第50話 *おまけ*
孝寿の結婚発表 〜出張繊細男子〜
僕は繊細にできた人間だ。色白でヒョロリとしてメガネを掛けている風貌からも見て取れるだろう。
高校3年生の2学期だ。文化祭も終わり、来週から12月に入る。
もう何人かは進路が決まっているらしい。決まったからなのか、ほとんど学校に来ていない生徒もいる。
だが、僕の友人達は誰一人決まっていない。今日も、放課後の教室でみんなでだべっている。
何の因果か、3年生のクラス替えで
天使のようにかわいく可憐な僕の愛するありすも同じクラスなことが唯一の救いだ。もう窓際の席は、出席番号1番の僕、
「孝寿、昨日誕生日だろ。おめでとー!」
「ありがとー! 太一! プレゼントは?」
「この、孝寿を祝う気持ちだよ」
「ねえのかよ」
「俺クリスマスに
「またブランド物かよ。今からでも遅くねえ。渡はやめとけ。金かかるぞー」
「おめでとー。のど飴あげるー」
渡さんが泉くんの机にのど飴を置く。
「せめて新しい奴寄越せよ、渡!」
「もらえただけありがたいと思いなさいよ!」
「なんで開封済みののど飴渡して恩着せてんだよ、おめーは」
と言いながらも、泉くんがのど飴を口に入れる。
「誕生日おめでとう、泉くん。18歳か。結婚できる年だよね」
ふと思い出して言った。
「こんな狂犬と結婚したい女がいる訳ないじゃん。女の子よりかわいい顔してるしさー」
うん、僕も渡さんに同意だ。泉くんは顔はかわいいけど、性格狂犬だからね。
「あ、俺昨日結婚したんだわ。18歳になったから」
「はあ?!」
みんなの表情がすごい。揃いも揃ってすごい顔で泉くんを見ている。
「またまたー、どうせ冗談なんでしょ、泉くん」
僕は今更、そんな泉くんの手には乗らない。
「いや、マジで」
「嘘でしょ、どうせ」
「しつけえ。マジめんどくせーな、愛堂くん」
「え、あの塾講師のお姉さんと?」
小田くんは彼女がいることは知ってたようだ。
「そう」
「超スピード結婚だな! 付き合いだしたの結構最近だろ!」
「まーな」
「えっ……泉くん、彼女いたの?」
30代カフェ店長の彼氏がいる橘さんがかなりショックを受けた顔をしている。
「彼女ってーか、婚約者だな。付き合う前から結婚するって決めてたから」
……え? 何? マジで結婚したの? ……いやー、まさか。高校生だよ? 僕達と同じ。
「ええー、結婚しちゃったの?」
「ごめんね、君のこと選べなくて」
ホストスイッチの入った泉くんが立ち上がり、橘さんの肩を抱いてほっぺたにチューをする。
「キャー! 寂しいけど、おめでとう!」
寂しいのか。カフェの店長に言いつけてやろうかな。橘さんも卒業したら結婚すると言っていたのに。
「え? マジで? マジで結婚したの? 泉」
さすがの渡さんも驚きを隠せない様子だ。
「泉と結婚したい女が存在したんだ?! それ女? あんた男と結婚したの?」
「女に決まってんだろ! 俺の戸籍、男なんだから!」
「マジでー?! 女と結婚したの?!」
どこに驚いてたんだ、渡さんは。
「本当に結婚したの? 泉くん」
ありすも呆然としている。
「したよ」
あの泉くんが、見たことのない穏やかで幸せそうな顔で笑っている。
ああ、本当に結婚したんだ。こんなに幸せそうな笑顔を、いくら泉くんでも嘘でできるはずがない。
「おめでとう! 泉くん!」
目いっぱいの拍手を送ろう!
「そうだ、めでてーわ! おめでとう! 孝寿!」
「ほんとだ! びっくりしておめでとう言うの忘れちゃってたよー。泉くん、おめでとう!」
「離婚したら教えてね、泉くん!」
「本当に女か確認した方がいいわよ、泉!」
わっと大きな拍手が起きた。2人ほど拍手はしてるけど、祝ってないな。
「ありがとう! みんな、ありがとう!」
泉くんが両手を上げて拍手に応える。本当に、嬉しそうだ。きっと、大好きな人と結婚したんだな。見てると、僕まで嬉しくなってくるようだ。
「俺らも結婚するか、美菜子!」
「泉に影響受けて結婚するみたいで嫌」
「いいじゃねーかよ、影響受けろよ。てーか、太一まだ17じゃん。結婚できねーよ」
「あ、誕生日来ないとダメなのか」
「私、卒業より誕生日の方が遅いんだけど」
「女は今んとこ16で結婚できるから、おめーの誕生日なんかどうでもいいんだよ。卒業も関係ねーし」
渡さんは本当に物を知らないなあ。
「俺、守るべき家族ができた! だから俺、大学受験落とせねーんだわ。聖天坂大学の経営学部行って社長になって奥さん養わねーと!」
「現状どうしてんの?」
「奥さんの収入と、奥さんの元彼の私物売って金にしてる」
「泉も聖大?! どうせ聖大がサッカー強いからでしょ。他にも強い大学あるんだから違うとこ受けなさいよ。大学でまでこんな部活バカと顔合わせるのヤダ」
「え……お前、聖大受けるつもりなの? 馬鹿はお前だろ。渡の成績で受かる訳ねーじゃん」
「馬鹿は泉よ。私には天才の幼なじみがいるからね。幼なじみに聖大対策専用アプリ作ってもらったから絶対合格よ」
「へえ、奇遇だな。俺にも天才の知り合いがいんだよ。聖大対策専用アプリ作ったからってくれたんだよね」
「へー。うちの天才とあんたの天才と、どっちが合格させられるでしょうね。うちの天才舐めると痛い目みるわよ」
「いーよ、勝負してやろーじゃん! 俺ぜってー合格すっから」
天才がそんなにポコポコいるものだろうか。同一人物じゃないのか、もしかすると。
と言うか、僕とありすの第1志望も聖天坂大学なのだが。志望校変更しようかな。
話し込んでいたら、すっかり遅くなってしまった。家路につく。
「あれ? 小田くんと帰らないの?」
いつもは小田くんと一緒に渡さんを送って電車で帰る泉くんが、ありすを送る僕と同じ方へ来た。
「俺、
「ああ、結婚したから?」
「そうそう。奥さんのマンションに昨日引越したんだー」
「へえ、聖天坂何丁目?」
「八丁目」
「あ、うちと同じだ」
「じゃあ、一緒に帰ろうよ」
「いいよ、先にありす送ってっていい?」
「いいよ」
「ねえ、結婚したら何か変わった?」
ありすも結婚した泉くんに興味津々のようだ。
「朝起きたら、俺が一生幸せにする人が隣で寝てた」
「えっ」
結婚すると、こんなにも大人っぽいことを言うようになるのか!!
「あー、なんかいいなあ」
ありすがうっとりと泉くんを見ている……。ま、まあ、泉くんは既婚者だ。気にすることはない。
「宇崎さんも、俺と結婚してみる?」
泉くんがありすに微笑む。既婚者でもこんなことを言うの?!
「できないよ! 日本では重婚は認められてないよ!」
「え、じゃあ愛堂くんとも結婚できないのー?」
「できないよ!いや、男同士だから元々できないよ!」
「あはは! 気付くのおせーな、愛堂くん」
「あ、うちここだから、また明日ね」
ありすの家に着いた。
「あ、俺のことは気にせず、別れのチューとかしちゃってよ」
「しないよ! じゃ、じゃあ、また明日ね」
ありすが慌てて家に入って行く。
「また明日!」
ありすが振り向いて笑って手を振る。
ありすが家に入るのを見届けて、僕達はまた歩き出す。
しばらく他愛もない話をしていたが、やっぱり結婚した泉くんが気になる。
「結婚って、どんな感じ?」
「質問が抽象的過ぎるな。何を答えたらいーんだよ」
「だって、僕には結婚が抽象的だから」
「そっかー。好きな人と最大限一緒にいられて、好きな人を一生幸せにする使命を負って、奥さんのために俺がしっかりしなきゃなって、決意を新たにする感じ」
僕には、分かるような分からないような話だな。
「ひと言で言うと、結婚ってどんな感じ?」
「んー。幸せ!」
「ああ、それは最高のひと言だね」
「うん! 最高だよ! あ、俺こっちだから、また明日ね、愛堂くん」
「うん! また明日!」
幸せ、か。
わざわざ聞くまでもなく、幸せなのは見てるだけですごくよく分かったな。
結婚おめでとう! 泉くん。
年下男子×年下男子 ミケ ユーリ @mike_yu-ri
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