第41話 『戦士』スキルの弱点?

 つい大声をあげてしまったが、衆人からの注目を集めるということはなかった。


 食堂の喧騒がひどかったおかげだ。


 しかし、隊長には聞こえていたようで、しっかりと目が合ってしまった。


「小僧……ん? お前は」


 お前のことは知っているぞ、みたいな目で見られているんだけど。


 僕の方は全然知らないよ。


「B級のガルーダさんとやりあった小僧じゃないか!! あれはなかなか面白い見世物だったぞ」


 別に見世物になったつもりはないんだけど……


「まぁ、そう怒るな。しかし、ガルーダさんは結構喜んでいたんだぞ。『ギルドでオレにけんかを売ってくるやつがまだ、いたとはな』って。オレも大したもんだと思うぞ」


 今のはモノマネ?


 なんか、ちょっと似てたかも。

 

 しかし、喧嘩を売られて喜ぶ?


 ちょっと、何言っているか分からない感覚だな。


 それにしても、あの大男はB級だったのか……


 B級と聞くと、どうしても赤き翼のレオンが頭に過る。


「それで? 声を上げたようだが、オレに何か用か?」


 ああ……自分の持っているスキルが使えないと言われて、ビックリしただけで隊長に用があるわけではないんだけど……。


「いや、その……さっきの話の『戦士』スキルが使えないって話をもう少し詳しく……」


「なんだ、聞いていたのか。まぁ、話してもいいが……」


 隊長が何を訴えているのか、分かっているつもりだ。


 すぐにウエイトレスを呼び、彼らが飲んでいる同じものを注文した。


「分かっているじゃねぇか。小僧。きっと、良い冒険者になるぜ……って、そりゃあなんだ?」


 木聖剣を指差し、少し馬鹿にするような目を向けてきた。


 ちょっとイラッとした……。


「まぁ、武器なんて使えればいい。いい冒険者になると、いいな」


 言葉が弱くなっていないか? 


 それよりもスキルだ。


 ……使えないスキル持ちに未来はあるのだろうか?


「『戦士』スキルのことだな。何が知りたい」


「どうして、使えないんですか? こう言っては何ですが、あらゆる武器も使えますし、力や耐久だって……」


「ほお。小僧のくせに詳しいな。もしかして……いや、詮索はタブーだったな。仮にお前が『戦士』スキル持ちだとして、何か変だと思うことはないか?」


 変も何も、スキルを使ったこともないし。


 それに武器だって、さっき手に入れたばかりだ。


 首を傾げていると、隊長が何かを納得したように首を縦に振った。


「詮索しているのと変わらなかったな。それでいいぞ。小僧。まぁ、『戦士』スキルは確かに小僧の言うとおりの性質だ。総合スキルとしても優秀だ。しかし、冒険者となると……話は別だ」


 どうも話が見えてこないな……


「武器が何でも使えるっていうのは聞こえはいいが……冒険者において、意味のあることではないんだ。例えば、ダンジョンだ。そこでモンスターに武器を破壊された。どうする?」


 ……他の武器?


「ああ、そう考えるのは無理はないな。だがな、ダンジョンに武器なんて落ちていると思うか?」


 まぁ、落ちていないかな。


 精々、仲間から借りるくらいだ。でも……。


「それは他のスキルでも同じなのでは? 武器は破壊される可能性は誰にだって……」


「違いない。だがな戦闘系スキルにおいて、武器にかならず特性が付くようになっているんだ。例えば、『剣士』スキルだ。このスキルは剣以外は使えねぇ……だが、剣においては、凄まじい剣技を使えるようになる。それにな、剣そのものの耐久度が上がるって話だ」


 スキルに物の耐久度を上げる効果があるなんて、初耳だな。


 でも、やっぱり話が見えてこないな。


「『戦士』スキルは何でも武器が使えるが、特性がつかないんだ。だから、戦闘系スキルの中では、一番武器破壊が起こりやすいんだ。武器がなけりゃあ、戦闘系スキルなんて無用の長物だ。特に『戦士』は動きが遅いから、逃げにくいしな」


 なんてことだ……


「もっと言えば、熟練度が上がりにくいっていうのもあるな」


 んんん?


 なんで?


「『戦士』スキルの特徴は、あらゆる武器が使える以外は高い耐久性だ。そのためパーティなんかやっていると、盾役になることが多い」


 なるほど。


 耐久を利用した優れた戦術と言えるな。


「盾役は熟練度上昇に貢献しないんだ。結局のところ、仲間の代わりにダメージを受けて、突っ立っているだけとも見えるだろ? 熟練度はあくまでも攻撃しかないんだ。でもさっき言ったように、武器破壊が起きやすいから、攻撃役というには安定感がない。つまり……」


 つまり……。


「使えないってことだ。だが、勘違いするなよ。使えないのは冒険者に限っての話だ」


 というと?


「兵士や王国騎士団に所属する場合、『戦士』スキルはずば抜けて優れているんだ」


 どういうことだ?


 冒険者と兵士にどれほどの違いがあるんだ?


 相手が人間かモンスターかの違い?


「そうじゃない。さっきも言ったが、『戦士』スキルの大きな問題は武器破壊の発生のしやすさだ。しかし、戦場には……」


 武器が転がっている可能性が高い。


「分かっているじゃないか。その通りだ。だから、『戦士』スキル持ちは冒険者なんて目指さないで、兵士か王国騎士辺りを目指すのが賢いと言えるな」


 ……これは方向転換が必要な時が来てしまったのか?


「ちなみになんですけど、熟練度がすごく高い『戦士』スキルだったら、冒険者としてどうなんですか?」


「面白いことを聞くな。使えないスキルも熟練度が上がれば、か……それだったら、話は別だ」


 なんだ、それを早く言ってほしかったよ。


 僕には『錬成師』スキルのおかげで、熟練度はかなり早くなると思うんだ。


「『戦士』スキルは耐久と共に力も上がる。熟練度が上がれば、力も飛躍的に上がるだろうな。そうすれば、殴るだけで、そこそこのモンスターとも戦えるんじゃないか?」


 武器、関係ないじゃん!!


 拳闘家みたいになっちゃっているよ。


「まぁ、『戦士』スキルの限界ってやつだな。何度も言うが、冒険者に限っての話だからな」


 ……いい話を聞けると思ったのに、聞けたのは『戦士』スキル、使えないんじゃないか疑惑だった。


 考えようによっては、武器さえなんとかなれば……


 木聖剣か……心もとないな。


 火を使うモンスターが出てきたら、逃げるしかないもんな。

 

 やっぱり、この武器はだめか?


 それとも……。


「馬鹿じゃないの? 忘れたの? 私達はお尋ね者よ。一応、姿は変えているって言っても万能じゃないんだから。兵士と王国騎士団? ありえないわね」


 酒が絡むと随分と饒舌に話すな。


 僕の心は否応なく、切り裂かれていった。


 使えないかもしれない『戦士』スキルに、耐久にかかなり不安な木聖剣。


 冒険者として、活躍する前に暗雲が立ち込めていると思うのは、僕だけだろうか?


「そんな時は私に任せなさい!! 幻影でロスティのそれを立派な聖剣にしてあげるわ」


 うん。それ、意味ないよね?


 なんだか、僕だけ暗くなる食事となってしまった……。

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