族みたいに受け入れてくれるだろうな……


「お断りします」


 答えは決まっていた。


 そりゃあ、そうでしょ?


 ガルーダと戦いたくないもん。


 「むう……」ってやつが嫌い。


 本当にイライラする。


 ガルーダのパーティの人を本当に尊敬するよ。


「そうか。それは残念だな。パーティーに入れば、F級だろうと、すぐにダンジョン探索に入れるものを……」


 ちょ、ちょっと待って。


 えっ? どういうこと?


「パーティのクラスは所属している一番高いランクの者に合わせられる。うちなら俺だ。FだろうがEだろうが、B級として扱わられることになるんだ。知らなかったのか?」


 知らなかった……てっきり、パーティに所属する人で一番低い人に合わせると思っていたよ。


 だって、そうでしょ?


 危険なところに、低いランクの人を行かせるわけにはいかないんだから。


「小僧の考えることは尤もだ。では、聞くが、ギルドは冒険者の何を重視していると思う?」


 ……クエストの達成、とか?


「悪くないな。しかし、そうではない。信用だ。クエスト達成は信用を構成する一要素に過ぎん。ギルドへの対応、様々な経験、ダンジョンやモンスターの知識などによって、形作られるものだ」


 つまり、冒険者のランクは言い換えれば、信用の高さを表していると?


「その通りだ。信用があるから、ランクが違うもの同士でもギルドはパーティー申請を認めているんだ。その代わり、ランクの高いものにはそれなりの責任が伴うがな……」


 なるほど……これは面白い話だな。


 ギルドの受付のお姉さんに聞けば、簡単に答えてくれるだろうけど、ガルーダのような冒険者から聞くと、また違った見方で教えてくれる。


 信用か……


 ん? 待てよ。そうなると、パーティーを組んでいる以上、暴論的には誰かがランクを上げていけば、良いってことだよね?


 そういえば、最近、一緒にランクを上げたいからと言って、仕事を……いや、ドブ攫いをサボっていた人がいたな……。


「おーい!!」


 ガルーダの仲間たちが手を振っている。


 いいな。こういう仲間がいるっていうのは。


「皆、無事で何よりだ。俺は小僧のおかげで命拾いをしたぞ。おい、小僧。俺の仲間だ」


 スキンヘッド、スキンヘッド、モヒカンの筋肉ムキムキの男たちに出迎えられた。


 正直、お近づきになりたくない雰囲気が出ている。


「皆に紹介しょう。俺の命の恩人。小僧だ。さっきパーティーに加えようとしたが、断られてしまったよ」


 うん。命の恩人って言ってくれるのは嬉しいけど、名前くらい言ってほしいな。


「小僧ではなく、ロスティです。F級の駆け出しですけど、よろしくお願いします」


「あら? 素直で良い子ね。好きになっちゃいそうだわ」


 まさか……なかなかガルーダの仲間は個性的なようだ。


 三人と挨拶を交わしていると、ふと周りが賑やかになる。


 どうやら冒険者たちがこの地点に集合しているようだ。


 皆の姿を見る限り、満身創痍な冒険者もちらほらいる。


 ガルーダの姿を見るや、冒険者たちがぞろぞろと集まりだしていた。


 ここではガルーダがリーダー格のようだ。


「おう。皆、無事だったか。思ったよりもモンスターの量が多いな。それに強者揃いだ。こっからは本当に実力に自信がある奴だけ残れ! 死んじまったら、元も子もねぇからな」


 その一言で、怪我を負った者、ランクが低い者は一斉に離脱を開始した。


 同じF級の冒険者が離脱するのを見て、決断に迫られた。


「小僧は残れよ。これは決定事項だ」


 決断を勝手に決められてしまった。


 そんな時だった。


 聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。


「ロスティ!! 無事だったのね」


 ふわりと背後から、知っている匂いに包まれた。


 この胸の感触は……ではなく、この声は……


「ミーチャ。どうして、ここに?」


「ギルマスに教えてもらったのよ。それで急いで後を追ったの」


 ……正気か?


 こんなモンスターだらけの場所をよくミーチャ一人で来れたな。


「へへっ。言ったでしょ? 私の魔法は、敵に探知されにくいって」


 言ってたけど……命知らずの特権って言っていたような?


「ふふっ。愛する人が命の危険に晒されているのに、私が命を掛けるのは当然でしょ?」


 ミーチャの優しい笑顔に心がドキリとした。


 なんて愛おしいんだろう。


 ここが衆人の前でなければ、すぐに抱きしめていただろう。


 そんな時に限って、嫌な奴というものは来るもんだ。


「F級がこんなところでイチャついてんじゃねぇぞ!! ゴミはさっさと帰りやがれ!!」


 どっかで聞き覚えのある声が……


 見ると全身が真っ赤な人だった。

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