第8話 プール開き

「さあ!皆様、どうぞ存分に泳いで下さいまし!」


 慈美子のクラス・E組は城之内の両親の好意で、城之内家所有の100mプールを体育の授業で使わせて貰っているのだ。学校の25mプールとは大違いでクラスメートたちは大感激した。学校のプールが浴槽だとするならば、ここは大浴場である。

 慈美子は関都に楽しそうに話しかけた。


「凄いわぁ100mプールなんて初めて!」

「僕なんか50mプールすら泳いだことがないよ」

 

 慈美子と関都もその壮大さに、初めてハイハイをしだした赤ちゃんを見た親のように感心していた。

 一方、三バカトリオもいつものように煽てまくった。


「流石、城之内さんチのプールだわぁ!まるでアマゾン川だわ」

「いいえ!むしろ太平洋よ!」

「城之内さんは心だけじゃなく、プールも広いのね!」


 取り巻きの三バカトリオも大喜びした。お世辞を言うのは得意だが、今回はお世辞ではなく本心だった。

城之内は自慢の名店を紹介した食通のように得意げである。


「さっさ!更衣室はあちらですの!皆様どうぞお着替えになって!」


 女子は女子更衣室に。男子は男子更衣室に。プールバッグを持ってそれぞれ入って行った。女子更衣室の中でも三バカトリオが媚びへつらっている。


「まぁ!城之内さんのプールバック素敵だわ~!」

「本当!見るからに高級感溢れるわ~!」

「見た目だけでなく丈夫そうで機能も充実してそうね~!」


 城之内は酔っぱらった午前様のように上機嫌である。城之内は城之内はライオンキングの冒頭でラフィキがシンバを掲げるように、プールバッグをクラスの女子全員に見せびらかした。


「ブランドものの一級品ですの~!わたくしにとっては安物同然ですけれど!安くて丈夫なのがこのバッグの良い所ですの~!」


 城之内は自慢の長い赤髪を下しながら、バッグを自慢した。調子に乗った城之内は皆に投げキッスを送っている。しかし、思わぬ邪魔が入った。


「あら、そのバッグ私のバッグと同じだわ!」


 驚きの声を上げたのは、なんと慈美子である!城之内はその言葉に驚き、思わず慈美子のプールバッグを二度見する。確かに慈美子のプールバッグは城之内の物と全く同じものであった。城之内の目利きで見てもそれは偽物なんかではなく、間違いなく本物のブランド品であった。


「………。ほ、ほほほほほ!だから申しましたでしょう?安物ですって!」


(どういう事ですの!?こんな女がブランド品を持ってるなんて!そういえば、この女は趣味がないとか自己紹介してましたわ…。趣味が無いからお金を使う機会がなくてコツコツ貯めたお小遣いを奮発して買ったんですわ!きっとそうに違いないですわ!)


 慈美子と同じバックだと知った城之内は恥ずかしくなり自慢するのを止めた。気を取り直して着替え始めた。男子も女子全員着替えて更衣室から出てきた。注目を集めたのは、やはり城之内である。


「城之内ってあんなにおっぱいデカかったのか?!」

「城之内さんって元からスタイルが良いと思っていたが、脱ぐとこんなにセクシーなのか!」

「これは巨乳というよりもはや爆乳!」


 男子たちがひそひそ声で城之内を持てはやした。城之内は誰もが振り向くような抜群のプロポーションである。城之内は普段もおっぱいが大きかったが、いざ脱ぐと想像以上にでかいのだ。そんな男子たちのひそひそ声を地獄耳の城之内は聞き逃さず、ますます上機嫌になった。

 城之内のおっぱいに驚いているのは何も男子だけじゃない。女子からも注目のまとである。慈美子も例外ではなかった。


「大きい…」


(何を食べればあんなに大きくなるのかしら?)


 慈美子は思わずポロリと本心が出てしまった。

 慈美子のその言葉を聞いた城之内は髪を撫で下ろし、ウィンクしながら勝ち誇ったように豪語した。


「わたくしって着やせするタイプですのよね~!」

 

 慈美子も誰もが羨むような抜群のプロポーションで巨乳だったが、城之内の爆乳には敵わなわなかった。慈美子は思わず城之内のおっぱいをガン見してしまった。

 そんな2人の所に関都が呑気な顔でやってきた。


「2人が髪の毛を下している所は初めて見るな!」


 関都は2人のおっぱいには目もくれて居なかった。慈美子も城之内も髪の毛を下している。身長より長い髪を引きずって傷まないように2人は髪の毛を体中にぐるぐる巻きにしていた。

 慈美子は照れ笑いしながら恥ずかしそうに呟く。


「…ふふっ!なんだか恥ずかしいわぁ」

「下した姿も似合います?」

「なんだかギャップがあって良いな」

「さぁさぁ!皆さん!授業を始めますよ~!」


 先生の鶴の一声で、城之内のおっぱいにざわつく学生たちは静かになった。そして、準備体操を終え、泳ぎの稽古が始まった。

 慈美子と城之内は息切れしながら泳いでいた。


「はぁ…はぁ…はぁ…ですわ…」

「はぁはぁはぁ…どうして水泳はこんなにハードなのかしら…」

「あら?あなたも泳ぐのが苦手ですの?」

「ええ、まぁ…」


 城之内も慈美子もカナヅチではなかったが、泳ぎはヘタであった。なんとか苦労しながらも泳ぎの練習について行った。

 一通り泳ぎの練習を終えると、今度は自由形の競泳をする事になった。


(チャンスですわ!地味子さんも泳ぎが苦手みたいですから、当て馬にするのにはちょうどいいですわ!)


 城之内と慈美子は別の列だったが、城之内が半ば強引に順番を譲ってもらい、慈美子と一緒の列になった。慈美子もそれに気が付いている。


「ほほほほ!勝負ですわね!せいぜい最下位にならないように願う事ですわ!」


 城之内は慈美子に喧嘩を売った。慈美子への宣戦布告である。慈美子になら勝てそうだと城之内は思っていた。

 そして、いよいよ慈美子と城之内の列の番である。


「よーい、ドン!」


 一斉にスタートした。最下位争いはやはり城之内と慈美子である。しかし、予想外な展開が起きていた。慈美子はゆっくり平泳ぎで泳ぎだしていた。平泳ぎは一番遅いと言われる泳ぎ方である。

 城之内は遅く後方選手からもかなり引き離されているが、それよりもさらに後ろにいるのが慈美子である。他の選手がゴールしても2人はまだゆっくりと泳ぎ続けている。

 ブービーになったのは城之内であった。そして城之内がゴールしてから暫くしてから慈美子もゴールするのであった。


(なんだか…勝っても嬉しくありませんの…)


 空しい勝利である。本当は大接戦の末追い越して大逆転勝利を収めるのを想像していた。しかし、慈美子は勝負を放棄していた。売られた喧嘩を買わなかったのだ。つまりは城之内の独り相撲だったのである。

 不満そうな顔の城之内に引き換え、泳ぎ切った慈美子はすがすがしい顔をしていた。独り相撲で勝っても嬉しいはずがない。慈美子は試合に負けて勝負に勝ったのだ。ゲームには負けたが戦争には勝ったのだ。


「慈美子!お疲れ様!すごいじゃないか!平泳ぎで挑むなんて!」


 関都は自由形を平泳ぎで挑戦した慈美子に感心していた。これは嬉しい誤算である。城之内はますます不満げな表情になって行った。まるで不貞腐れた子どものような顔である。

 そうとも知らず、関都はさらに慈美子を褒め上げた。


「ドべが確定しても最後まで諦めずに泳ぎ続けるそのさまは見事だったよ!」


 関都はすっかり慈美子の泳ぎに魅了された様子だった。城之内すかさず、攻勢にうってでた!関都におっぱいを押し当てるように左肩に抱き着いたのである。


「わたくしもブービーながら頑張って泳ぎましたのよ~ん!」

 

 慈美子も負けじと、おっぱいを関都に押し当てるように右肩に抱き着いた。関都は両端からおっぱいに押しつぶされている。


「暑苦しい!」


 関都は2人を払いのけてしまった。関都にはおっぱい攻撃は通用しないであった。こうして、体育の時間は終わった。

 女子も男子も再び着替えている。そして帰りのバスに乗ろうとしていた時、慈美子はある事に気が付いた。


(あら?これ城之内さんのバッグだわ!同じものだからどこかで取り違えたのね!)


「城之内さ~ん!!!これあなたのプールバッグよ~!!!」


 慈美子は城之内大声で城之内の方に走って行った。クラスメートは全員慈美子に注目する。その時、慈美子は溝につまずき、転んでしまった。慈美子は顔面を地面に強打した。その衝撃でプールバッグの中身が零れてしまった。


「ん?!なんだ!?あれは!?」

「胸パッドじゃないか!?」


 クラスメートはざわついた。なんと零れ落ちた城之内の水着のブラに胸パッドが付いていたのだ。城之内は元から胸が大きかったが、胸パッドを使う事でより大きく見えるようにドーピングしていたのだ。城之内は顔が薔薇のように真っ赤になった。


(ま~!!!皆様の前でこのわたくしに恥をかかせるなんて許せませんわぁああ!!!!)


 城之内の顔は恥かしさと怒りでペンキを塗ったように真っ赤になった。真っ赤な髪と見分けがつかないくらいである。


「大丈夫か!」


 関都が心配そうに慈美子に駆け寄った。慈美子の顔もペンキを塗ったように真っ赤になっていた。慈美子は泣きながら悲痛の声を上げた。


「ああん!私の美肌が台無しだわ~!」

「手当した方が良いな。学校に戻ったら保健室に連れて行ってやる」


 そういうと、関都は慈美子にポケットから取り出したハンカチを手渡した。慈美子は少しテレ笑いをしてハンカチを受け取った。


「ありがとう…」


 お礼を言いながら、慈美子は関都から借りたハンカチで顔を拭いた。それを見た関都は一安心する。

 そして、関都は零れた荷物を拾い集めてプールバッグに詰め、城之内に渡した。


「ん?お前も顔が真っ赤だな?ハンカチいるか?」

「結構ですの!」


 城之内は半泣きで関都の申し出を断った。その後、慈美子は関都によって保健室に無事送られた。そして残りの授業を終えて帰宅した。


「ハンカチは洗って返さないと!」


 こうしてまた慈美子の楽しい1日が終わるのであった。

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