第47話 勘違い

 いつものようにドブ攫いのクエストを受けにギルドに向かった。


 ドブ攫いのクエストはほとんど独占している状態だ。


 日々、やってくるドブ攫いクエストは全部、僕のものだ!!


 多分、『ドブ攫い』スキルなんてものがあったら、☆6は余裕だろうな。


 それくらいやっている。


 しかし、ギルド内の雰囲気が違うような気がした。


 ちなみにミーチャはこの場にはいない。


 「ドブ攫い!? いや、ほら。私は情報収集をやってくるから……今日こそは新しい情報を取ってくるわね」


 そういって、取ってきた試しはない。


 一体、どこをほっつき歩いているんだろう。


 それはさておき。


 ギルマスが珍しく、ギルドの中央に立って、何かを言っている。


 冒険者たちはギルマスを囲むように、聞き入っているようだ。


 まぁ、僕には関係のない話だろう。


 いつものようにボードに行ってみたが……


 なん、だと……


 クエストがない。


 いや、F級だけではない。全てのクエストが外され、初めて見るボードの素地がむき出しになっている。


 どういうことだ?


 考えられるのは一つ……今日は大掃除の日だな。


 公国の城にいた頃も、大掃除となると全ての業務がなくなり、皆が大掃除に専念する年に一日の大行事だ。


 このギルドにとって、それが今日なんだろう。


 そうなると、ギルマスがいるのは……


 見えてきたぞ。冒険者に役割分担を振っているんだろう。


 僕も冒険者の一人だ。


 ここは大掃除の手伝いをしておいたほうがいいだろう。


 あわよくば、F級脱出が出来るかも知れない。


 E級ともなれば、受けられる仕事が増える。ドブ攫いともおさらばだな。


 そんなことを考えていると、機を逸してしまったようだ。


 ギルマスが解散の号令を上げ、冒険者たちが気合に満ちた顔で外に向かって走り出していった。


「しまっ……遅れてしまったか。いや、チャンスはまだある」


 ギルマスはまだ、そこにいる。


「あの……」


「おお。まだいたのか。皆は行ってしまったが、お前はどうするつもりだ? 無理強いはするつもりはないが」


 そういう訳にはないかな。


 まだドブ攫いの仕事しかくれないギルドに、あまり感謝の気持はないが、それでも……。


「もちろん、ご協力させてもらいます。ドブ攫いでもなんでもやってみせましょう」


「ほう。ドブ扱いするとは……お前は儂が思っていた以上に大物かも知れないな。だが、無理はするなよ」


 心配無用だ。


 ドブ攫いは……極めたからな。


「それで、僕はどこを当たればいいですか? 出来れば、やり応えのある場所を希望したいのですが」


「F級のお前にか……」


 ドブ攫いにF級もB級もないだろうに……それとも未だかつてないほどの排水口がこの街にあるとでも?


「ギルマス……僕は確かにF級です。しかし、この街を良くしたいと願っている一員なんです。放っておくと大変なことになるのでは? だったら、ここは僕がF級である事を忘れてほしいんです!!」


ギルマスは大きな顔を晒しながら、じっと目をつぶり、考え事をしている。


「分かった……そこまでの覚悟があるというのなら、任せよう。特別にだが、責任は儂が取ろう。骨くらいは拾ってやる」


 随分と物騒な言い方だ……だが、悪くないな。


 ドブ攫いは命がけの戦いなのだ。


 一歩間違えれば……考えるだけ無粋だな。


「分かりました。場所を教えて下さい」


「うむ。たしか、お前にはパーティーを組んでいるやつがいたな。連れて行かないのか?」


 ミーチャの事まで知っているとは、さすがギルマス。


 だが、ミーチャは連れていけない。


 いや、来るわけがないだろう。


「彼女に参加をさせる気はありません」


「そうか。それがいいかも知れないな。なにせ、我らでも手に負えるかどうか」


 そんなに!?


 ギルマスにそこまで言われると自信が無くなってくるな。


「ところで、武器はそれでやるのか?」


 木聖剣を指差してくるところを見ると、何かを勘違いをしているようだな。


「そんな訳ないじゃないですか!! こんな棒で何も出来ないですよ。ちゃんと愛用のものがあるので」


 最近、手に入れたスコップだ。


 ローズさんが使わなくなったものとして譲ってくれたのだ。


 触り心地がたまらなくいい。


 答えに満足したのか、ギルマスは大きく頷いた。


「それを聞いて安心した。では、場所だが……」


 どうやら、ダンジョン近くの森のようだ。


 薬草採取のクエストで行く予定だった場所だ。


 しかし、そんなところに排水口?


「なんだ? 急に不安になってきたのか?」


「そうではないんですが……僕が行くようなことでしょうか? 正直、誰でも出来ると言うか……」


 そう、ドブ攫いをマスターした僕には、もう少し骨のある排水口が望ましいんだ。


「血気盛んなのは若者の特権だ。だがな、お前はまだ駆け出しだ。他の冒険者の動き、連携を知る機会だとは思わないのか? 今必要なのは、知ることだ。やるのはいつでも出来る」


 ……なんて、自惚れなんだ。


 ギルマスの言う通りだ。


 勝手にドブ攫いを極めたと思ってしまったが、上には上がいるのが世の常。


 まさに知るべきなのだ。


 ドブ攫いの究極奥義を……。


「分かりました……僕はとんだ思い違いを……是非とも、その場所に向かわせてください!!」


「うむ。では行ってこい。儂はお前たちが最大限活動できるようにフォローに回ろう。良いか、最後まで諦めるな。そして、仲間を助けよ。よいな!」


 もはや、何も言うことはない。


 僕は尊敬する人物を見つけた。


 この人の言うことは耳を傾けるだけの価値があると思う。


「では、行ってきます!」


「ちょっと待て。これが必要になるだろう。持っていけ」


 この瓶は……


「ポーションだ。体力と怪我の治療に役立つ。今は三本しかないが、無いよりマシだろ」


 こんな貴重なものを……


 大掃除に掛ける執念を思い知らされてしまった。


 これなら……徹夜でドブ攫いをしてやる。


 ここから目的の場所はさほどの距離はない。


 先行している冒険者に追いつこうと急ぎ、向かった。


「な……なんだ、これは……」


 想像もしていない光景が広がっていた。


「おまえは……ここから逃げろ!! お前じゃあ、太刀打ちできないぞ」


 この人は……たしか、僕をギルドで蹴り飛ばした冒険者だ。


 B級冒険者の……ガルーダだったっけ?


「よそ見するな!! 後ろだ!」


 ガルーダからの怒号で後ろを振り向くと……


 凶悪な面をしたモンスターが僕を切り裂こうと爪を立てて襲い掛かってきていた。

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