第40話 木聖剣
結局、剣を手に入れることは出来なかった。
受付のお姉さんの言う通り、その辺の木の枝を武器にするしか無いのか?
「ちょっと、変な気を起こさないでね」
「そんな事をする訳ないじゃないか」
「じゃあ、その手に持っているものはないよ」
……いつの間にか木の枝を拾っていたようだ。
どうやら、相当自分を追い詰めていたみたいだな。
「ミーチャ。もしかして、『戦士』スキルは得るべきではなかったのかな?」
「どうかしら? でも、ギルマスも言っていたじゃない。ギルドで武器を取り扱えるかも知れないって。それまで待ちましょうよ。間違っても、その枝を武器にしようとしないでね!!」
そんな訳無いじゃないか。
木の枝を投げ捨てようとしたが……
妙にしっくりくるな……
見れば、惚れ惚れするような形をしている。
長さ、太さは申し分ない。
少し木の枝感がするが、使い込んでいればいい味が出てくるのではないかと思ってしまう。
「ミーチャ」
「ダメよ!!」
「聞いてくれ!! この木の枝に何か、神聖なものを感じるんだ……」
僕は、何を言っているんだ?
何となく感じたことを言ってみたが、かなり変なことを言っている自覚はある。
「この木の枝こそ、僕が求めていた剣かも知れない!!」
そんな訳あるか。
自問自答しても、木の枝が求めていたものな訳がない。
ありえないだろ。
しかし、腰に帯びてみると……何という安心感……。
不思議と手放すことが出来ない。
「ロスティがどうしても木の枝が良いって言うなら、何も言わないけど……かなり、変よ」
そんなことはないんじゃないかな。
何となく手にした木の枝……いや、木聖剣と名付けよう……を腰に帯びた。
悪くないな。
一応、木の枝とは言いながらも、握るにちょうどいい太さもあるから棍棒と言えなくもない。
ただ、長さもあるから木剣と見えなくもないだよな。
やっぱ、木聖剣で。
ふふっ。
ついに武器を手に入れたぞ!!
「ねぇ、ロスティ。そんなことはどうでもいいんだけど。夕飯どうするつもりなの?」
確か、食事は自分で用意するんだったな。
宿屋なのに、随分と対応が悪い。
「適当に買って帰ろう。なんだか、ボリの街の最初の頃を思い出すな」
金がなかった頃は、八百屋で野菜や果物を買って、料理もせずに食べていたのが懐かしい。
もう一度、ここで経験することになるとは。
「嫌よ。どこかで食べていきましょ」
……はい。そうさせてもらいます。
といっても、サンゼロは廃鉱しかない寂れた街だ。
いくらダンジョンで賑わっているとは言え、すぐに店が立ち並ぶというものでもない。
そうなると食べれる場所と言ったら、ギルド併設の倉庫……いや、食堂だ。
もともと加工済みの鉱石を格納していたのだろうか。
とにかく広い倉庫に、いくつものテーブルが置かれ、ウエイトレスが忙しそうに動き回っていた。
興味本位で、テーブルを覗くと、どこにも同じような肉料理が置かれていた。
あれがどうやら定番料理というやつらしい。
案内された場所は、比較的端っこの方のテーブルだ。
横には、酒が結構入っているのか、騒々しいグループがいた。
喧騒に満ちた場所柄、そんなには気にならないけど。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
急に声を掛けられてビックリしてしまった。
「な、何があるんですか?」
「本日はオーク肉の香草ソテーですね」
……それだけ?
オーク肉って聞いたこともないけど……
それ頼まないと、ご飯食べられないってことだよね?
「ミーチャも同じものでいいかな?」
「ええ。オーク肉なんて、ラッキーだわ!!」
そうなんだ……じゃあ、二つで。
「ちなみに他のメニューって何?」
「食べ物はそれだけですが……お酒なら百種類以上揃えていますよ」
その労力を少しは食べ物に割いてほしかったな。
一応、成人しているとは言え、酒はあまり飲みたいとは思わないな。
「私は貰うわ。なんでもいい?」
それは構わないけど……
「ちょっと気になっていたんだけど……あの瓶って、もしかして四年もの?」
「凄いですね。お客様。そうなんですよ。最後の一瓶ですけど……どうします? 無理には言いませんが、滅多に入らないものですよ」
「そうでしょうね……持ってきてちょうだい。あっ、グラスは一つでいいからね」
「畏まりましたぁ」
ウエイトレスは機嫌よく去っていった。
ミーチャってお酒に詳しいのかな?
「当然よ。一応、王城のお酒は一通り飲んだけど……あのお酒は格別よ。なんといっても、火竜の酒という代名詞が付くほど、酒精が強いのよ。それでいて、香りが凄く良くてね。ああ、今日は本当についているわ」
そうなんだ……まぁ、ミーチャの機嫌がいいならいいか……。
料理が来るまでには時間はかかっているみたいだが、お酒は一瞬で運ばれてきた。
「すみません。これだけは前金となっているんですが……」
そういうものなんだ。
「いくらなんですか?」
「百万トルグになります」
「ひゃ……」
目でミーチャを責めるが、恍惚とした目で酒瓶を眺めるだけで、視線が合うことはなかった。
注文してしまったものは仕方ない。
百万トルグ分の金貨を取り出すと、ウエイトレスは慣れた手つきで数え、去っていった。
「ミーチャ……これは……」
「話は後よ。まさか、この酒に出会うことが出来るなんて、思ってもいなかったわ。もう思い残すことはないわ」
いやいやいや。まだ冒険は始まったばかりだよ!?
終わっちゃ駄目だからね!!
あ、ダメだ。
ミーチャは周りが見えないのか、黙々と一口一口を噛みしめるように自分の世界に没頭していた。
そんな時、ふと、後ろにいる騒がしいグループから面白そうな会話が聞こえてきた。
大柄の男と小柄な男、そして印象が薄い男たちが数人いた。
隊長と呼ばている大柄の男が、グループのリーダーのようだ。
「隊長。いつもの話をお願いしますよ」
「お前も好きだな……まぁいいだろう。そうだな……今日は冒険者に最適なスキルについてだな」
かなり興味深いな……
実際、スキルについての知識はあまりない。
ここで話を聞けるといいんだけど……
「……一番、使えないのが『戦士』スキルで間違いないだろうな」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「な、なんでですか!?」
あっ……つい、隊長と呼ばれる人に向かって、声を上げてしまった。
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