第17話 商業ギルド
宿の部屋で二人っきり。逃避行から、落ち着くことが出来なかったけど、ようやく、それが出来る場所にやって来たんだな。
ベッドに座わると疲れが一気に体にのしかかってくる。横になったらすぐに寝てしまいそうになる。だが、そういう訳にはいかない。
横にミーチャがいる。密室に若い男女……これはマズイ!! な、なんで服を脱ぎだすんだ。
なんだ、上着だけか。しかし、なんで僕はこんなに動揺しているんだ? 上着を脱いだだけだぞ。
と、とにかく、話題を作るんだ!! 精神がどうにかなってしまう。
「ミ、ミーチャ……歩きながら考えていたんだけど」
ミーチャがちょっと不満そう? いや、そんなことはない……はずだ。
『買い物』スキルを使って、商売をする方法を考えていた。
『買い物』スキルは、お買い得品を教えてくれる。これを使って、ボリの街で底値で買ったものを相場で売るというものだ。
大した儲けにはならないかも知れないけど、多少は稼げるはずと思うんだ。
「いいかも知れないわね。実際、このオレンジは他ではもっと高かったものね。明日から早速、やってみましょうよ」
僕は頷いた。同時にもう一つ、気がかりなことがある。いや、これからのことを考えると、かなり重要なことだと思う。
「それでさ、店主が言っていた熟練度については、どう思う?」
ミーチャは首を傾げていた。
通常、熟練度は最初は上がりやすく、徐々に上がりにくくなるものだ。
これは『鑑定』スキルがないと見れないことだ。
ちなみに、教会が言うには熟練度は☆8段階あるらしい。昔は☆10段階あると言われていたけど、最近になって訂正されたみたいだ。
☆9以上はこの世界には存在していないってことなんだろう。
「私も今の熟練度は分からないけど、最後に調べた時は☆3だったわ。それでも驚かれたものよ。三年で☆3は凄いって。もしロスティの熟練度が上がっていたなら、数時間で上がったことになるわ。多分、誰も信じないと思うわよ」
通常の感覚ならミーチャの言う通りなんだろうな。とりあえず、保留にしておくか。
「まぁ、今は調べる方法がないんだから考えたってしょうがいないか」
「そうね。じゃあ、手元に90万トルグがあるんだから、全部使いましょう」
ミーチャの思いっきりの良さはどこから来るんだ? 財宝があるとはいえ、このお金は僕達の全財産なんだぞ。
「えっ!? 全部?」
「それはそうよ。儲けが少ないなら、元手を増やすしかないんだから」
失敗したらとか考えないのだろうか? 僕とミーチャはこれから事を話し合いながら、夜が更けていった。
翌日……二人で初めての夜を迎えたが、疲れ切っていたためベッドに入った瞬間、寝てしまった。
「おはよう。ロスティ」
朝一番に見るミーチャは本当にきれいだった。
「うん。おはよう。ゆっくり休めた?」
そんな他愛もない話から朝が始まった。
ゆっくりと休めたおかげで、今日は気分がいいな。
今日ははじめて『買い物』スキルを使って商売を始める日となる。
「ロスティ、どこから始めるつもりなの?」
「そうだな。まずは情報収集から始めるつもりだよ。どこから手を付けていいか、分からないからね」
情報収集が基本だ。誰に教わったわけではないけど、まずはそれをやらないと間違いなく失敗する。
「それがいいわね。私はその間に冒険者登録をしてくるわ。少しでも稼ぎ口を見つけておきたいしね」
闇魔法の使い手であれば、冒険者でも十分にやっていけるだろう。僕もずっと武芸を嗜んできたんだから、出来れば、冒険者で生計を立てたかったんだけど。
「ミーチャ、済まないな。君には苦労をさせてしまう」
「フフッ。大丈夫よ。冒険者って言っても、モンスターとかを倒すわけじゃないもの。薬草採取とか、誰でも出来る仕事しかしないつもりだから、大して稼げないと思うわ」
冒険者にはいろいろな仕事がある。モンスター討伐や傭兵、薬草採取……その難易度に応じて、褒章が与えられるというものだ。
「だから、ロスティには期待してるからね!!」
「……頑張るよ」
こうして二人は別々に分かれて、各々が得意とする分野で金稼ぎをすることになった。といっても僕はまだまだ何も分かっていないけど。
ミーチャを見送ってから、情報収集をするために行動を移すことにした。
「で、俺のところに来たと。お前、頭おかしいんじゃないか?」
スキル屋にやってきていた。
この街で知っているのは、スキル屋のヤピンと八百屋の店主だけだ。
さすがに商売敵となるかもしれない八百屋は情報を教えてくれないと思い、こっちにやって来た。人脈作りもこれからの課題だな。
「まったく……まぁ、『買い物』スキルで安く仕入れて、高く売るのは分かりやすいな……とにかく商売をしたいなら商業ギルドに行け。あそこなら、その辺りを親切に教えてくれるだろうよ」
スキル屋はやっぱり良い奴だった。ここで行き詰まっていたら、どうなっていたか。
「ありがとうございます。知り合いと言えば、貴方しかいなかったから」
「まぁ、頼られるのは悪い気分じゃねぇな。スキルの事以外だったら……金は取らねぇから、いつでも来な。茶くらいは出してやるよ」
なんていい人なんだ。スキンヘッドに悪い人はいないのかも知れない。ヤピンに礼を言ってから、商業ギルドに向かった。
どうやら商業ギルドは商売の全てを司る組織のようだ。各領主が運営する組織で、かなり強い自治権が認められている変わった組織だ。
そのため、王国でも口出しできないほどの組織で、冒険者ギルドと対となる二大組織となる。
もっとも王国は二大組織と対立する関係ではなく、各領主ともども協力関係にある。組織から税金を取り、組織から出た犯罪者を領主の兵が取り締まり、王国が支援をしているみたいだ。
「ここが商業ギルドか……でかい建物だな」
商業ギルドはボリの街の真ん中にある象徴的な建物だ。中に入ると商人風の人達がたくさんいて、そこかしこで商談をしている。
まっすぐに受付に向かった。
「ようこそ。商業ギルドへ」
綺麗なお姉さんが対応してくれるようだ。
「商売を始めたければ、商業ギルドで話を聞くように伺ったんですが」
「ああ。商売をしたいのですね。それでしたら、商業ギルドから商売の許可状を発行することで商売を始めることが出来ますよ。商売は何をなさるつもりですか?」
「その辺りもまだ決めていないんです」
受付のお姉さんは首を傾げ、訝しげな視線を向けてきた。
「決めてない? 失礼ですが、修行経験はどちらで積みましたか?」
「えっ!? 修行? 僕は修行はしていませんが」
そういうとお姉さんは驚いたような表情を浮かべた。驚いていると言うか、呆れているという方がいいかも知れない。
あれ? なんかマズイことでも言ってしまったのか?
「経験がない?……じゃあ、『商人』スキルをお持ちということでしょうか?」
「えっ? 『商人』スキルですか? ないですよ」
そういうとお姉さんは大きなため息を漏らした。
「あの……申し訳ありませんが、商業ギルドは貴方に許可状を与えることは出来ません」
「な、なぜです!?」
急に目の前が暗くなった思いがした。もしかして、ここで商売できないってこと?
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