第12話 王国領へ
どうやら空耳ではなかったようだ。ぞろぞろと関所の中から衛兵が飛び出してきて、僕達に向かって走ってきたのだ。
こうなったら逃げるしかない。
「折角、うまくいってたのに!! ミーチャが余計なことを言うから!!」
「だって、腹が立ったんだもん!!」
幸い、国境を抜けて王国領に入っているんだ。逃げ切れば、無事に目的は達成できるぞ。
「まったく……」
ミーチャが僕を庇ってくれるのはすごく嬉しい。でも……。
「時と場所を考えてくれぇ!!」
全力疾走しながら、叫んだ。
しかし、向こうは何かのスキル持ちだ。一方、こっちは闇魔法使いとスキル無し。
追いかけられれば、逃げ切れる訳がない。みるみる距離が詰められて、捕まる寸前まで来た。
その時にミーチャが立ち止まった。僕も当然立ち止まらざるを得なかった。こうなったらミーチャだけでも……。
衛兵に構えを見せていると、ミーチャは衛兵を指差していた。
「影を追うといいわ。
辺りがモヤのようなものに包みこまれた。衛兵たちは、僕達の直前で急に視線を別の方向に向け始めた。
「森の方に逃げたぞ!! 追え!!」
僕達を横切るようにして、走り去っていった。
「くそっ!! 急に早くなった。そっちだ!! 回り込んでしまえ」
衛兵たちの声が遠ざかって消えていき、静寂な夜が再び訪れた。
「ふう」
ミーチャが大きなため息をして、手をゆっくりと下ろした。
「凄いよ!! ミーチャ。あれも闇魔法かい?」
凄い満々の笑みだな。余程、きれいに決まって気持ちよかったのだろうな。僕もあんな魔法が使えたらな……。
「そうでしょ? もっと褒めてもいいわよ」
「ああ、でも……ミーチャがやらかさなかったら、魔法も使う必要がなかったんだよね?」
「……それも、そうね」
熱くなった心もどこにやら……静かになった街道を王都に向け、歩いていった。
ちなみに国境から王都までは歩いただけでも三週間以上はかかってしまう。馬車でも一週間というのだから、かなりの距離があるはずだ。
「ロスティ……そろそろ休憩しましょう」
まだ一時間しか歩いていないのに、ミーチャの息が乱れていた。
「随分と体力がないな」
これからのことを考えると頭が痛い。いつ何時、襲われてもいいように体力だけはしっかりとつけさせないとな。ミーチャの華奢な体を見つめた。
月夜に輝く褐色の肌、出るところが出て……ヤバい。ドキドキしてきた。
「違うわよ!! これが重いだけよ」
そういってミーチャは担いでいた荷物を床に置いた。
そういえば、ずっと担いでいたけど……服とかではないのか?
置いた瞬間に明らかに重量物が入っているようなドサッとした大きな音が響いた。
「何が入ってるんだ? 中を見てもいい?」
「もちろんよ。中身はこれからの私達に必要なものなんですから」
何のことか見当がつかなかったが、中身が気になって仕方がない。大きな荷物の袋を開けてみると……
「なんだ、これ?」
これしか、言いようがなかった。中にはなんと……金や銀で施された財宝がぎっちりと入っていたのだ。
「ミーチャ。これは一体?」
「盗んできた」
えっ? あれ? この人は何を言っているんだ? 盗ん……だ? 立派な犯罪じゃん!! もう完全に尋ね人になっちゃったじゃん。どうすんの、これ?
「もう一度言ってくれないかな?」
大人気なかったと思うけど、ちょっと語気を荒く言ってしまった。そのせいで、ミーチャは怒られていると思って慌ててしまった……ように見える。
「ち、違うわよ。これは私が公家に行く時に王家から出されたものよ。いわば、手切れ金みたいなものかしら?」
手切れ金? なんかいい方が違うような……。
「婚約したときに公家に渡すつもりで預けていたんだけど、持ってきちゃった。別に問題ないでしょ?」
問題……無いのか? ダメだ。僕の頭では判断が付かない。婚約はしていないから、財宝は王国のもので……でも……少なくとも、ミーチャのものではないよね? やっぱり、ダメなんじゃ?
でもまぁ、これだけの財宝があれば……当面の生活に困ることはなさそうだな。
ああ、こうやって落ちるところまで落ちてしまうのだろうか……。公国を脱出して、早速盗人の片棒を担がされてしまうとは……
「でも、ダメよ。これは売れないの」
盗んできた意味ないじゃん!!
「ど、どういうこと⁉」
どうやら財宝が大切な物だから、とかそんなことが理由ではないようだ。
「私達は色々な意味でお尋ね者でしょ? こんな王家の縁がある財宝を売れば、どうなると思う?」
そんなことは、簡単だ。一発で足取りを掴まれてしまう……そうか、なるほどね!! ミーチャは賢いなぁ……。やっぱり、盗んだ意味ないじゃん!!
「正規のルートで売るのは、よ? この世界には足が絶対に付かない売り先っているのがあるものよ。とにかくそれを見つけないとね」
なんて頼もしいんだ。盗品であることをすっかりと忘れて、ミーチャを賞賛する自分がいた。
それにしても、僕はどれだけ世間に疎いんだ。ミーチャと一緒でなければ……想像するだけでも残念な気持ちになる。
ミーチャの財宝が当面は宛にならないとなると……
「そうなると母上から頂いたお金で当面を凌ぐしか無いか」
そういうと、ミーチャがなにやら考え込むような仕草になり、じっと僕を見つめてくる。そんな目で見られるとドキドキするんだけど……。
「そのことなんだけど……それでスキルを買ってみない? 手紙にも書いてあったじゃない? 『錬成師』スキルは他のスキルに作用するって」
確かに手紙にはそんなことが書いてあった。でも、どんな作用かまでは読み解くことが出来なかった。
もしかしたら、くだらない事かも知れない。そんなことに貴重なお金を使うのに躊躇してしまう。
「生活費くらいなら私が冒険者にでもなってでも稼ぐわよ。とにかく、これだけまとまったお金があるチャンスはこれからそんなにないはずよ。だからスキルを買うなら今しかないと思うの!!」
ミーチャの言うことは尤もだと思う。『錬成師』というスキルがあっても、身体能力はスキル無しと大差はない。そうなると働いて稼ぐことも難しい。
意を決したように、僕は頷いた。
「分かった。ミーチャの言う通りにしてみるよ」
「それは良かったわ。じゃあ、この先にあるボリの街に着いたら、スキル屋に行ってみましょう」
ボリの街。それは王都と公都の交易路にあり、中継都市として栄えている。
僕も一度、足を運んだことがあるが大きな都市らしく、活気があり、たくさんの店が立ち並んでいた。
ちなみにスキル屋というのは、スキルを売買できる教会が経営する唯一の店だ。
スキルの売買が出来ることに違和感があるかも知れないが、スキルは神から授かった物だが、それをどう使うかは当人の自由ということになっている。
当然、売ってもいいし、買ってもいい。ただし人から無理やりスキルを奪い取ることは出来ない。あくまでも本人の同意が必要だ。
なんにしても、王都までの長い道のり、休息は必要だ。
「朝までにボリの街に着きたいから急ごう」
「そうね!!」
ミーチャが再び荷物を担ごうとしたがやはり重そうだ。
「僕が持つよ」
「そう言ってくれると思っていたわ。ありがとう。ロスティ」
朝日が登る頃、なんとかボリの街になんとか到着することができた。
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