第22話 良き出会い
王都の相場表を手に入れた僕は、それを見つめながら安い商品を探すことにした。
これがあれば、『買い物』スキルは要らない? そんなことはなかった。
「ダメだ。こんな事をしていたら、買い物なんて出来ないぞ」
ボリの街はそれなりに大きな都市だ。当然、商品を売る店舗の数も多い。
その店を一つずつ回り、相場表とにらめっこしていては、いくら時間があっても足りない。
その点、『買い物』スキルは楽だ。どこの相場を基準にしているのか、もはや分からないけど、一発でお買い得品を教えてくれる。
「やっぱり、スキルを頼った方が良さそうだな」
スキルの有用性を再確認することが出来た。
昨晩、相場表を手に入れたことをミーチャに話した時のことだ。
「ふぅん。それがあったら、私でも商売の真似事くらいはできそうね」
絶句してしまった。『買い物』スキルと相場表があれば!! と思っていたが、言われてみれば相場表だけでいける。
トワール商会いう確かな売り先があれば、誰にでも出来そうな商売だ。
その時は、言い返せなかったけど、『買い物』スキルを使った商売の持ち味はとにかくスピードだと思う。
いや、そう思うことにした。
相場表を握りしめ、ズボンにしまい込むとスキルを発動して、お買い得品を探していく。
八百屋でも毎日のように何品か買い占めるのが常態化していた。
どんどんサービスが増えていくことに若干閉口しているが……。
今回は野菜以外にもお買い得品かないか、買い場所を求めて、中心区にある高給な商品が並ぶ区画にやってきた。
資金力がない頃は通り過ぎていたが、今は違うぞ。
ここには食料品を扱う店はほとんど無く、服飾や宝石、魔道具など多少値が張るものを扱う店が並び、客層も露店市とは全く違う。
一店一店、覗くように物色を始めた。
しかし、店員の様子が変だ。僕をかなり疑うような目で見てくるのだ。
数店回って、同じ反応をされたので間違いはないな。
なにか……あるぞ。といっても理由なんて自分ではわからないものだ。
とても気になったが、さすがに店員に聞くわけにもいかない。
その視線に耐えながら、店々を回っていると、行き着いたお店があった。
そこは布などの生地を取り扱う店だ。ひっそりとした佇まいで、一見すればお買い得品が? と思うかも知れないが……
店内の覗くと、それは見ていられないほどだった。
どれもこれもお買い得品だ。店に陳列された商品すべてが、真っ赤に光るなんて、八百屋でもなかったぞ。
「すごいな……。大変な店を見つけてしまった」
元手は、日々増えていき、二百万トルグにまで増えていた。
最初が90万トルグだから……約倍だな。よくここまで増えたものだ。
お買い得品に注目して、全額分、購入するつもりだ。宿代なんて考慮する必要はない。
「すみません。この生地が欲しいんですけど……」
店員は若く、すこし暗い感じの女性だった。物腰が低く、弱々しい感じで商人といった感じ印象ではない。
手伝いか何かかな?
「こ、こちらの商品、ですか? 一反で50万トルグしますが……買わないですよね?」
商品に自信がないのかな? それとも僕が客として貧相な感じがあるからなのかな?
しかし……高いな!! 今まで一個何十トルグという世界だったのに、急に跳ね上がったぞ。
でも、この生地が一番お買い得品とスキルは言っているんだよな。そうなれば、結論は変わらない。いつも通りだ。
訝しげにこちらに見る店員に意を決して答える。
「もちろんです。それを200万トルグ分頂きたいのですが……」
そういうと、急に店員が泣き出した。
「す、スミマセン。すごく、嬉しくて……」
なんて返せばいいんだろう。しかし、やっぱりやぁめた!! なんて言えない雰囲気になってしまった。
……まさか、これが店員のテクニックというやつか? だとしたら、なかなか食えない女性だ……。
「お客様の前で申し訳ありませんでした。少々お待ちください。すぐに用意しますから。ああ、その前にお茶を用意しますね」
店員の態度は一気に変わったのが気になるが……まぁいいか。そんなのは、他の店でも経験済みだ。
店員が奥に入っていってからも商品を見つめる。
「この店は当たりだな。八百屋に続いて、いい店を見つけることが出来たな」
しかし、疑問だ。生地屋に限った話ではないが、お買い得品が多い店とそうでない店がある。
一体、何の違いがあるんだろうか? この秘密を知れば、これからの商売の役に立つはずなんだが……。
「お待たせしました。四反分ですね。ご確認ください」
スキルを発動すると、四反がまぶしく輝く。
「これは凄いですね!! 光り輝いている」
「お客様はお言葉がお上手ですね」
いや、本当に。目も開けていられない。
「これはうちの工房の職人が自信を持って作り上げた最高級品なんですよ。ただ……」
店員は一瞬影を落とした。女性の落ち込んだ姿を見るといたたまれなくなるな。手を貸したくなってしまう。
「何かあったんですか?」
「実は自信作の割に全く売れなくて……作るのを止めようと思っていたんです」
「なるほど」
不思議なものだな。スキルはこの店で一番のお買い得品だと教えてくれている。
それが売れないとは……待てよ。ということは、競合相手が少ないってことは、仕入れもしやすいってことじゃないか。
いやいや。待てよ。この生地が王都でどれほどの価値かは全く分からない。
もしかしたら、安くなってしまうかも知れない。少女を助けてやりたいが、ここでは不用意なことは言えないな。
「これほどの商品が勿体無いな」
「ありがとうございます。でもお客様が買って頂いたおかげで、在庫も少し減りましたから、良かったです」
二百万トルグという大金を支払い、トワール商会に向かった。
店員は何度も何度も頭を下げて、お礼を言ってくれた。これがいい出会いとなった。
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