第18話 拾う神?
絶望をしながら、商業ギルドの受付のお姉さんの顔を見る。
「商業ギルドは適正な商人に許可を与えることで信頼を得ています」
商売する資格がないにもかかわらず、お姉さんは商業ギルドの役割を説明してくれた。
つまりは僕は商人としての信頼が担保されていないから、ダメだというのだ。
「修行経験を積むか、『商人』スキルをを得てからもう一度来てください。その時は許可状をお出しします」
最後までは親切に教えてくれたお姉さんに頭を下げて、受付を離れた。
どうしよう……真っ先に浮かんだのはミーチャの笑顔だった。あの笑顔を守りたかったのに、いきなり躓いてしまった……。
「困ったな……商売が出来ないなんて……」
シュンとなっていると、僕に手招きをしてくる爺さんがいた。無視だ。今はそれどころではない。
しかし、何度も何度も手招きをしてくる。正直、勘弁してほしいが……。
なんだ? この爺さんは……いかにも怪しいって面をしているが……
「へっへっへっ。あんた、商売したいんだって?」
いきなりの言葉にどきりとした。爺さんは商売が出来ない僕をバカにするために呼んだのか?
「話を聞いていたのか?」
「あれだけ声が大きければな」
やはり嫌味か?
「それで何のようだ?」
「ここじゃあ……」
急に立ち上がった爺さんはよぼよぼした足取りで、先に進むように進んだ。
当然、付いていくわけがない。立ち止まっていると、こちらを振り向き、手招きをしてくる。
一体、何なんだ?
ついには、ギルドの裏にやってきた。怪しかったが、こうも執拗にされると気になってしまうものだ。
「さて、三万トルグもらおうかの」
爺さんに恐喝されている!? まさかの事態に思考が停止してしまう。
「はあ? 何を言っているんだ!?」
恥ずかしながら、そんな言葉しか出てこなかった。
「そうかい。儂が教えるのに、それだけの価値があると思うんじゃが。特にお前さんにはな」
なんだ、この意味深な発言は。
「どういうことだ?」
爺さんは答える気はないようだ。
こんな得体の知れない爺さんに貴重なお金を渡すわけがない。すぐに踵を返して立ち去ろうとすると、爺さんとは思えない程の力で、腕を掴まれた。
「一万でどうじゃ?」
まだ言うのか……。
「どうじゃ、じゃない。爺さんは乞食か? だったら、他を当たることだな。僕は無駄な金を使うほど余裕があるわけじゃないだ」
「まぁ、そういうな。ところで、お主はどんな商売をするつもりなんじゃ?」
「爺さんに言っても仕方がないだろ?」
「まぁまぁまぁ。儂はこう見えてもこの街は長い。何かヒントを与えられるかもしれん。それに見たところ暇そうじゃないか。爺さんと会話するくらいの優しさがあってもええじゃろ?」
爺さんの懇願してくる姿を振り切る事が出来ず、つい話してしまった。
「ほう。転売か……それは面白そうじゃな。そうなると、売り先が問題となりそうじゃな。ギルドの許可状がない者から買い取ってくれる業者なんて……いや、おったな。そんなのが」
爺さんの言葉に魅入られるように、食いついてしまった。
「ほ、本当か?」
「ああ。知っているとも。教えてやってもよいが……」
こういう焦らされ方をするのは嫌いだ。
「是非、教えてくれ!!」
「五万じゃ」
何言っているんだ? この爺さんは。ボケちまって、さっき言ったことを忘れてしまったのか?
「さっきは一万って」
「はて、そうじゃったかの? 情報は高い。覚えておくんじゃな」
この業突く爺が!!
袋から五万トルグを取り出し、手渡そうとした。寸前のところで止めた。
「なんじゃ。くれんのか?」
「まずは三万。情報が正しいことが分かったら二万だ。僕も余裕がないんだ。適当なことを言われるのは困るんだ」
「ホッホッホ。それくらい疑り深い方が良いのお。良かろう。売りたい業者を探しておるんじゃったな」
首を縦に振った。
「それは儂じゃ。実はな、こう見えても商いをしておってな。何でも取り扱っている。お主が物を持ってくれば、相場で買ってやるわい。どうじゃ? 悪い話ではなかろう」
どうじゃ、も何も。怪しすぎないか? こんな虫のいい話が向こうから転がり込んでくるものなのか? それとも、何か裏でもあるのか?
「疑り深いやつじゃの。じゃあ、店に案内してやる。それで信用してもらうしかないの」
爺さんはギルド裏から表通りに向かい歩き始めた。よぼよぼだから、歩いているのか止まっているのかわからない速度だ。
ギルドからほんの少しの場所だったが、時間はかなりかかってしまった。そこには、この街でも見かけないほどの立派な店構えの建物があった。。
「ここじゃ」
いやいやいや。絶対、嘘でしょ。こんな数万を無心してくるような爺が大店の店長な訳無いだろう!!
そんなことを考えていると、爺さんが正面から店に入っていった。
「爺さん。怒られるぞ」
爺さんは気にする様子も無かった。
何かあったときにはすぐに引き連れ出そうと後ろから付いていくと、店員らしい者が爺さんに駆け寄ってきた。
ほら。やっぱり。こんな小汚い爺さんだ。追い出されるのが容易に想像がつく。
「旦那様。おかえりなさいませ」
へ? だ、旦那様!? 信じられない光景だ。
店員達が一斉に爺さんに頭を下げている。爺さんは当たり前かの様に手を上げ、店員たちを労っていた。
「うむ。さぁ、皆仕事に戻れ。ああ、この若者にお茶でも出してくれ」
「畏まりました」
呆然として突っ立っていると爺さんが手招きをしてくる。
「はよ。こっちに来んか」
「あ、ああ」
この店はどうやら宝石や装飾品を取り扱っているようだ。ところどころ赤く光っている商品が目に付く。
「いい目をしておるの。やはり、儂の睨んだ通りじゃな」
「どういうことだ?」
どうやら爺さんは、僕に『買い物』スキルを持っていることをなんとなく察していたようだ。理由を聞いても全く分からなかったが。
「勘じゃ!!」
と言われて、納得するやつがいるのか?
「儂はな、商業ギルドのやり方が昔から気に食わなかったんじゃ。これから商売をしたいと思っている連中を選別しようとする。儂が商売を始める頃はもっと自由で、街は今以上に活気があったものじゃ。儂はな、お主を応援したいと思っているんじゃ」
急な話でなんと言えばいいんだ?
「はあ。それは有り難い話だが……爺さんになにか利点があるのか? こう言っては何だが、ギルドに目をつけられたりはしないのか?」
「それは分からん。じゃが、誰かがやらねばならぬ。儂は爺じゃ。ちょうどよかろ?」
爺さんが何を考えているかまでは分からなかった。けれど、渡りに船とはこの事だ。危険そうな船だが、乗ることにした。
「爺さん、これからよろしく頼みます」
「ほっほっほっ。任せておけ。儂を使って、うんと儲けるが良い。そのうち『商人』スキルも買えるようになるじゃろ。そうすれば、大手を振るって商売が出来るというものじゃ」
そんな急には儲けられないだろうと思っていたが、爺さんを見ていると不思議と自信が湧いてくる。
早速仕入れだ!! 爺さんの元を去ろうとしたが……爺さんが怖い口調で呼び止めてきた。
「二万……忘れてはおらんか?」
金持ちのくせに……。
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