第39話 side タラス④

 ボリの街に着いたぜ。


「やっぱ、ボリの街は公都とは規模がちげぇな。あんな田舎臭い場所より、こっちの方が断然、オレがいる場所だぜ。オレが公主になったら、公都を変えてやるぜ」


 大きなギルドがある大通りなんかに興味はねぇ。


 行きたいのは裏通り。


「流石ですね。タラス様。情報収集の基本をしっかりと押さえられている。して、どこの酒場から攻めます?」


 何言ってんだ? こいつは。


 オレが裏通りに来たのは、当然……


「タラス様……ここは……」


「女を買うに決まってんだろ。王国の女の味を堪能してからでねぇと、王国を知ったことにはならねぇ。ドランは勝手に忌み子の情報を集めてこい」


「へい……」


 ドランがいて助かったな。


 アイツに任せておけば、ある程度は目星がつくだろう。


 その間にオレは……へへっ。楽しむか。


 オレは三日三晩……夜の街を歩き回り、王国を大いに堪能した。


「おい、ドラン!! 次だ。次の店はここだ!! 金を先に払っておけよ。請求されるなんて、興ざめも良いところだからな。多めに出しておけよ。なにせ、オレは公国の後継者なんだからな!! まぁ、言えねぇけどよ。気概は大事だよな」


 金払いの良さに、自分に惚れ惚れするぜ。


 どうして、オレはこんなに気前が良いんだ?


 やっぱり、根っからのトップになるべき存在なんだな。


 こんなオレを、忌み子ごときで……いや、待てよ。


 親父はオレが後継者になることに消極的だった。


 つまり、オレが怖かったってことか?


 オレの才能、才覚を恐れたんだ。


 小せえな。


 王国に来たのは正解だったな。


 オレの中の王としての器が開花していくようだ。


 親父が小さく見えて仕方がない。


 ちっ!! ドランめ。さっきから何してやがるんだ。


 オレにもっと世界を見せろ!!


「おい、ドラン。さっさとしろ!!」


「それが……タラス様……金の底が尽きました」


 何を言ってやがる。


「それがどうした? なければ、強請るでも何でもして作りゃあいいだろ!! そんなことも分かんねぇのか?」


「いや、しかし。ここは公国ではないんですよ。さすがに同じ調子ってわけには……」


 世界の小せぇヤツだ。


 まぁ、王国の女を抱いてねぇんだ。無理はねぇ。


「しょうがねぇ。オレが王道ってやつを見せてやるぜ。付いてこい!!」


「は、はい!!」


 ボリの街はデケェ店がたくさんある。


 どうせ、悪どい商売で大金を稼いでいるに違いねぇ。


 オレの行いは、それを女どもに配る……いわば、善行ってやつだ。


 この店にするか……

 

「おう」


「いらっしゃいませ。トワール商会にようこそ。何か、お探しでしょうか?」


「オレはナザー……いや、なんでもねぇ。金を出しな」


「……」


 ビビってやがるな。


 正義の前に悪人は黙り込むもんだ。あと一歩だな。


「お客様。失礼します」


 ……何が起きやがった?


 どうして、こんなところでオレは寝ているんだ?


 たしか……駄目だ、記憶がねぇ。


「タラス様……タラス様!!」

 

「ドランか……一体何があったんだ?」


「ヤバイですよ。タラス様が手を出したのはトワール商会って言って、王国でも三本の指に入る大店ですぜ」


 あん? トワール商会だから何だって言うんだ。


 たかが商会じゃねぇか。


「タラス様。違うんです。ここは公国ではないんです。商会って言っても、国ほどの力があるんですよ。それに喧嘩を売った意味が分からないんですか!?」


 国ほどの力だと? 馬鹿馬鹿しい。


 そんな訳が……。


「見つかってしまいましたね。ずらかりましょう」


「ちょ……おい!! ドラン!!」


 遠くから黒尽くめの男たちがこっちに近づいてくる。


「くそ!! 待て、ドラン!!」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る