第6話 電話③

 結局、交番を探すことにした。その方が早い。この年で迷子みたいで情けないが、まあ仕方ない。


 丁度、通りの反対側から、人が歩いてきた。麦わら帽子にラクダのシャツ、ステテコ、腹巻きに下駄、手には果物籠くだものを抱えた男だった。何と言ったらいいのか、不思議な格好だ。


「すみません」

 一瞬、ためらった後、声をかけてみた。

「交番はどちらですか?」

「交番?ああ駐在さんなら、この先の坂を上って、少し行った左側だよ」

 いたって普通の口振りだった。気の良さそうな人で、ほっとした。

「ちょうど、これから交換所に行くから、途中まで一緒に行くよ」


 ありがたい。道中、ステテコのおじさんは、楽しそうに鼻歌を歌っていた。

「地元の方なんですか」

 話しかけると、おじさんは首を振った。

「いや、まあ、前は近くに住んでいたんだけどね。次のバスで帰るところだよ」

 もうすぐ、バスが来るらしい。時間を聞いてみた。 

「そうだね、三十分くらいあとかな」


 三十分か……この後、駐在所まで行って戻って来られるか、微妙なところだ。

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