第42話 初クエスト
目の前にクエストが表示されているボードがある。
何度も再利用しているであろう古びた紙は、黒ずみが酷く、一見すると何が書いてあるか分からないほどだ。
紙には赤いインクでBからFまでのスタンプが押されており、受理できるランクがひと目で分かるようになっている。
ギルドが提供するクエストは、大別して、国からの要請によるもの、ギルドが直接依頼するもの、外部からの依頼に分かれる。
国からのものはAまたはS級に多い。
ギルドからのものは、BからD級に多い。
外部からのものは、幅広くSからFまで難易度に応じて割り振られている。
僕達が探すクエストは当然F級のスタンプが押された紙だ。
昨日までは薬草採取とドブ攫いがあったはず……。
増えていることを祈って、覗いてみるが……。
……薬草採取がなくなっている、だと?
……まさか、残っていた一つが取られてしまったというのか?
こうなったら……
「ミーチャ。ドブ攫い……行くかい?」
「変よ!! 薬草採取がなくなるなんって、ありえないわ」
たしか、ミーチャは薬草採取の経験が豊富だった。
今までの冒険者家業で稼いできたお金のほとんど……いや、全部が薬草採取によるものだ。
「どういうこと? 現実にないんだから、変も何もないと思うんだけど」
「分かってないわね」
そりゃあね。昨日登録したばかりだし。
「薬草採取はギルドが提供する、いわば低級冒険者への初心者クエストみたいなものなの。それに薬草の需要が無くなるとは思えないし……どう考えても、変よ……」
つまりは冒険者の予行練習みたいなものってことか。
なるほど。無くなるってことは初心者冒険者には仕事を斡旋しないという風にも捉えられるってことか。
マズイじゃん!!
「受付のお姉さんのところに……」
「ねぇ、ちょっと聞いても良い? どうして、あのお姉さんなの? 別に他の人に聞いても良いんじゃないの?」
言っている意味が分からない。
こういうことは受付の人に聞くのが間違いないと思うんだけど……。
というわけで、他の人に聞きました。
「あのぉ。ちょっと聞きたいんですけど……」
ギルドの人がいたんだけど、パッと見、仕事が出来無さそうだから違う人に行こうとしたら、ミーチャがこの人がいいと薦めてきたんだ。
「ああ。それについては、ギルマスから後で説明があると思いますが……実は、ダンジョン外郭が拡大していると言う報告があり、現在、F級が採取できるエリアが外郭として指定されるか、議論をしているところなんです」
意外とまともな答えが返ってきた。
仕事が出来ないと思って、ごめんなさい!!
ダンジョンの外郭に入れるのはC級以上ということになっている。
外郭より外にはモンスターが出現しないということで、低級冒険者用に薬草採取の場として開放されている。
その場所にモンスターが出没するとの報告が上がり、外郭の拡大が検討されているというのだ。
「ということは、当分は薬草採取が出来ないってことなんですか?」
「申し訳ありませんが、そういうことになります。結論はすぐに出るとは思うんですが……」
どうやら、いつまでということは言えないらしい。
『戦士』スキルが遠のくの騒ぎではない!!
冒険者としての活動も怪しくなってきたぞ。
すると、ミーチャが僕の肩に手を置いてきた。
笑っている? いや、苦笑いか。
「知ってる? 私ってそろそろE級に昇級出来るくらいにはポイントが溜まっているのよ」
そうだね。
僕が商人の真似事をしている間に毎日、冒険者をやっていたんだからね。
それが?
「ロスティは、ポイントがゼロ。この違いは大きいわ」
だから何?
「一緒にE級に昇級したいと思っているのよ。私は。だから……仕事を一旦、休もうと思うの」
ん?
「……一人で頑張ってね……ドブ攫い」
……逃げた? うん、絶対に逃げてるよね?
「ミーチャはドブ攫い、嫌なの?」
「ううん。私はロスティの為を思って言っているの。決して、嫌だとか、サボりたいとか言っているわけではないの。でもね。安心して。ドブ攫いをして帰ってきても、嫌な顔ひとつしないで出迎えるから」
暗に臭いといいたいのか?
……まぁ、いいか。
「分かったよ。でも、宿でのんびりしているって訳にはいかないだろ? 情報収集をお願いしてもいいかな? 特にスキル授受に関するスキルのことをお願いしたいんだけど」
「ドブ攫いよりマシ……じゃなかった……うん。分かったわ。とびっきりの情報を得てくるわ!!」
やっぱり、ドブ攫い、嫌なんじゃないか。
まぁ、女の子にやらせる仕事ではない……って思うようにしよう。
ボードに再び目を向けると、ギルドの人が新たに紙を貼り付けていった。
もしかしたら、F級の仕事が増えたかもと期待していたら、なんとF級のスタンプが!!
やった!!
これでドブ攫いの仕事をしなくても……ミーチャの悔しがる顔が目に浮かぶな。
文字を見ると……ドブ攫いだった。
本当にね……どんだけ、この街はドブが溢れているの?
もういいや。新しく入ってきた紙を剥がし、受付のお姉さんのところに持っていった。
「さっそくのクエストを受理させてもらいますね。詳細はこの紙に……」
手続きはあっさりとしたものだった。
「それと……これを手渡しておきますね」
一枚のカードだった。
紙ではなく、固い材質で出来ているもので、ちょっとやそっとでは壊れなさそうだ。
「これは?」
「ギルドの会員証です。それがあれば、全国のギルドで仕事を受けることが出来ますよ。ちなみに、そのカードは魔道具となりますので、紛失をなさいますと再発行に10万トルグ必要になりますから。失くさないようにしてくださいね」
高っ!!
こんなカードが10万?
正直、持ちたくないだけど。
「あっ、ギルドでの保管は出来ませんので。こういうのも何ですが……ダンジョンで命を落としたときに身分証の代わりになるものなので……肌身離さずに……ほら、ダンジョンだと原形が……それ以上は分かりますよね?」
分かりたくないけどね。
そういうことであれば、大切に一番大事なところに隠しておこう。
ズボンにもぞもぞとしまい込み……完璧だ。
「そんなところに入れる人は初めて見ましたけど……私に手渡す時は、ちゃんと拭いてからにしてくださいね」
失礼な人だ。
僕はこれでも毎日、体は清めているんだけど……
カード入れか……考えてみれば、荷物を入れる小袋が欲しいな。
今度、ミーチャと探しに行くか。
さてと……行くか!! ドブ攫いに。
「あっ、最後に。この仕事は民間からの委託ということなので、依頼者から完了のサインだけは受け取ってきてくださいね。それがないと、クエストクリアとは見做されませんから」
「了解しました!!」
ミーチャは、すでにいなくなっていた……
そんなに急いで情報収集をしなくてもいいのに……まったく、真面目だな……。
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