第10話 side フェ−イ公主①
ロスティが散々喚き散らした後、執務室を出ていった。
「喚きたいのは……私の方だと言うのに」
手にした書類をくしゃりと握りつぶす。
全ての予定がロスティのせいで狂ってしまった。
最近のナザール公国はとにかく景気が悪い。原因など分かりきっている。資源の枯渇だ。
風光明媚として有名な公国だが、最も優れたところは資源が豊富であったことだ。だが、それもかつての話。
今では掘っても掘っても水と土ばかりしか出ない。このままでは……公国は遅かれ早かれ破産してしまう。
そんなときにロスティという子供が生まれた。
ロスティは生まれながらに優秀で、成長してからも同年代と比べても頭一つ抜き出ていた。剣術、学問共に優れ、民たちからの評判も上々だ。
民たちからはロスティこそ、次の後継者にふさわしいという言葉を何度も聞いた。
ロスティならば……もしかして倒れかけている公国を立て直せるかも知れない。そう思い、まずは王国とのパイプを強化することにした。資源がないなら、政治で金を引っ張ってくるしかない。
その材料としてロスティだ。優秀なロスティに王家の姫を貰う。そうなれば、私の地位は王国内でも自然と上がるだろう。
目指すは王国の利権だ。なんとしてでも公国に引っ張ってきたいものだな。
私はその目標を達成することに夢中になり、王家から姫を貰う約束を取り交わすことが出来た。
「まったく、姫ごときを貰うためにさんざん金を使わされたものだな。クソ大臣が。私が利権を取ったら、まっさきに潰してやる!!」
だが、誤算があった。
王家から許しが出た姫というのが、まさか……だった。
「ふざけやがって!! 忌み子を宛てがうとは王家の連中……私にゴミを押し付けやがったな」
しかし、ここで抗議しては、今まで費やした金が無駄になる。姫は姫だ。ロスティならば、私の命令に忠実のはずだから文句は出まい。
そこでタラスが『剣士』スキルを取得することとなった。
「幸先は上々だな。しかし、タラスはダメだな」
なにせ、馬鹿だ。スキルは誰もが羨むほどのものだが、中身はどうしようもないカスだ。それでも貴族連中はタラスを後継者にしようとしてくる。ハッキリ言って、私は劣勢に立たされている。
このままではタラスを後継者として選ばなくてはならなくなる。私はなんとか、貴族連中を説得した。そして一年という猶予を得ることが出来た。
「これだけあれば十分だ。ロッシュは放っておいても優秀なスキルが手に入る。鍛錬は嘘をつかないからな」
その間に忌み子がやってきた。見るだけが吐き気がする。
タラスは正直、うるさいという印象しかなかったが、騒いでくれたせいで忌み子と食事をしないで済むようになった。それだけは感謝だな。
意外だったが、ロスティが私に楯突いてきたことだ。
驚いたが、大したことはない。所詮は子供の戯言。ロスティも後継者となれば、私の考えも分かるはず。
ついに、その時がきた。ロスティがスキルを得て、私が王国で飛躍する時が。
しかし……あろうことかロスティのクズは無能者だった。しょぼいスキルでもなんとかねじ込めたが、無能者だなんて……クズ以下だ。
まったくもって、虫唾が走る。クズを今まで大切に育てていたかと思うと。そうなると、『剣士』スキル持ちのタラスの方が百倍もマシになってくる。
「馬鹿だが、私がコントロールすれば済むこと。大人しくさせていれば問題はなかろう。なんで、最初に気づかなかったのだ」
私はタラスに促されるままに、貴族の前でタラスを後継者として認めることを宣言した。これで後戻りは出来ないが、私の選べる選択肢などこれしかない。
その夜……ロスティは脱走した。その話を聞いて、ゴミが消えたと清々した。無能者など、どうせ野垂れ死ぬのが関の山。死ぬまで使い潰してやろうと思ったが、手間が省けて良かったとさえ思える。
すると部下が妙な報告をしてきた。宝物庫から財宝が消えているというのだ。王家から姫の輿入れをするための準備金として下賜された財宝だ。公国にとって重要な財産だ。
「くそ。ゴミが……盗んだな」
すぐに衛兵を呼びつけた。
「ゴミ……いや、ロスティが公国の財宝を盗み、逃亡した。速やかに捕まえてこい!!」
「畏まりました。しかし、公主……」
こんな忙しいときに、なんのつもりだ?
「なんだ?」
「ロスティ様は……」
私は衛兵を睨みつけた。この期に及んで、様付をしている衛兵に腹が立った。
「失礼しました。ロスティは民からの信頼が未だ篤いです。捕まえたりすると民達が騒がないでしょうか?」
なるほどな。たしかに衛兵の言うことにも一理ある。あんなクズのどこに魅力があるか知らないが、民たちはロスティを気に入っている。公国内に居させるのは、いささか面倒か。
「ならば、捕まえ次第、処刑しろ。……いや、奴隷商にでも売り払ってしまえ。あいつの顔はそれなりに人気だろう。もちろん、金は私に渡すんだぞ。それと財宝もしっかりと回収するんだぞ」
「か、かしこまりました。しかし、実の子供に酷くはないでしょうか?」
なんだ、こいつは? 私の命令に口出しするとは。
「お前はあのクズの何だ? これ以上、私の機嫌を損ねるとお前から処刑にするぞ」
「し、失礼しました。すぐに隊を指揮して、行動に入ります!!」
忌々しい。クズの分際で、私の財宝を盗むとは。まぁ、クズの逃げ出す先など王国しかない。そこに検問でも置いておけば、すぐに捕まるだろう。財宝を私の手にすぐに戻る。
どれ、タラスの教育をどうするか考えるとするか……。
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