第38話 ギルマス

 冒険者になると決めてから、決定的に足りないものがあった。


 覚悟? そんなものじゃない。


 武器だ!!


 ギルドの連中は、僕が格闘技か何かを得意としていると思っているだろうが、違う!!


 僕は戦士だ。


 戦士は武器のスペシャリスト。


 力と体力自慢になる筋肉系スキルだ。


 心なしか、筋肉が一割ほど増えた気がする。


 ミーチャにさりげなく、二の腕あたりの筋肉をピクピクと動かしてみたが、反応はなかった。


 ……残念。


 そんな事よりも武器だ。


 冒険者として、モンスターと戦う。そのための武器。


「えっ!? 武器屋、無いんですか?」


 ギルドの受付のお姉さんのところにやってきた。


 サンゼロの街のことを聞くにはちょうどいい。


 ミーチャ、そんなに睨まないでくれよ。


 聞いたって、「私が知るわけ無いでしょ!!」なんて言われたら、誰かに聞くのは当然だろ?


「申し訳ありません。武器や防具といったものは、とても重要なものと承知しているのですが……少し遅れているんですよ。もうしばらくしたら、ギルド内で取扱が出来ると思うので、しばらくは手持ちの武器でお願いします」


 手持ちの武器がないから、困っているんだけど……


「ロスティ様でしたら、F級なのでモンスターのクエストはありませんから……武器は不要かと……」


 さりげなく傷つくことを言われた気がする。


 えっ!? なに? F級はドブ攫いでもしていろって? スコップがお似合いだって!?


 ふざけるんじゃない!


「とにかく、なんでもいいから武器を下さいよ」


「大丈夫ですよ。ロスティ様なら、その辺の棒きれでも十分な武器に……」


 貴方が僕の何を知っていると言うんだ!!


 ダメだ。


 受付では埒が明かない。


 ここは上の人を……


「儂に何か用か?」


 いつの間に?


 いや、それよりも何者だ?


 巨大な体に威圧感を否応なく相手に与える顔……なんて大きさなんだ。


「あっ。ギルマス。実はこちらのお客様が武器を所望しておりまして、一応、事情は説明したんですけど……ご納得いただけないようで……」


 このお姉さん、その辺の棒きれで満足しろって言ってましたけど?


 あっ、分かりました……って納得する人いるの?


「ほお。儂を睨んでくるとは、なかなかの逸材が来たようだな」


 いえ、あなたの顔の大きさに驚いていただけです。


「まぁいい。そんなに武器が欲しいなら、くれてやる。ただし!! 文句は言うなよ」


 えっ!! くれるの。


 やった。言ってみるもんだな。


「ミーチャ。やったね。タダでくれるってよ」


「ロスティ……多分違うと思うわよ」


 ? まぁいいか。


 ギルマスという顔のでかい人がくいっと顔を向こうの方に動かした。


 付いてこいってこと?


 もちろん、付いていきますとも。


「ミーチャは武器はどうするの?」


「私は今のところ、要らないかな。あっ、でも杖だったら欲しいかも」


 杖か。なるほどな。魔法使いらしいや。


 ギルマスに付いていくと、一旦外に出てから、再びギルドに入った。


 どうやら裏口のようで、中は小さな倉庫みたいになっていた。


 鉄臭さが鼻につく。


「ここにあるものだったら、自由に使っていいぞ」


 ここにあるものって……適当に手に取ってみると……


 錆びたショートソードだ。


 こっちは錆びたロングソード。


 こっちは少しマシかな。錆びた銅の剣。


「全部、錆びてんじゃないですか!! これをどうしろと?」


「文句はなしって言ったじゃねぇか」


「タダに文句は言わないって意味でしょ? 言うわけないじゃないですか」


「何言ってんだ?」


 ミーチャがつんつんと突いてきた。


 大事な話をしているっていうのに……


「ただし、よ。タダじゃなくて。ただし、文句は言うなって言ったの」


 あ、そうでしたか。


「でもそれにしても酷いじゃないですか。全部錆びているって」


「あん? なんでもいいから武器が欲しいんじゃなかったのか? ほれ。これを貸してやるよ」


 手にしたのは、研ぎ石だった。


 ……うん。分かるよ。何が言いたいかは。


 やってやろうじゃないか!!


「タダでいいんですよね?」


「あ? ああ、もちろんだ。本来は廃棄処分するところだったんだか、使い途が出来て良かった。好きなだけ持っていっていいぞ」


 いい人だな。ギルマス。


 顔が大きくて、懐も大きいんだな。


「ありがとうございます!! 早速、研いでみますね。この場所をお借りしても?」


「ああ、構わない。帰るときに受付にでも声を掛けてくれ。ただ、あまり欲張るなよ。後で処分に困るからな」


 ギルマスは手を上げて、その場を離れようとしていた。


 そういえば、聞いておきたいことがあったんだ。


「あの、スキル屋ってありますか?」


「あん? どういうことだ? 駆け出し冒険者が行くような場所では……なんだ、お前。借金でもあるのか? だったら、少しは相談に乗るぞ」


 あれ? 凄くいい人だ。


 金銭絡みで親切にしてくれる人は、本当にいい人なような気がする。


「借金とかではなく……なんというか、目標です。スキル屋でスキルを買うことが。だから、どの街でもスキル屋を覗くことにしているんです」


 なかなかいい答えだったな。


 さすがに大金があるから、買うのは余裕ですともいえないし。


 スキル授受のスキルを探しているとも言えないからな。


「変わった目標だな。まぁ、冒険者は目標があったほうが、やる気がちげぇからな。何でも目標は持つことはいいことだ。だが、残念だな。スキル屋はサンゼロにはねぇな」


 残念だ……。


 少しでもスキル授受の情報を手に入れる機会があればと思ったんだけど……。


「でもまぁ。そう悲観するな。もしかしたら、近々、教会支部が来るかも知れないんだ。そうなれば、スキル屋も付いてくる可能性が大だな」


 教会支部?


「ああ。ダンジョンと教会支部は切っても切り離せない関係なんだ。今回は少し遅れているが、近々やってくるはずだ。教会がサンゼロを無視できるとは思えないからな」


 ギルマスが何を言っているのか分からなかったけど、とにかくスキル屋が来るかも知れないという希望は聞けた。


 今はそれで十分だな。


「話はそれだけか?」


 頷くと、「じゃあな」とだけ言って、倉庫から離れていった。


「さて、研ぎますか」


 ミーチャはその辺りの剣を手に取り、ぷらぷらと揺らしている。


「こんなの使えるの? どうみてもオンボロよ」


「ふっ……僕の手にかかれば、オンボロも名剣に生まれ変わらせてやるさ。それに勘が告げているんだ。この中に凄い名剣がある気がする」


 ……完全な思い込みだった。


 名剣? そんなものはどこにもない。


 ほとんどが朽ち果てる寸前の武器ばかり。


 なんとか使えそうな物でも、研ぎ技術がない僕にはただただ、すり減らすだけの行為だった。


 試し切り?


 する必要はない。だって、手で簡単に折れちゃうんだもん。


 ……武器はしばらく諦めよう……


 『戦士』スキルの活躍の場はまだ、先の話のようだ。

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