第48話

 ピンポーン、ピンポーンとインターホンが鳴る。


「ごめん、電話してたから」


 とドアを開けた。


 直くんと瑚子ちゃんが立っている。


「おめでとう、杏紗」


 直くんが微笑んでいる。あー、やっぱり超絶かっこいい!


「ありがとう」


「ご結婚おめでとうございます」


「ありがとう、瑚子ちゃん」


 直くんがリビングへと向かう。


「まさか、本当に泉先輩と結婚するとは思わなかったよ」


「良かったわね。心置きなく直くんと付き合えるでしょ」


「お前が惨めにフラれよーと、私は心置きなく須藤さんと付き合うけどな」


 言うことがかわいくないなー。


「まだ須藤さんって呼んでるんだ。彼女なんだから直って呼べばいいのに」


「す……呼べる訳ねーだろ!」


 瑚子ちゃんが真っ赤になった。ふん、大人を甘く見た発言するからよ。


 さっさと私もリビングに行く。直くんがダイニングテーブルに座って、婚姻届の証人欄に記入してくれている。


「はい、書いたよ」


「サンキュー、直。印鑑も綺麗だし、後は俺の証人欄書いてもらったら、完成だ!」


「え? 私が書くの?」


「あばずれは証人になれねーんだよ」


「は?!」


「未成年がなれないの!」


「万が一将来お前達が結婚することになったら、俺らが証人欄書いてやるよ」


「け……結婚?!」


 瑚子ちゃんがまた真っ赤になる。この子この調子で、直くんと2人きりの時とか大丈夫なのかしら?


「ねえ、瑚子ちゃんと普段何しゃべってんの?」


 直くんに小声で聞いてみる。


「一緒に料理する時以外はほとんどしゃべんないなー。俺がずっとゲームしたり本読んでるのを瑚子がずっと見てる感じ」


 ストーカーと変わんないじゃん。


「楽しいの? そのお付き合い」


「楽しいよ。瑚子んち本いっぱいあるんだよ。全然読み終わらない」


 図書館でいいんじゃないかしら。2人とも実家だから、お互いの家に行き来しているらしい。どちらの両親とも顔合わせてるし、もしかしたら万が一結婚もあるのかもしれないな。


 ピンポーンと、インターホンが鳴った。


「俺の証人だ!」


「え? 親御さんに書いてもらいに行くんじゃなかったの?」


「行くのめんどくせえ。近場の奴に来てもらうのが1番早い」


 と言いながら孝寿が玄関へと出て行った。……近場の奴?


「杏紗! やっぱり最後には俺を選んだんだな!」


「は?! 拓人!」


 拓人が嬉しそうにリビングに入って来た。これが近場の奴?!


「お兄さん、これ書いて」


 孝寿が婚姻届を拓人に渡す。


「婚姻届! 杏紗……ありがとう、杏紗! 俺もう二度と浮気なんてしないと誓う!」


「あはは! バーカよく見ろ、杏紗ちゃんと結婚するのは俺だよ。お兄さん、証人欄書いてよ」


「はあ?! うわ、マジか!」


「お祝いは10万でいいよ。お兄さん、社会人の男なんだから10万くらい持ってんだろ」


「はあ?! 社会人に夢持ち過ぎだろ、クソガキが」


「そのお兄さん、金持ってねーよ」


「そっちのクソガキもうるせえ! いつかそのうちお前にもらった10万も返してやるよ!」


「いつかそのうちかよ。マジで金ねーの? ちゃっちゃと証人欄書いて帰れ、使えねーな」


 言いたい放題だな、孝寿! もーなんでこんなめんどくさい奴呼んでるのよ! てか、連絡先知らないはずなのにどうやって呼んだんだろ?


「お前ふざけんのもたいがいにしろよ! しかも、お前の証人じゃねえか! なんで俺が!」


「お兄さん、俺お兄さんに謝りたかったんだ。何十発と蹴ってごめんね? 俺、お兄さんと仲良くなりたいんだよ」


 孝寿が潤んだ目でかわいく拓人を見上げている。いやー、生粋の女好きの拓人はさすがの孝寿でも無理があるんじゃないかしら。


「お前……生意気で憎たらしいクソガキだとしか思ってなかったけど、こんなかわいい顔してたんだな」


「俺のこと、許してくれる?」


「許す! 俺もお前と仲良くなりたい」


「お兄さんが置いてってる私物、売り払ってもいい? あんなおっさんくせー服俺着ねーし。俺、金ないんだ」


「……時計だけは返して?」


「時計高いの? 俺、お兄さんの時計欲しい」


「……仕方ねぇな、やるよ」


 ……あー、拓人も落ちたか。噛みしめるような笑顔で拓人が孝寿を抱きしめている。


 爽やかな笑顔で、孝寿が拓人と直くんを見る。


「俺、杏紗ちゃんにあのベッドでやったの俺で3人目だって聞いて、思ったんだよね。同じベッドで同じ女とやった同士、仲良くなれたらいいな……なんて」


 いらんわ! そんな同盟!!


「それもいいな。お前が20歳になった時、酒でも飲みながら杏紗の生々しい話ができるように、俺杏紗の体忘れねーわ」


「そうだな……俺も、瑚子とやりながら杏紗の体思い出すようにするよ」


「やめてよ!!」


 瑚子ちゃんと声が被った。瑚子ちゃんがめちゃくちゃ睨んでくる。


「まだ邪魔すんのかよ、お前! このクソビッチ!」


「私じゃないでしょ! 泉先輩に言いなさいよ!」


「嵯峨根、今何つった?」


「あ!」


「杏紗ちゃんはクソビッチなんかじゃねーんだよ。生まれついてのビッチなの。俺達男に快楽を与えんがため神が授けたナチュラルボーンなビッチなの」


「違うわよ! 調子乗り過ぎ!!」


「あはは! ごめんごめん! 杏紗ちゃんと結婚できるのが嬉しくてつい」


 嬉しくてつい自ら嫁になる女をビッチ呼ばわりする男がどこにいるってのよ!

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