第6話 遊園地
慈美子は昼休み時間、校庭の隅で関都と喋っていた。しかし、城之内の取り巻きの三バカトリオが間に入ってきて、慈美子と関都の仲を邪魔した。これも勿論、城之内の指示である。
5人が勉強の話で盛り上がっていると、城之内が一足遅れてやってきた。
「皆様!ご機嫌麗しゅう!」
城之内が銃を取り出す様に懐から何かを取り出した!慈美子は思わず身構える。
しかし、城之内が取り出したのは武器ではなかった。城之内は髪を掻き揚げウィンクをしながら説明する。
「ここに遊園地・ウォルトランドのチケットが5枚ございますの!皆様を遊園地にご招待致しますわ!」
「ウォルトランドだって!日本最大のリゾート施設の!?」
関都は今にも飛び上がって踊り出しそうな歓喜の声を挙げた。関都はウォルト映画の大ファンなのだ。そして、慈美子もまたウォルト映画の大ファンだった。
城之内は関都の質問に英語で返答した。
「イグザクトリー!しかも、1日貸し切りイベントのチケットですの!その日は観客が4000人しか居ませんのよ~!」
「貸し切りチケットだって!?」
「ええ!4000人限定ご招待の1日貸し切りイベントのチケットが5枚も手に入ったんですの!」
関都は子どものように大喜びした。
慈美子も関都と同じように大喜びした。いつも意地悪な城之内がとんでもないプレゼントを持ってきてくれた事に、夢じゃないかと疑いながらも、慈美子は感謝した。
「私まで招待してくれるなんてなんだか悪いわぁ…」
「?…。何を勘違いなさってるんですの?チケット5枚はわたくしの分も入れて5枚ですの。地味子さんの分はございませんわ!」
城之内は、がけから突き落とす様に慈美子を仲間外れにした。三バカトリオも迎合するように、それに同調した。
「悪いわね、地味子さん!」
「このチケット5人用なんだわ!」
「悪いけど地味子さんはお留守番よ!」
慈美子は顔文字のようにショボーンとした。城之内は「バイバーイ」とでも言いたげに慈美子に手を振った。
しかし、その話を聞いていた関都は嬉しそうな態度を翻した。
「慈美子を仲間外れにするんだったら僕も行かない!」
関都は選手宣誓のように、声高らかに宣言した。城之内はあまりの誤算に万引きがバレた万引き犯のように慌てふためいている。
「ほほほほほ!冗談ですわ!冗談!わたくしの財力を持ってすれば、もう1枚くらいチケットを確保できますわ!よろしかったら、地味子さんもそれで…」
城之内は慌てて取り繕った。関都が居ないんじゃ行く意味が無いのだ。城之内は日本のウォルトランドの貸し切りイベントなど小さい頃から飽きるほど行っていて、ウォルトランド自体が目当てじゃないのだ。
関都の出してくれた助け船に慈美子はホッとした。しかし、すぐに思い直した。
「いいえ、私は遠慮させて頂くわ。関都くん。私の事は気にしないで行ってきて!」
「まぁ!自ら身を引くなんて、身の程をわきまえてらっしゃいますわ!」
城之内は慈美子の予想外の発言に、メロドラマでも見たかのように感激した。同時に、これで邪魔者は居なくなったとほくそ笑んだ。
「地味子さんにはお土産をたっぷり買ってきて差し上げますからね~!」
「結構よ!」
きっぱりと断ると、慈美子は飛び跳ねるウサギのように素早く立ち去って行った。そんな慈美子の後を関都はチーターのように追う。
「慈美子!本当にいいのか?」
「ええ!せっかくの機会ですもの!楽しんできて!」
慈美子は心の底からの笑顔を見せ、関都を後押しした。ストーカーのように関都を追って来た城之内もその言葉に同調した。
「そうですわ!地味子さんの事は忘れて、ウォルトランドの貸し切りを楽しみましょう!」
「ええ、楽しんできて。絶対に私に遠慮なんてしないでね」
慈美子は関都に念押しし、逃げ去る様に女子更衣室に入っていった。
そして、ウォルトランド貸し切り当日。城之内達5人は遊園地の前で待ち合わせしていた。5人は待ち合わせ時間の10分前には全員集合していた。
「慈美子も来られればよかったのになぁ…」
関都は慈美子の事を老婆心のように心配した様子で呟いた。その言葉を地獄耳の城之内は聞き逃さない。
「あんな人の事は忘れて、ささっ!楽しみましょう!」
城之内は元気いっぱいに関都を励ました。関都はそれでも浮かない顔である。しかし、次の瞬間、関都の顔色が変わった。
「関都く~ん!!!」
聞き覚えのある声である。そう、慈美子の美声だ。関都はすぐに声のする方へ駆け寄った。城之内も慌てて付いて行く。
そこには何と慈美子の姿が…!関都は驚いて質問する。
「慈美子!なぜここに?」
「…ふふっ!来ちゃった!」
「あ~ら、地味子さん!チケットもないのに何しにいらっしゃったの?お見送りかしら?」
城之内が見下したように、慈美子に嫌味たらしく、質問した。そんな城之内に、慈美子はある物を見せつけた。城之内は慈美子が手に持っているものに驚嘆する。
「それは貸し切りチケット!どうしてあなたがお持ちなの!?」
「手に入れたのよ。自力でね」
城之内は飛び上がる程に驚愕した。なんと、慈美子は自力で貸し切りチケットを入手していたのだ。
(いー!この女!どうやってこれを!まさか盗んだんじゃ…)
「言っとくけれど、盗んだわけじゃないわよ」
城之内はその言葉に心臓を掴まれたように仰天した。心の内をすっかり見透かされていたのである。城之内は慈美子を問いただそうとした。
「じゃあ、一体どうやってそのチケットを…」
「そんなことはどうでも良いじゃないか!6人でウォルトランドを楽しもう!」
「そうね!」
「入場40分前だ!早く並ぼう!」
慈美子は城之内の疑問には答えなかった。何はともあれ、6人は入場窓口に並んだ。貸し切りとは言え4000人も居るのである。
そして開園。6人は一斉に中に入った。関都が皆に声をかける。
「さぁ楽しもうぜ!」
「わたくしが皆様をエスコートして差し上げますわ!わたくし、この遊園地には靴が磨り減る程何度も繰り返し来てますの!」
城之内はガイドさんのように5人を先導した。そして、目当ての人気アトラクションを次々に案内された。
そこでも、三バカトリオが城之内のトス役として活躍する。乗り物に乗る時、城之内と関都が隣同士になるように、また、関都と慈美子が隣同士にならないように巧妙に並んだのだ。もちろんこれも城之内の指示である。
皆が大人気アトラクションの乗り物から降りると、城之内が率先して皆に呼びかけた。
「ここで写真も買いましょう!このアトラクションは途中で写真が撮影されてますの!」
城之内に言われた通り、皆記念に写真を買った。写真のディスプレイをスマフォのカメラで撮影するようなセコイ真似をするお客は今日はどこにも居なかった。
記念写真を見た関都は大はしゃぎした。
「おおお!しっかり映っているな!」
「でしょう?わたくしが合図した場所で撮られたんですもの!表情もばっちりですわ!」
関都と城之内はカメラ目線でしっかりとした良い表情をしていた。乗り物に乗っている最中、城之内が隣に座っている関都にカメラのポイントをこっそり教えたのだった。そのため、2人はしっかりカメラに向けてポーズしていた。
2人はまるでお似合いのカップルの様であった。いいや、むしろ、おしどり夫婦のようであった。
「関都くんと城之内さん、お似合いだわ~!」
「そうね!まるで夫婦みたいだわ!」
「私達なんて無表情ですものね!しっかり表情とポーズを決めてる2人はかっこいいわ!」
慈美子は黙っていたが、内心城之内に嫉妬していた。関都にだけカメラの場所を教えていたのもズルいと感じた。しかも、慈美子は目を瞑って映っていた。まるでスヤスヤ眠っているようである。
城之内も慈美子の気持ちを察して、ますます上機嫌になった。
「さぁ!次のアトラクションに向かいましょう!」
城之内は満足げに、5人を先導した。最後に向かったアトラクションはお化け屋敷である。実は城之内はお化け屋敷が苦手なのだ。しかし、どうしても関都とは入りたかった。
慈美子もお化け屋敷は大の苦手である。しかし、関都と一緒なら大丈夫かもしれないと思った。
「きゃああああああ!!!」
城之内は虫でも見たかのような悲鳴を上げて、関都に抱き着いた。しかし、関都はいたって冷静である。落ち着いた口調で城之内を宥めた。
「落ち着けよ。これは作り物だ。本物だったら怖いが」
関都は全然平気そうである。リアクション芸人だったら0点なほどに関都は全く動じていない。
一方、慈美子と城之内は120点のリアクションを取っていた。
「いやああああああ!!!」
慈美子もお化けに驚いて悲鳴を上げている。しかし、三バカトリオがしっかりガードしていて、関都には抱き着けない。仕方がないので三バカトリオに抱き着く。
「ちょっと、あんた、暑苦しいわよ!」
「はっはっは!落ち着けよ慈美子!作り物だって!」
関都は怖がる5人の女子たちの姿に呆れ笑いを浮かべた。城之内は関都に抱き着き、三バカトリオは慈美子と抱き合いながらゴールした。
「あ~!面白かった!今日は楽しかったな!」
「ええ!最高の1日でしたわ!今までの貸し切りイベントの中でも1番の思い出ですわ!」
しかし、慈美子は心のどこかがモヤモヤしていた。楽しかったか楽しくなかったかで言えば楽しかった。慈美子も十分にヴォルトランドを満喫していた。しかし、どこかスッキリしない。心の奥底がなんだかモヤモヤしているのである。
(この気持ち…関都くんへの城之内さんに対する嫉妬心かしら…)
「慈美子も楽しかっただろ?」
関都が陽気に慈美子に話しかけた。慈美子は顔に水でもぶっかけられたかのように、ハッっと我に返った。
「え?うん!勿論よ!」
こうして6人はヴォルトランドから退園し、帰路に付いた。
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