第7話 関都の敗北
ウォルトランドの帰り道、城之内は関都とべったりだべっていた。その後を付けるように付いて行く慈美子だったが、慈美子も関都に話しかけようとする。
しかし、城之内がそれを許さない!城之内は関都に見えないように慈美子を突き放した。よろけた慈美子はニット帽を被った男性にぶつかってしまう。
「ああ!ごめんなさい!」
「テメー、何すんだこの女郎!」
すぐに謝ったが、ニット帽の男はやくざのように激しく激怒した。慈美子はその威圧に恐怖し言葉を失った。震える慈美子にその男はさらに因縁を付けた。
「ごめんで済んだらヤクザとヤンキーはいらねえんだよ!」
その男は、怯えて腰を抜かしている慈美子の胸ぐらを掴み、顎を掴み上げた。それを見た関都がすぐに助けには入る。
「やめろ!その女から手を話せ!」
関都はヒーローのように止めに入った。その男は意外にもあっさり慈美子を離すが、依然とけんか腰である。
「テメー、誰に向かって物を言っているんだ?俺は『ニット帽の
「お前こそ随分と生意気な口の利き方だな。僕も泣く子も黙る正義のヤンキーで僕の地区では僕を知らない高校生はいない」
「テメーら、見かけない顔だと思ったらやっぱり他の地区の学生か。通りで俺の事を知らない訳だ」
「あなたこそ他の地区の学生だから関都さんの事を知らないんでしょうけれど、大人しく引き下がった方が身のためですわよ!」
「その台詞、九千九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十九倍にして返すぜ!相手が悪かったな!テメーらの地区ではお山の大将気取れても、ここじゃ通用しないぜ!」
瑠日井は幼稚な言い回しで関都達を挑発した。しかし、関都は至って冷静である。関都は窘めるように陳ずる。
「無益な争いはごめんだが、用がないなら帰らせてもらうぞ?」
「逃げるんか?」
「僕に喧嘩を売るつもりか?」
「あたぼーよ!」
「身の程知らずめ!」
「ハイホー!どっちが身の程知らずか思い知らせてやるぜ!」
2人は喧嘩の構えをし、戦闘ムードに入った。先ほどまで冷静だった関都はもう完全にやる気満々である。今度は関都が瑠日井を挑発した。
「お前、キックの打ち方を知ってんのか?」
しかし、その挑発に瑠日井は乗ってこなかった。瑠日井は黙ってニット帽を深くかぶり直した。
城之内は関都がいつもの不良狩りショーを見せてくれると、歓声を上げた。
「皆で関都さんのショーをじっくり見学しましょう!」
「2度とその生意気な口が利けないようにしてやるぜ」
関都のその言葉を聞いても瑠日井はずっと黙っているが、関都の方は、観客を前にやる気十分である。 関都は瑠日井に回し蹴りをお見舞いした。しかし、かわされた!すかさず反対の足で回し蹴りするがやはりかわされる。
関都は砂を蹴りあげ、瑠日井を目眩ましした。瑠日井が隙を見せた瞬間、 関都は体当たりした。瑠日井は派手に転倒した。
「まさかそれじゃ死なないよな?くたばるのはまだ早い!僕のショーはこれからが見せ場なんだからな!」
関都は調子に乗ってそうあざ笑ったが、瑠日井はすぐに立ち上がった。全く効いていない様子である。
関都は翔ぶように跳び回った。中学処刑人・呂美男がやられた時と同じである。
「キックの打ち方を知っているかって?」
「あばよ、ニット帽!」
ド ン!!!
勝負はあっという間に着いた。腹への膝蹴りで関都は一瞬で鎮められてしまった。関都は横たわったまま固まって動かない。
城之内一味は日本の大地震を初めて体感した外国人のように慌てふためく。
「ちょっと、冗談やめてよ関都くん!」
「ねえ、からかってんでしょ?なんとか言いなさいよ!」
「ねえ、 関都さん!」
「バカな真似はよしてちょうだい!」
「さあ立ち上がってほら!」
「いつものショーを続けてちょうだいよ!」
「関都くん、あんたはうちの地区じゃ知らない人は居ない大型ヤンキーなのよ!」
しかし、関都はピクリとも動かない。瑠日井は「くくくくく!」と勝ち誇ったようにドヤ顔で高笑いした。まるで壊れた笑い袋のようである。
「なんちゃって!」
なんと、関都は悠々と立ち上がった!その光景に、瑠日井は電池が切れたかのように、笑い止んだ。
関都はぬか喜びしていた瑠日井を罵った。
「バカ笑いしおって」
「驚きましたわ!本当にやられたかと思ってしまいましたわ!」
「なにぃ?!俺の神風キックをまともに受けて悶絶しないだとぉ!?」
「びっくりしたわぁもう!驚かさないでよ!」
「悪い冗談だわ!すっかり騙されたわ!」
「本当!本当!」
城之内と三バカトリオはまんまと騙されていた事を知り深く安堵した。
すっかり冷静さを失った瑠日井は、関都におもいっきり殴りかかった。関都もパンチで対抗する。2人の拳と拳が激突した!
「おあああああああーーー!?」
瑠日井は弾き飛ばされた。 関都は間髪入れずに瑠日井の腕を掴んだ!そして、瑠日井の人差し指を捻った!
「いでぇぇぇぇ!!」
瑠日井は悲痛な叫び声を上げた。瑠日井は汗だくである。もう完全に関都のペースである。負けを悟った瑠日井は泣きごとを言う。
「ひ、ひどいやつだッ……指を捻るなんて…!」
「いいや、慈悲深いぜ。指を折らなかっただけな…」
関都はさらに瑠日井の弁慶の泣き所を蹴り飛ばし、足先をおもいっきり踏みつけた!
「ぎゃあああああ!!」と喚き声を上げた瑠日井は、背を向け逃げ出そうとした。しかし、 関都は容赦なく、瑠日井の後頭部に頭突きした。
「ぐはっー!!」
瑠日井は白目をひん剥き、まるで死んだように気絶してしまった。慈美子たちは関都に盛大な拍手を送った。関都のショーはこれにて終幕となった。
関都は舞台終了の挨拶をするような演者のように丁寧に一礼し、皆にショーの感想を聞いた。
「僕のショーはいかがだったかな?」
「素晴らしかったですわ!」
「そうね!関都くんが鎮められた時はハラハラしたわ!」
「本当よね~!」
「あの時は本気で焦ったわ!」
城之内一味は関都の演技にすっかり騙されていた様子だった。そんな城之内一味を慈美子は冷ややかに見ていた。
そんな慈美子に対して、関都は疑問の声をぶつけた。
「慈美子。お前だけ僕が倒れていたのに心配するそぶりも見いせなかったよな?」
「本当ですわ~!地味子さんって意外にも冷酷なんですのねぇ!」
城之内が関都を心配しなかった慈美子を愚弄した。それに合わせるように、三バカトリオも慈美子を嘲笑した。しかし、慈美子は気にも留めていない。
「だって、演技だって分かってたから…」
「何!?マジか!?」
「瑠日井を蹴りかかる時の勢いや覇気が呂美男の時と比べて明らかに無かったもの」
関都はリアクション芸人のように驚いた。しかし、一番驚いたのは他ならぬ城之内である。城之内の美しい顔はぐにゃりと歪んだ。
「そこまで見抜かれていちゃ参ったな」
「彼方の事は何でもお見通しよ!」
「御見それいたしました!僕の本気を見抜けたのはお前だけだよ」
「だって彼方の事はいつも見てるもの!」
「たった1度僕のショーを見ただけでそこまで見極められるとは。慈美子には負けたよ」
関都は慈美子が自分の手加減を見破ったのに感服した。慈美子が関都の事を誰よりも見ている証だ。悔しそうなのは城之内である。天道虫を噛み潰したような表情で慈美子を睨みつけた。
(いー!なんですのこの女!関都さんの1番の理解者だって言いたいのかしら!)
「今に見てなさいよ…」
城之内は閑古鳥が鳴くような小声で負け惜しみを呟くのだった。
帰宅した慈美子は今日の出来事も日記にしたためた。
「今日はとっても楽しかったね!明日はも~っと楽しくなるよね!」
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