4 街をさまよっている真莉愛に、元カレの榎翔之介に声を掛ける

 真莉愛は行く当てもなく街をさまよっていると、一人の男に声を掛けられた。

「真莉愛か?久し振りだな。」と言ってきたのは、高校時代に付き合っていた榎翔之介だった。彼は夜の街で、黒服のアルバイトをして暮らしていた。

「誰かと思ったら、翔君?大人っぽくなったね。」

 二人は懐かしさで意気投合し、居酒屋に連れ立って入った。そこでは、高校の時のサッカー部の話や、卒業してからの話で盛り上がった。ビールや酎ハイを浴びるように飲んで、真莉愛はろれつが廻らなくなっていた。それというのも、純人との件で落ち込んでいたのも一因にあった。

「私の彼氏はひどいんだよ!元カノとまだ続いていて、一緒に一晩過ごしたんだって。信じられないよね、翔君!君は彼女とかいるの?」

「俺は、あの時から真莉愛一筋で、今でも好きだよ!」

「ふざけんなよ!君はあの時、私に何をしたのか忘れたのか?後輩と二股掛けられて、傷付いたんだから。男は皆、信じられないよ!」

 真莉愛が酔いつぶれたのを見計らって、翔之介は彼女を連れて店を出た。

「真莉愛、大丈夫か?俺の行きつけの所に行こうな!ホテルだけど。」

 

 翔之介には下心があり、真莉愛を抱きかかえながら歩いていると、背後から呼び止められた。

「何だ、君は。俺の彼女をどこに連れて行く気だ?」

「あんたがひどい彼氏か?真莉愛は俺のことを、まだ好きなんだよ!」と言う翔之介から彼女を引きはがし、強い口調で威嚇した。すると、翔之介は捨て科白を吐いて退散していった。純人は彼女を家に連れて帰り、介抱した。

 翌朝目を覚ました真莉愛は、

「何で?私はここにいるの?全然覚えていないけど、純人さん?」と呼んだ。

「目が覚めたか?昨夜はすごく酔っていて、変な男に連れて行かれそうだったのを助けたんだよ。花純から連絡があって、心配になって行ってみた。」

 真莉愛は翔之介がトイレに立ったすきに、花純にメールを送っていた。相手が翔之介だと知った花純は、危険を察知して兄の純人に電話をしていた。

「真莉愛が無茶をしたのは、俺に責任があるんだね。俺が優柔不断だから、君に余計な気を遣わしたと反省している。真莉愛のことが好きで、大切な存在だと思っている。だから、元の彼女とはきっぱりと別れるよ。」

「本当に?私が大切だと思ってくれるの?じゃあ、私、安心して待っていて良いんだよね。その時が来たら、私と…。」

 真莉愛は彼に抱き締められ、自分の軽率な行動を後悔していた。そんな自分を優しく受け止めてくれる彼の事を、信じて待つ事にした。

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