第2話
「それでは原田様 第2話ですわね!」
「2話ねぇ、どんな内容だっけ・・部屋に戻ればネットで見れるんだけどなぁ」
さっきまで編集作業の為に作品を観ていたにも関わらず、内容さえ忘れてしまうとは
情けない・・それだけ薄い内容だったんだろうけど。
『おっはよー』『おはよう』『あなたたち、ちこくよ、ちこくー!』『きやあーみんな!はしるよ!』
そうそう確か1話と同じような内容で始まって、あの狭い歩道を走ってOPが始まる・・・って・・・
「え、どっから聞こえて・・」「パソコンならこちらに」鉛筆書きの女神の神殿。
そこにひときわ大きなモニターとパソコン・・・・ってこれ、ゲーミングPCじゃ・・
「わたくし、そこそこTPSなるものを嗜んでおりますのよ」
「どうやって手に入れた・・」
「それはそうと原田様、2話を一緒に観ましょう!」
「どうやって買ってきた・・・どうしてここにネット環境がある・・・」
女神が目を反らす。「ふすーふすー」と鳴らない口笛を吹いている・・なんて古典的な・・。
まさかと思うがこの駄女神・・・・
「まさかこのクソアニメがここまでクオリティー落ちたのは、お前が予算をパクってパソコン買ったせいか?
心なしか・・・2話のクオリティが当初より落ちてる気がするんだが?!」
「まさか!わたくしがそのような事すると思いますの?わたくしの目を見て下さいまし!」
痛い痛い、顔を近づけるな!!!まつ毛が刺さる!
俺は女神を引き剥がした。
納得は行かないが、まぁ・・2話を観てみよう。
「3倍速で再生いたしますね」と微笑む女神様は本当にこの世界を救う気があるのだろうか・・。
2話目・・・ヒロイン1が車道を斜めに突っ走って来て。
性格は大人しくて引っ込み思案で恥ずかしがりやのヒロイン2はそれを観ずに死んだ目で挨拶して
ヒロイン1と合流。ヒロイン8まで揃ったら遅刻してOP。
教室のシーンになり主人公男に風呂を覗かれたと言うヒロイン1に、他のヒロインが感情のない目で同情して
チャイムが鳴る。
休み時間にはヒロイン1が廊下で派手に転び、主人公男がラッキースケベして、他のヒロインたちに追いかけまわされ
前半終了。
後半は今まで一度も「昨日スノウ・プリンセスになって闘った」なんて少しも触れずにいたのに、急に敵が出てきて変身して
敵を倒して。ヒロインの入浴シーンに主人公男が入って来て「まさか誰かいるなんて思わなかった」といい訳をしながら
寮中を逃げ回る。それを追いかけるヒロイン達のタオルが一人一人外れてゆき、最終的にヒロイン1の
「もうぜったいゆるさいないんだからー」でED。
「このクソアニメを原田様が改変されたものに変えても、人数が減って画面がすっきりするだけですの。」
「確かに、こうも中身が無いんじゃな・・・、とにかく改変していくぞ、OP、登校シーン教室のシーンはカットだ。
その代わりに、前回差し込んだ戦闘シーンをバックにOPを流す」
「まぁ、臨場感が出ますわね!」
「OPをスキップされない為にも、少し戦闘後の話を付け足すんだOPの音は途中からミュートで、ヒロイン1が最初の
戦闘で脚かどこかを怪我した事にする」
「ふむふむ・・」
「闘う事にもあまり乗り気でないヒロイン2は、ヒロイン1の怪我を心配するが、ヒロイン1は「これくらい平気」と返すが
内心、次の戦闘に怯えを感じていた。」
「まぁ、自然な流れですわよね・・」
「ヒロイン3.4はまだ空気でいい、ヒロイン5.6はヒロイン1の怪我に気づいて体育の授業の後保健室に連れて行き
それとなく昨日街で怪人が出た話を振る。体育の後のシャワーシーンは勿論カットだ。」
「そんなにお色気シーンを削っていいんですの?それではDVD購入特典が・・」
「体育の授業の後にいちいちシャワーなんか浴びないんだよ普通、更衣室のシーンくらいで我慢しろ」
「ええ、原田様は全裸より下着派なのですわね・・メモしておきますわ」
「いやいや、そういう意味ではなくて・・・、まぁいい、ヒロイン5.6はヒロイン1.2がスノウ・プリンセスとして闘えるかどうか
女神、アンタに頼まれてるという設定しよう」
「普通はそうですわよね!普通はわたくしがもっと戦士の事を影からサポートするのがふつ」
「わかったから・・離れ・・睫が!睫が!」くっそ刺さるんだよアニメ睫め!!!
「CM明けの戦闘シーンだが、可哀想だから主人公男も何かを含んでるような演出を入れよう。
実はヒロイン1の怪我に気づいていてそれとなく一緒に帰ったり、カバンを持ってやったり・・
そして街にブラックスノウが現れて、闘いに行くヒロイン1を何となく引き留める主人公男、心配するヒロイン2。
ヒロイン1はそれでも果敢に戦闘に挑む。ヒロイン1が心配なヒロイン2は、ヒロイン1の怪我が気になって戦闘に集中
出来ない。そこでヒロイン5.6が謎のスノウ・プリンセスとして仮面をつけて登場。
あっと言う間に敵を倒してしまう。そしてヒロイン5が言い放つ「貴方たちにスノウ・プリンセスは無理なようね」
変身が解けるヒロイン1と2。平和だが二人には絶望にも似た夕焼け空を背景に二人は寮に戻る。
帰り道の公園では主人公男が二人を待っていた。
場面が変わって寮のシーン・・・風呂で一人悩むヒロイン1。何も言いだせないヒロイン2。そしてED・・・でどうだ!
一応風呂シーンも入れたぞ!」
「・・・・・・・・」
「?女神?・・・おい・・」
「・・ふへ・・っ・・、ヘッショGJですわぁ・・・」
こいつ・・・・寝てやがる・・・・・・。
「起きろ女神!
そしてさっさと改変して来い!!!!」
「!!ふぁい!」
神殿が光りだす。
改変の始まりだ。
俺が目を開くとそこはOPをBGMに闘うスノウ・プリンセス達。
二人で背中合わせになりながらブラックスノウを倒してゆく。
「・・・・ちゃん大丈夫?!」「う、うん・・怖い・・けど・・・、・・・ちゃんとなら・・」
二人は一瞬手を握り合い、離れる。
「っ・・!」「・・・ちゃん?!」
「平気だっ・・・つーの!これくらい!!!行くよ・・・ちゃん!」「うん」
「スノウ・プリセスアターック!!!!」
二人が敵に手をかざすと、敵は凍り弾けて消えた。
変身が解ける二人。
「これでいいのかな・・ぁ・・」「・・はぁはぁ・・怖かった・・・」『でも』二人はパチンと手を合わせる。
「やったぁ!!」「うん!」
・・うん。二人の演技も表情も、別のアニメみたいだ。
まだ昔のアニメみたいに静止画が多いのは気になるけど・・・目に光が入ってキャラも性格通りになってる。
「荷物・・持つよ」
「え?」
「足・・怪我してんだろ?大丈夫か?」
おお、次は主人公男の出番か・・この声優さん爽やかないい声だからこういうセリフ合うな。
ヒロイン1も顔を赤らめたりして・・
「大丈夫よ!これくらい・・・」「いいから」そっとヒロイン1から荷物を受け取って先に歩きだす主人公男。
「・・・君って、優しいね」そっとヒロイン1に囁くヒロイン2。
そして立ち止まり「・・・ちゃん・・本当に大丈夫?もし今日もまた闘う事になったら・・」不安げなヒロイン2に
ヒロイン1は「大丈夫だってば!ごめんね・・心配かけて・・・」「ううん・・私は・・、・・ちゃんと一緒じゃないと・・・怖くて」
そして戦闘が始まる。
敵に押されるスノウ・プリンセス達。
現れるヒロイン5.6。
変身が解かれるスノウ・プリンセス。
「女神様の見込み違いだったようね」「貴方たちには荷が重すぎたようね、後は私達に任せてもう忘れなさい」
夕暮れの一枚絵の中に消えて行く謎のヒロイン5.6。
「・・・ご、ごめんね・・、・・ちゃん・・私・・っ」「・・・ちゃんのせいじゃないよ・・」二人で力無く帰る道。
公園で待つ主人公男。
「あんた・・・、今まで待っててくれたの?」
「何か怪人が出たって皆騒いでて、救急車やパトカーのサイレンも凄かったから心配で・・携帯にも出ないし・・」
「あ!ごめん・・・」
「いや無事なら良かったよ、・・・も一緒に帰ろう?」
3人で歩く帰り道。夕焼けはいつの間にか夜空に変わり・・・
「・・・ちゃん・・、私がもっとしっかりしなきゃ!!」自室で一人決意を固めるヒロイン2
「私のせいだ・・私のせいで・・・ごめん・・・、・・・ちゃん、・・君・・・」風呂場で自分を追い詰めるヒロイン1
そしてED。
第二話「どうして私がアイツの事好きになるのよ~?!マジで無理無理むしろ無理よりの無理だよ~!!」
改め
第二話「スノウ・プリンセスの危機?!こんな怪我くらいで・・私・・もっと頑張らなきゃ!」
終了!!
「これでどうだ女神!」
「素晴らしいですわ!・・と言いますか、まるで別モノですわね。もう少しお色気」
「まだ合宿回とか海回とかあるから!決めるときはビシッ!と緩めるときは緩めるから!!」
全く・・このドスケベ駄女神め。
自分でもお色気シーンに力を入れてる場合じゃないって言ってたくせに・・
「そんな事より・・次が正念場だぞ」
「・・・3話・・・ですわね・・・」
さすが、世間を知り尽くしている女神だ。話が早い。
「3話切り・・・、とにかくどのアニメも3話まで観て次からの視聴を決めるという伝説の・・・」
「今はもう3話に縛られたりしないものも多いけどな・・、でも俺的にも1クールの3話はやっぱり作品の肝になると思うんだ」
「今のご時世脚本家さんが原作者さんともうまく連携が取れないとか、むしろ脚本家さんに全お任せして失敗したり、
監督さんが作品自体の色をどうしても自分色にしたいとわがままを通して失敗したり・・・
どうして原作通りにアニメ化しないのでしょうねぇ・・」
「原作のストックの問題もあるんだろうよ。アニメ1クール作るにはそれなりの量が必要で、
無駄に景色のシーンが多かったり、延々と車で移動するシーンを使わざるを得ないのはそのせい・・らしい。
いくらラノベ作家とは言え、アニメの脚本は畑違いだろうし、原作通りにアニメ化したら中だるみしてしまう、なんて事もあるんだろう。
そんな事をいちいち原作者に確認取って脚本書いてちゃその後の作業も全部遅れるし、
特に原画マンやアニメーターの確保は大変だって言うしな・・
有名なアニメ制作会社は時間も金もかけていい作品をより良く表現出来るんだろうけど・・・
この原作者、この作品がデビュー作だし、担当さんやアニメ制作側にも自分の意見なんて汲んで貰えなかったんだろうよ・・
可哀想に・・」
「今のラノベ・アニメ化業界は生き急ぎすぎですわ、もっと制作者側を育てなければ!その第一歩がこの「みせスプ」改変!」
「おお、強引に行ったな・・・」
俺はとりあえず拍手してみた。
今、この時間・・・
どれ程の人間が漫画や小説を描いているんだろう・・・
「売れる」小説家になりたい漫画家になりたいと、必死になっているのだろう・・憧れているのだろう・・・
その作品はどれ程の人の目に留まり、認められて、応援されているのだろう・・・
俺は自分で動画を上げた時、正直すぐに再生回数が伸びる、もしかして急上昇に上がるかも!
・・・・と何の根拠も実力も無しに思っていた。
でも結果は平均以下で、今では駄作アニメを批判してでも再生回数を伸ばす事が目的になっている。
再生回数が落ちるのが怖い、視聴者の評価が怖い。
有名で面白い動画が多すぎて、自分には出来る事が少なくて苦しくなる時がある。
歌も歌えない、演奏も出来ない、ダンスなんて無理だし、実況も無理、グッズ開封やガチャ動画を作る程
ハマッているアニメもゲームも無い。
それでも一応働いているから・・・あくまでも趣味だから・・と、今の場所に立っている。
このラノベの作者もそうだったのかな。
デビュー作が大賞を取って死ぬほど喜んだだろうな・・アニメ化だってそうだ。
例え企画倒れの代案であっても死ぬほど喜んだ事だろう。
それが大失敗して原作まで駄作とけなされ、サイトはアンチコメで荒らされ・・・
作者本人はアニメ化を喜んでますと、自分ももっと頑張ります、と前向きなコメントを残したままサイトは放置されている。
どうしてこうなった・・
こうなる前に誰かが気づいたはずだ、代案だから、繋ぎだから、「こんなもんで良い」・・そういう事か?
それも業界の暗黙のルールなのだろうか・・・・
何とかする事が出来なかったんだろうか・・・
「女神」
「はい?」
「このラノベの原作者って、今どうしてるかわかるか?」
「ええ」
心臓が跳ねた・・・気がした。
「朝から夜まできちんと時間管理して・・健康第一に今日もまた・・・物語を書いていますわ。それが何か?」
「あ、いや・・・それなら・・いい。」
そうか・・・
それなら良かった。
そうだな・・健康第一、品質第二、生産第三・・・・だもんな。
「もうひとつ質問なんだが」
「はい」
「おい、PCから離れろ、ヘッドセットを外せ、コントローラーを置け、なんだその指サックは・・」
「いいえ第二話の改変も終わった事ですし・・・その・・ちょっとだけ・・」
「何で俺たちヒロインの事を数字で呼んでるんだ?」
PC前から動こうとしない女神を無視して尋ねてみる。
「ヒロインの名前はブラックスノウが消してしまったのです。哀れな!」といいつつゲームにログインするな女神。
「2話を改変して、「キャラ名」で呼び合うシーンが急に増えたな敬称のみだったけど・・・・・
3話を改変すればキャラ名が取り戻せるんじゃ・・
おいさっさとログアウトしろ、チャットで罵り合うのはやめろ、撃ち合うな、お前女神のくせにフレンド多いな・・・。」
「そうです!原田様が改変を進めるにつれこの世界は力を取り戻し、女神としてのわたくしの力も多少戻りましょう・・・
そうすればいずれこのPCも・・いえ、このクソアニメのキャラも一丁前にキャラ立ちをし、名前どころか、主人公男君にも
目が生えるかもしれません!」
「言い方はキモいが・・それは面白そうだ!じゃ、とっとと3話行くぞ!」
「ちょ、このタイミングでスイッチングされては!!わたくし敵前で棒立ちに!!」
「さっさとログアウトしないからだ!!駄女神!!!」
「ぴえん!ぴえん!!!」
もしかしたらこのアニメが駄作になった原因の本当の理由は、この女神の存在なのかもしれないな・・・・
ごめんな・・・ラノベ原作者・・・・。
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