3 はっきりしない明治との関係に、花純は終止符を打つ
大学4年の9月、教員採用試験のお疲れ会という名目で、花純と明治は盃を交わしていた。明治は飲めない質だったが、花純に付き合っていた。
「明治君の本命は、地元の高校社会だよね。難しいでしょ!受かったら、金沢へ帰るんだよね。私は東京の中学が第1志望だけど、離れ離れだね。」
「確かに難しいかもね。でも、東京も受験しておいたから。」
「何それ、東京を甘く見てない?私を置いて金沢に帰るのは、寂しくないの?」
花純は酔いが廻っていて、彼にからんでいた。
「私たちの関係は何なのよ!恋人じゃないし、友達?明治君は、私のことをどう思っているのか、訊かせてよ!それに、いつまで坂下さんと呼んでるの?私が下の名前で呼んでいるのに、花純と呼んでよ!」
「どうって、花純・・さんと一緒にいると楽しいし、何でも話せる相手だと思っている。ただ恋人かと訊かれると違うような気がするけど、坂下さんの事は好きだよ!僕は友達と恋人の違いが分からなくて、どうすれば恋人なのかな?」
明治の言葉を、花純は黙って聞いていたが、本心はイライラしていた。
「あのさ!友達は友達、恋人は恋人なんだよ。どうすれば?君は男でしょ。本能に従って行動してみなさいよ!それを受け入れてくれたら、恋人なんだよ!」
花純は自分でも混乱していて、自分たちの仲が、どうすれば良い方向に進んでいくか分からなかった。その日は何もなく、そのまま別れた。
クリスマスイブの日、花純と明治は一緒に食事のできる店を探していた。どこも満席で、予約もなしに入れる店はなかった。明治は恐縮して謝っていたが、花純は世間知らずの彼に好感を抱いていた。
「仕方ないよ。私は実家だから、明治君の部屋に行こうよ!スーパーで何か買って、そうだ鍋パーティーをしよう!ケーキも買ってね。」
花純は半ば強引に、彼の承諾を得た。彼の部屋に着いて、
「男の子の部屋は乱雑だと先入観があったけど、中々きちんとしてるんだね。ここに女の子は来た事はあるの?」と花純は探りを入れてみた。
「そんなのないよ!花純さんが初めてで、まさか女の子がこの部屋にいる事が信じられないよ。何か照れ臭いよね。」
「へーそうなんだ。4年間、女っ気なしか。純というか、寂しいというか。」
二人で食事の用意をし、買ってきたワインで乾杯し、ケーキを食べた。花純にとっても、明治にとっても初めて異性と過ごすクリスマスだった。食後はゲームをしてくつろいでいたが、気が付くと花純の終電の時刻が迫っていた。
「やばいな、またやってしまった!前も母親に怒られたんだよな。今さらだけど、電話しておくね!今日は友達の家に泊まるって。」
花純が電話している間、明治は彼女の言葉が腑に落ちず、落ち着かなかった。
「ねえ、またって言ってたけど、男の家に泊まったことが以前にもあったの?」
「やだ!そんな事を気にするんだ。意外だな。あるよ、先輩の家に知らずに泊まっていたんだ。でも、何もなかったよ。安心した?」
花純は彼の動揺を察して、意地悪く答えていた。
「今日も何もないのかな?安心して良いのかな?」
花純の更なる追撃に、明治は何も答えられなかった。
「ねえ、キスしてみようか?したくない?」と花純に迫られ、彼は彼女に顔を近付けた。震える唇を、彼女の唇に押し付けるだけで精いっぱいだった。花純も自分で意識してするキスは初めてだったが、意外と冷静で「こんなものか」と思った。明治はそれ以上の事を求めはせず、何もないまま夜を明かした。
3月には採用先の学校も決まり、花純は東京の中学校、明治は実家がある金沢に帰る事になった。彼の引っ越しの日、花純はその手伝いに行き、はっきりしない彼に別れを告げた。心の中では彼の告白を待っていたが、明治からは何もなかった。
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