第123話 ガチャ券配布

『今回のアップデートはゲームシステム全体をいじった形になるけど、本当の狙いはあなたたちのステータスを向上させるためと、そのアバターを魔素だけではなく本当の肉体に近づけるようにするためなの。


 面倒だから簡単に説明するけれど、今までのあなたたちのアバターは魔素というエネルギーで作られている偽物の肉体。だから、死に戻りができる。何て言うか、幽霊みたいなものね。

 今回は、その幽霊に実体を与えた感じかしら。そちら側の生物として肉体構成を変えたから、普通に年も取る。サクラちゃんは大喜びするかしら?


 死に戻りは今まで通り有効だけど、殺されたりする場合、実際に死ぬような痛みが伴うから、お勧めはしないわ。まあ、ステータス上げたから簡単には死なないでしょう。


 使徒との戦いと今回の件でちょっと無理しちゃったから、わたしはしばらくそちら側には行けない。でも、わたしへ直通のメッセージが送れるよう、新しい問い合わせ窓口を作っておいたから、何かあったら連絡してちょうだい。


 それと、プレゼントボックスにガチャ券を十枚ずつ放り込んでおくから、試してみてね。新しいスキル、店がゲットできるかもしれないから頑張って』


 俺はちょうど自分のホームにいて、そのメッセージを読み終えてからプレゼントボックスを確認した。そして、妙にキラキラ輝いているレア度高そうなガチャ券を回収した途端、ホームのドアがノックされた。

「お兄ちゃん、メッセージ読んだ?」

「アキラ、俺、まだ心の準備ができてない!」

 カオルが俺の腹に抱き着いてきて、その後ろでサクラが目元を少しだけ赤くさせて陶然と呟く。

「カオル君が成長するんだよ!? もうちょっと育ったら、胸を張って押し倒せるんだよ!? 凄くない!?」


 ――相変わらずで何よりだ、妹よ。


「しかも、こっちの生物に近いってことはさ!? もしかしたら子供もできちゃったりとかするんじゃないかな!?」


 サクラのそのとんでもない発言に、カオルも俺も身体を硬直させて魔人の顔を見つめることになる。

 子供ができる?

「猫獣人トノ子供、タノシミダネ?」

 俺が妙なアクセントで外国人みたいに言うと、カオルがその可愛い尻尾をぶわっと膨らませた。

「無理無理無理! ってか、アキラの方がやばいんじゃないかにゃ!? きっとあの王子様の方が手が早い……」

「言うな、尻尾掴むぞ」

「にゃー!」

 膨らんだ尻尾を問答無用で掴むと、カオルがじたばたと暴れる。

 そんなささやかな修羅場の後、それぞれ俺たちはプレゼントボックスの中を覗くと、レア度高そうなガチャ券が十枚、キラキラ輝きながら入っていた。

 それぞれ、気合を入れつつガチャを回す。

 さすがマチルダからの賄賂である。それぞれアバターの必殺技だったり、武器だったり、色々出たわけだけれど。


「魔道具屋が当たったんだけど」

 サクラがマチルダ・シティに設置できる新しい店をゲットした。

 俺、ちょっと羨ましい。だって、魔道具屋ってロマンを感じる。それにおそらく、普通の人間がやっている魔道具屋よりも凄いものができそうだし。


「どこでもダンジョンって何だと思う?」

 カオルが困惑したように目の前のメッセージウィンドウを読んでいる。

 何だかカオルの説明によると、好きなところに魔石やら魔道具の素材を回収できるダンジョンを設置できるらしい。ダンジョンは少しずつ成長して、地下の奥深くまで広がる。魔石やら素材を回収するためには、ダンジョンに湧いてくる敵を倒さなくてはならないシステム。

 カオルのダンジョン製作者としてのレベルが上がれば、敵の強さも回収できるアイテムのレア度も上がるらしい。

 いいなあ、それもゲームっぽくていい。


 そして、俺はと言えば。

「錬金術師って職をゲットしたんだけど」

 と、眉を顰めながら首を傾げる。どうやらそれは薬屋の上位職のようだ。こちらも、レベルが上がればヤバいものが作れるようになるらしい。

 しかも、元々設置してあった俺の薬屋の外装も内装も一気に変化していた。

 もっと古めかしく、大きく、怪しげな感じの店に。


 とりあえず一通りチェックした後、三峯の様子を見に行くか、と俺たちはマチルダ・シティの外に出た。三峯は何をゲットしたのか気になったし、それを聞いた後にでもジャックの様子を見に行くのもいいかと思ったから。

 しかし、外に出てマップをタップするよりも早く、そこで待っていたらしいミカエルが声をかけてきた。

「アキラ」

 ……うん、そうだね。

 ミカエルは昔からそうだったかのように、俺を呼び捨てにするようになっていた。キラキラオーラは変わらず、優しい笑顔も変わらない。しかし、俺の顔を見た瞬間に表情を明るくするのが何とも気恥ずかしい感じがした。

 空を見上げれば結構日が高くなっていて、一体いつから待っていたのかと気になるところだが、朝からずっと、と言われそうな気がしてその言葉は呑み込んでおいた。


 しかしミカエルは俺の考えていることを読んだかのように、そっと笑ってポケットから取り出したものを俺に差し出して言う。

「実は、ここで待っていたのはこれを早く渡しておこうと思ったからだ」

「ん?」

 受け取ったものを見下ろした瞬間、メッセージウィンドウが開いた。


『クエスト報酬受け取り済み』


 そう言えば、ミカエルにかけられた呪いを解くというクエストが終わっていたんだった、と思い出す。

 呪いを解いたらもらえる報酬がきっとこれだ。

 銀色に輝くカードのようなもの。それには、細かい魔術文字が刻まれている。こちらの世界の言葉だけれど、俺には読める。

『王都・特別通行証』

 さらに、受け取った瞬間にそのカードに俺の名前が魔術によって刻まれていく。どうやらこれがあれば、簡単に王都に出入りできるらしい。普通の通行証とは違って、門番に出入りの理由を聞かれることもなく、好きなだけ移動できるという特別なものだという。

 さらに、白く輝く宝石――魔輝石がついたネックレス。

 一体この魔輝石とは何ぞや、と見つめると、これもメッセージウィンドウが開いて説明文が現れた。


『魔輝石・魔道具の素材、錬金術の素材として使用可』


「魔輝石は父からアキラへ、と今回の戦いの報酬として渡された。腕のいい魔道具技師がいれば、そのネックレスは凄いものに変わるかもしれない。ぜひ、有効活用してくれ」

 ミカエルのその言葉に、何ともいいタイミングだと唸るしかない俺たちである。

 サクラは魔道具屋の店を持ったし、俺は錬金術ができるようになった。合成素材が足りなければ、カオルにダンジョンを作ってもらえばいい。

 これは試してみるしかないだろう。

 もしかしたら錬金術の方が、エリゼの妹さんに効く薬が調合できるかもしれないし。


 そんなことを、マチルダからもらった報酬とかの話も交えつつミカエルに説明しながらフォルシウスを目指す。ステータスアップというのがどのくらい効果があるのか確かめながらだから、ミカエルの移動魔法は使わずに、のんびりと。

 そして、いつものように三峯の喫茶店のドアを開けて中に入ると、奥の方のテーブルでセシリアとアルトやリュカがコーヒーを飲んでいる姿が目に入る。

 そのテーブルには、見知らぬ人間の姿もあったのだが。


「よう、粗品!」

 そう言いながら手を上げた、陰のある黒髪のイケメン。細身で色白……というか顔色が病的な感じでよくなくて、目つきの鋭い男。だがその声は、明らかにジャックのものだった。

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