第47話 いい夫婦の日

 あ、朝っぱらから電話だ。香凛だ。


「はーい」


「おめでとう、杏紗ー!」


「ありがとうー! てか、早いわね! まだ孝寿も来てないわよ」


「まさか、最年少の高校生をあの杏紗が選ぶとはねー」


「もう年上がいいなんて気持ち、皆無よ。年下オンリーよ」


「でもさ、高校卒業してから入籍するって言ってたのに、えらい急だね? 昨日ライン見て驚いたわ」


「卒業してからのつもりだったんだけど、塾の先生達から入籍おめでとうって大きな花束もらっちゃって。いや、入籍は先なんですーとも言えなくなっちゃって」


「それも高校生が?」


「あの子半端ないよ、絶対に自分の思い通りにしちゃう。周りの固め方が半端ない。コンビニのオーナーからもお祝いもらっちゃったし、親からも、お前は何も考えなくていいから孝寿くんの言う通りにしといたら間違いない、とか言われて」


「あはは! 親がー?」


「塾の先生達も、いつの間にか孝寿が弟じゃないことも親戚なことも高校生なことも知ってたの。全部知ってるのに全力で祝われたらもう、逃げ場ないよ。もう何も考えずに孝寿に任せておけばいいやって思ってる」


「それがいいかもねー」


「楽ではあるのよ。結婚って色々めんどくさいものじゃない? その辺、私の知らない間に終わってるの」


「ちょうどいいじゃん。杏紗、怠け者だし」


「私も最近、これでいいじゃんって思うようになってきたわ。家事も手早いしね。私がボーッとしてる間に終わってるの」


「何それ、超優秀ー。うちにも高校生1人欲しいんだけど」


「あげないわよ!」


 ドアの開く音がした。


「あ、孝寿来たみたい」


「ビデオ通話にして掛け直す! 私も高校生と話してみたい!」


「え?」


 電話が切れてる。ええー……孝寿と香凛が話するの? なんか嫌……。


「おはよう、杏紗ちゃん」


「おはよう」


 大きな荷物を両手に持ってリビングに入って来た孝寿とハグしてキスをする。


「ねえ、香凛が孝寿とビデオ通話したいって。いい?」


「わざわざビデオ通話? 俺の顔見たいの?」


「……かなあ?」


 電話が鳴っている。ビデオ通話にする。


「はじめましてー、香凛ですー」


 と、凛音ちゃんを抱っこした香凛が手を振っている。


「凛音ちゃん、大きくなったねえ!」


「杏紗が年下にハマってからの年月、この子は大きくなったのよ」


「あー、凛音ちゃんが生まれて間もなくだったなあ。直くん拾ったの」


「高校生は? 高校生出してよ!」


 孝寿が顔を寄せて、画面に入る。


「はじめまして、香凛さん。孝寿です」


 ……なんでホストモードのキメ顔してんの?


「超かわいいじゃん!」


「いやいや、香凛さんこそ、お美しい。さすがは杏紗ちゃんのお友達だなあ。俺、惚れそうかも」


 ねえ、何言ってんの?


「キャー! 超ヤバいじゃん、この子!」


「あ!赤ちゃんだ」


 孝寿が凛音ちゃんに気付いた。凛音ちゃんはご機嫌みたいで、こちらに向かって手を伸ばしている。


「うわ! かっわいい!!」


「凛音ちゃんだよ」


 孝寿、子供好きなんだ?


「杏紗ちゃん、俺赤ちゃん欲しいー。超かわいいじゃん、赤ちゃん」


「もー、孝寿ったら、高校生で結婚して大学生でパパになるつもり?」


「俺、絶対イクメンになるからー。子供作ろうよー。杏紗ちゃんそっくりの子供欲しいー」


「やだあ、家電の買い替えで家計が大変になっちゃうじゃん。私より孝寿そっくりの子供がいいなあ。女の子でも男の子でも絶対かわいいもん」


「ちょっとあんた達、子供の前で子供作りだすのはやめてくれる?」


「作りださないわよ!」


「俺、香凛さんとの子供も欲しいな」


「いいかもー。今なら凛音連れて行っても何も覚えてないだろうしー」


「作らせないわよ! 香凛こそ子供の前で何言ってるのよ!」


 孝寿と香凛って、変に波長が合いそうな気はしてたのよね……。


「孝寿くん、結局杏紗と暮らすことにしたんだ?」


「うん。香凛さん、杏紗ちゃんと付き合い長いんだよね? 杏紗ちゃんにひとり暮らしができると思う?」


「そのマンション、燃え尽きるわね」


「そうなんだよ。だから、うちの親も入籍後ならって同居を許してくれて」


「入籍ってもさ、未成年だと大変なんじゃないの? 書類とか」


「大丈夫、全部用意できてるよ。杏紗ちゃんと結婚するために必要なことで大変だなんて思わないよ」


「……かわいいー」


 ……孝寿、何がしたいのかしら?


「孝寿くん! 応援してるから、絶対幸せになってね!」


「ありがとう、香凛さん。電話越しじゃなくて会いたいよ」


「絶対近いうちに会いに行くね!」


「うん! 待ってる!」


 ピンポーンとインターホンが鳴った。


「あ、ごめん香凛、証人の方々が来たみたい」


「ええー。孝寿くん、絶対ね! 絶対会おうね!」


「うん! 凛音ちゃんもバイバイ」


 凛音ちゃんがバイバイしてくれた。


「かわいいなー!!」


「ほんと! あ、ごめんね香凛、また電話するね」


「うん、バイバイー」


 通話を切った。


「よし、香凛さんも固めた」


 この子、結婚決まってもまだ遠距離の香凛すら固めるんだ?!

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