第30話 スキル交換

 爺さんが二度ほど手を叩くと、ずっと部屋の前で待機していたであろう少年ポポがすぐに入ってきた。


「ちょっと来なさい」


「はい。旦那様」

 

 急に呼び出してどうしたんだ?


 そうか、ずっと話していたから、お茶でも飲みたくなったのか?


 そういえば、僕も飲みたくなってきたな。


 ちょっと催促気味の表情を浮かべてみたが、全く違うことで少年を呼び出したようだ。


「お主。この子とスキルを交換する気はないなの?」


「は?」


 急な事で僕は爺さんが何を言っているのかさっぱり分からなかった。


 それよりも、お茶じゃなかったの?


「フォフォフォ。急にスマンの。実はの、この子は儂の孫なんじゃが、商人系のスキルを得ることは出来なかった。もちろん、買うことも考えたが、役に立つ上級なスキルとなると手に入れることが難しくてな。今の今まで何も出来なかったのじゃ」


「はぁ」


「それでな。お主の『買い物』スキルなのじゃが。ライアンの話を聞く限り、かなりの熟練度と聞く。ちなみにじゃが、お主はスキルの熟練度は分かっておるのか?」


「全く分かりません」


 スキルの熟練度は教会に行かなければ、分からないらしい。


 しかも、かなりの高額を請求されるらしいので、今の今まで調べることが出来なかった。

 

「ふむ。ならば、儂の店でもっともお買い得な物を持ってきてくれんか? それで大体分かるはずじゃ」


 爺さんの言っている意味がよく分からなかったが、それが頼みというのであれば、聞かないわけにはいかない。


 少年に同行してもらって、商品が陳列されている場所に向かった。


 貴金属店だけあって、どれもが綺麗な装飾が施されていて、値段もかなり高い。


 その中で僕はスキルを使ってお買い得品を見つけた。


 とてもシンプルな作りの銀色のネックレスだった。


 値段は然程ではないが……。


 僕が商品を指差すと、ポポは丁寧に取り出し、箱に移してから、爺さんの元に向かった。


「ほお。これを選ぶか……ふむふむ。なるほどの」


 爺さんが一人で納得したかのような顔を浮かべる。


「おそらくじゃが……お主の『買い物』スキルは☆6に達しているじゃろう」

 

 ☆6……? 


 たしか、熟練度は星8が限界だと協会が言っていたと聞いたことがあるな。


 凄いのか、凄くないのかいまいち分からないな。


「あまり凄さが分かっておらんようじゃな。☆6となれば、王国内の将来の価値を把握しているんじゃろう」


 つまり、今は価値がなくても、将来的に爆発的に価値が上がるようなものをスキルを通じて見ることが出来るってこと?


「うむ。この金属はメタニウムという金属なんじゃが、銀の代用品程度の価値しかなかったんじゃが、新しい加工法が見つかってから価値が大きく変わりそうなのじゃ。儂が極秘裏にその情報を得たのが昨日。まだ価格は決まっていないが、これからかなり価値が上がるじゃろう」


 爺さんの言っていることがいまいち分からなかった。


 とにかく、『買い物』スキルが随分とすごいスキルに変わっていることに驚いた。


 最初は露天のお買い得品しか分からなかったスキルが……王国の将来の相場まで見通せるようになるとは。


 ポポもかなりビックリしたみたいで、口を大きく開けていた。


「これは本当にすごいのぉ。このスキルがあれば、何でも底値で買えるというものじゃ。いやはや、大儲けが出来るの」


 爺さんが一人悦に浸って喜んでいるが、僕としてはそんな凄いスキルがありながら、商売が出来ないことにショックを受けていた。


 もっと、儲けられたかも知れないのに……。


「いや、すまんすまん。儂一人で喜んでしまったの。さて、ここからは商談じゃ。儂の孫とスキルを交換するという話じゃ。孫のスキルは……☆1の『戦士』スキルじゃ。戦闘系の総合スキルに分類されるからなかなかのスキルじゃな。一方、お主は基本スキルの☆6の『買い物』スキルじゃ」

 

 足元を見られているようだが、断る理由はない。


 それに商人になれない以上は、戦士として冒険者となるのは悪くない。


 それに『戦士』スキルはいいスキルだ。


 近接の武器は全て扱えるし、肉体の強度が上がるので盾役として活躍することができる。


「ふむ。『戦士」スキルは価値も高く、☆1でも1億トルグは下らないじゃろう」


 そんなにするのか……でもスキル屋の事を思い出せば、不思議でも何でもないか。


 そうなると『買い物』スキルは500万で買ったんだから、その差額を払うことになるのか。

 

 また、所持金がなくなっちゃうな。


「お主のスキル。『買い物』スキルの☆6の価値は……3億トルグの評価はあると思っておる。正直、☆6なんぞほとんど流通しないほど希少じゃ。3億でも少ない気もするが……」


 3億、だと!?


 500万トルグが3億トルグに化けてしまったっていうこと?


 しかも、安いかも知れないとは……。


 とはいえ、この機会を逃す手はない!!


「そ、それでいいです!!」


「お? そうかの? それじゃあ、交換をして差額の2億トルグをお主に渡すということで良いかの?」


「も、もちろんです!!」


 大金と新たに『戦士』スキルが手に入ることに大喜びしていると、爺さんが訝しげに見つめてきた。


 あれ? 喜んじゃダメだったかな?


「儂がこんなことを言うのはなんじゃが……本当にいいのかの? このスキルは代々受け継がれたものなんじゃろ? それを手放してもよいのか?」


「えっ? 代々ってどういうことですか?」


「熟練度なんて一世代でそう上がるものじゃない」


 爺さんの話は初めて知ることだった。


 どうやら、世間に出回る☆6のスキルはどれも何代にも渡って熟練度を高めていった結果のようだ。


「このスキルはこの街に来てから買ったものですよ」


 その言葉に爺さんはぐいっと前のめりになった。


「☆6のスキルが売っていたというのか?」


 多分・・…違うよね?


「いいえ。多分、☆1だったと思いますよ。500万トルグでしたから」


「どういうことじゃ? 信じられんの。お主がこの街に来てから一月も経っていないではないか。そんな短い間に☆6にしたというのかの?」


「分かりませんが、そうなりますね」


「ううむ……もし、それが本当なら、その秘密は誰にも言わぬほうが良いかも知れぬのぉ。スキルはこの世界では命よりも価値があるのじゃ。熟練度を簡単に上げてしまうお主に危害を加えてくる者が必ず出てくるじゃろう。用心することじゃ」


「でも、僕にはなんでそうなるか、思い当たりが……」


 理由を考えていると、初代様の手紙を思い出した。


 まさか……。


「儂はこれ以上は聞かぬ。だが、本当に信頼できる者以外には教えないことじゃな」


「分かりました」


 とうとう、秘密が……『錬成師』スキルというものが、どのようなものかが何となく分かり始めてきた。


「ふむ。では交換をしようかの」


「そんな簡単に出来るんですか?」


「いや、無理じゃな。これからポポと二人で教会に行ってくるのじゃ」


 僕達は商業ギルドに見つからないように教会に向かった。


 一ヶ月ほど、共に戦った『買い物』スキルを手放し、『戦士』スキルを得ることになった。


 さらに白金貨20枚、2億トルグという大金を受け取った。


 更に、ライアン店長に預けた荷物の代金も受け取り、所持金が一気に増えてた。


 所持金 4億1000万トルグ

 所持スキル 『買い物』スキル ☆6? ⇒ 『戦士』スキル ☆1

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