4 中学校の教員になった花純は、同僚の臼田一史に告白される

 大学を卒業して中学校の教員となった坂上花純は、一人暮らしを始めて2年になった。教員の仕事は多忙を極め、教材研究や授業案、部活動や生徒指導に追われていた。この中で恋愛などしている暇はないと思っていたが、教員2年目に交際を申し込まれた。その人物は、同僚の体育教師で、5歳年上の臼田うすだ一史かずふみだった。バレーボールが専門で、花純がその副顧問になった事がきっかけだった。放課後の練習や休日も練習試合があり、ほぼ毎日のように一緒に行動する内に、臼田が彼女を意識するようになった。

 臼田から交際を申し込まれた時、花純には特別な感情はなく断っていた。それでも、食事に誘われたり飲みに連れて行かれたりして、事実上の交際が始まっていた。二人が付き合っている事は、校内で周知されていった。花純は臼田が特に好きという訳でもなく、生徒達の間で噂されるのを恐れていた。

「臼田先生、私は同じ部の顧問としてお付き合いしてるだけで、生徒達の噂になる前に、もう誘わないでください。」

「坂上先生は、僕が嫌いですか?僕は好きです!先生の思いやりのある生徒への接し方、優しく微笑む顔がたまらなく好きなんです。」

 花純はそう言う彼に誠実さを感じるようになり、次第に魅かれていった。半年後の夏休みには、学校の近隣を避けてデートするようになった。山中湖にドライブに行った日に湖畔で、

「坂上先生、花純と呼んで良いですか?僕のことも一史と呼んで下さい。」

「それはちょっと…。恋人でもないし、先生は先生だから。」という花純の顎を引き寄せて、彼がキスを迫ってきた。花純は何となく予期していて、片手で自分の口を、片手で彼の顔を遠ざけた。

「花純、可愛いな!キスしたことないの?女子高生みたいだね。」

「失礼な!キスぐらい、したことありますよ。先生とはしないということです。」

「そうか、今日は止めとこうか。また今度ね。」

 その日はそれで治まったが、女子バレー部の夏合宿の時に再び迫られた。昼の練習が終わり、夜になって生徒が就寝した後、打ち合わせという事で彼の部屋に呼ばれた。確かに明日の練習のメニューを作ったが、帰り際に呼び止められてキスをされた。無理矢理にという風でもなく、花純も納得しての口づけだった。ただ、生徒はいないが、職務中の事で後ろめたさを感じていた。

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