第14話 調理実習
慈美子はルンルン気分である。今日の調理実習が楽しみで楽しみで仕方がないのである。なぜなら、慈美子は料理が大好きだからであり、それに加え、関都と同じ班でもあるからである。ただし、城之内や三バカトリオとも一緒の班である。だが、それを差し引いても、慈美子は今日の調理実習が楽しみなのである。
「ルンルルン!ルンルルン!」
慈美子は鼻歌交じりで学校に登校した。それを聞きつけたのは地獄耳の城之内である。城之内も今日の調理実習を楽しみにしていたのだ。
「随分とご機嫌のようですわね」
「まぁね~!」
「どっちが上手にお料理できるか勝負ですわね!」
「え?私達同じ班でしょう?協力し合いましょうよ」
「あなたと協力するくらいなら死んだ方がマシですの!」
城之内は声高々に宣戦布告し、慈美子を潰す気マンマンである。しかし、慈美子は、城之内と醜い小競り合いをする気などさらさら無かった。だが、城之内は慈美子の気持ちなどお構いなしである。
「逃げるんじゃありませんわよ!覚悟してなさい!」
そう言うと城之内は楽しそうにスキップしながら去って行った。そこに城之内と入れ替わるように関都がやってきた。
関都もやはり調理実習を楽しみにしていたのだ。関都は酩酊状態のサラリーマンのようにご機嫌で話し出す。
「今日は一緒の班だな」
「ええ!得意って言える程じゃないけれど、料理は家でもよく手伝っているから任せておいて!」
「ははは、頼もしいな」
「関都くんは料理できるの?」
「ああ!勿論さ!よく作っているぜ」
「へー!どんな料理?」
関都は、選挙演説のように、自信満々で答える。慈美子は夫のボーナスを待つ専業主婦のようにその答えに期待する。
「ゆで卵だ!」
「え?」
「ん?」
慈美子は予想の水面直下の解答に困惑する。しかし、関都には通じない。関都は初めて手品を見た子どものように不思議そうな顔をする。
慈美子は気を取り直して質問をし直す。
「ほ、他にはどんな料理を作るの!」
「カレーやラーメンだな」
「あら!凄いじゃない!」
「カレーは茹でるだけだからな。ラーメンはお湯を注ぐだけ」
「え?」
「ん?」
2人ともさっきと全く同じ反応をした。2人とも会話が通じていないように困惑する。慈美子は初めてお使いをする子どもが見知らぬ人に道を尋ねるように、恐る恐る訊く。
「それってレトルトとインスタントなんじゃ…」
「レトルト食品は便利だぜ!カレーも中華丼も親子丼もカツ丼もハヤシライスも何でも作れるんだぜ!料理の救世主だ!」
「レトルト食品って料理って言えるの?」
「レトルト食品も立派な料理だろ!」
関都と慈美子の間には大きな認識のズレが生じていた。関都には料理は期待できなさそうだと思った。
そして、ついに待ちに待った調理実習の授業の時間がやってきた。
「皆様、料理の事ならわたくしお任せになって!わたくしの家では家事は全てメイドさんがやってますけれど、手慰みとしてお料理を嗜んでおりますの!家庭科の先生以上にお料理に詳しい自信がございますわ!」
城之内家の家事は全てメイドが行っているため、城之内は家事など手伝った事もないが、料理教室・掃除教室や家庭科教室で家事を習っており、家事は得意なのだ。
「私も得意って程じゃないけれど、料理は毎日やってるのよ!困った事があったら何でも言って!」
慈美子は常日頃から家事の手伝いをしており、勿論料理の手伝いも毎日しているのである。城之内とは対照的であった。
そして調理が始まった。城之内は料理教室仕込みの華麗なる料理捌きを見せつけた。城之内がリーダーシップを執って調理を進めた。
「ほほほほ!ご覧なさい!見事な包丁捌きでしょう?」
城之内は見せつけるようにそう豪語した。一方で慈美子も見事なまでの料理捌きを行っていた。その姿に城之内は腰を抜かしそうなくらいに驚愕する。
「…ほほほ……。なかなかやるじゃありませんの…!」
城之内は悔しそうな顔で、慈美子を褒めた。プロの如きの料理の腕前を持つ城之内にも慈美子の料理の腕前は認めざる終えない程に上手だったのだ。
「包丁捌きってこれでいいのか?」
そう言いながら、なんと関都も綺麗な包丁捌きを行っていたのだ。関都は手先が器用であり、家で料理しないだけで、料理が全くできない訳ではなかったのだ。関都の料理の腕前に慈美子は飛び上がる様に驚愕した。
「能ある鷹は爪を隠すって事だったのね…!」
慈美子たちは時刻表通りに走行する新幹線のように、順調に料理を進めた。しかし、好事魔多し。城之内がまた良からぬ計画を立てていた。
「地味子さん!これを揚げて下さるかしら?」
そこには水が固まったようなぶよぶよした透明の固形の物体があった。慈美子はその正体が全く分からず、初心者の紙束を見た上級TCGプレイヤーのような表情をする。
「何これぇ~?」
「私が用意したとっておきの食材ですわ~ん!」
「こんなの勝手に持ってきてい良いの?」
「勿論、先生の許可は取っていますわ!」
勿論、嘘である。先生にバレないようにこっそり持ってきていたのだ。しかし、地味子は振り込め詐欺に引っかかる老人のようにまんまと騙される。
「もう油は温まってると思いますから、すぐに入れてちょうだい!」
油は激しく茹だっていた。城之内は前もって火をかけており、わざと油が超高温になるように仕組んでいたのだ。しかし、慈美子は知る由もなかった。
慈美子は透明な物体を揚げようと駈け出した。しかし、足がほつれ、ついうっかり転んでしまった。透明な物体はダイブするように油の中にポチャンと入った。すると次の瞬間…。
ドガーン!!!
油は大爆発し、火を噴いた!実は、城之内が用意したのは「つかめる水」という商品で固めたただの水だったのである。高温の油に水を入れたがために大爆発を起こしたのだ。
城之内の狙いはこれだったのだ。慈美子を大爆発に巻き込ませて大やけどを負わせる。大爆発で慈美子の美しい髪や顔を焼き払うのが真の目的だったのだ。
しかし、慈美子は転んで倒れていたため爆発には巻き込まれずに済んだ。不幸中の幸いである。だが、慈美子を盾にしようとして慈美子の背後に立っていた城之内に、爆炎が降りかかった!城之内にとびっちた火の粉は、城之内の自慢の長い赤髪の毛先に引火し、怖ろしいほどに燃え上がっていた!
「きゃあああああ!!!髪があああ!髪がああああああああ!!あつい!あつい!あつい!あついですわ~!!!わたくしの自慢の赤髪があああああん!!」
城之内は燃えるような真っ赤な髪を必死に振り乱して、必死に女の子走りで走り回った。
それを見た慈美子は慌てて、包丁で思わず城之内の燃え盛る髪の毛を火元からバッサリ斬り落とした。
スパッ!!!
城之内の髪の毛は燃え盛る部分だけを綺麗に切り落とされ、城之内の髪の毛の火は消えた。
「や~ん!3mm近くもバッサリ~!!!」
城之内の髪の毛は3mmほど切り落とされてしまったのだ。城之内は髪先を抱えて泣き叫んだ。
「だって、そうしないと、あなたの燃えるように真っ赤な髪の毛が本当に全部燃えちゃう所だったじゃない!」
慈美子は慌てて弁解した。しかし、城之内の耳には届いていなかった。地獄耳の城之内の耳にも入らない程に城之内はショックを受けていたのだ。
「生まれてから1度も切った事が無かったあたくしの誇りの赤髪がぁ…」
城之内は泣き崩れて、卒倒してしまった。城之内は倒れた衝撃で、顔面を地面につんのめた。
一方で、関都は爆発して燃え上がっている油の入った鍋とガスコンロに消火器を向けて鎮火していた。鎮火を終えると、関都は城之内を御姫様抱っこで抱きかかえて保健室に連れて行った。
関都が保健室から帰ってくると、慈美子は受験で落ちた学生のようにシュンとしていた。そんな慈美子を関都は励ました。
「お前のせいじゃないさ。気にするな」
「…うん…」
慈美子は少しは罪悪感が薄れるようだった。関都は慈美子を励まし、居なくなった城之内の代わりにリーダーシップを執って料理を完成させた。
「いただきま~す!」
「ん~美味しい!!!」
慈美子たちの班の料理は大成功だった。途中大きなトラブルに見舞われたが、それをもろともせず、美味しい料理を作り上げたのだ。
慈美子の班は120点を貰い、そのクラス内で1位となった。
「今日は楽しかったな!」
「ええ!」
そして残りの授業を終えて、慈美子は自宅に帰った。そして日課の日記を嗜めるのであった。
「今日はとっても楽しかったね!明日はも~っと楽しくなるよね!」
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