第43話

 ごはんを食べて、満腹の満足でコンビニの近くまで来た。


 直くんとこのコンビニに来るのは変な感じだな。あ、この辺であの壁で寝てた直くんを見つけたんだった。


「バイト頑張ってね」


「杏紗、オーナーに会って行ったら? だいぶ会ってないんでしょ」


「え? うん、そうだけど」


 おばあちゃんと田中さんは仲良いけど、私は特に田中さんに会わなくてもいいんだけど。


「いらっしゃいませー。あ、直くん、どうだった? 試合」


「勝ったよ。ありがとうございました、オーナー」


「あれ? 杏紗ちゃん?」


「あ、お久しぶりです」


「あら、どうして杏紗ちゃんと直くんが?」


 田中さんが驚いている。まあ、友達の孫と自分の店のバイトって認識だもんね、私達のこと。


「付き合ってるんですよ」


 と、直くんがサラッと言った。田中さんが更に驚いている。


 私も、ものすごく驚いている。


 え、付き合ってるって言っちゃうの? おばあちゃんと田中さんが仲良いの知ってるのに?! おばあちゃん経由で私の親に伝わっちゃうよ?!


「そうだったの?! あらー、びっくりしたわ」


「今日の試合も、杏紗の親戚の子の大事な試合だったんだ」


「あらー杏紗の。そうー杏紗の」


 驚いたけど……なんか、付き合ってるってキッパリ言われると、なぜか嬉しい……。親のこと考えると頭痛いけど、すごく嬉しい!


 もしかして、大学生になったし、将来みたいなことも考え始めてくれてたりするのかしら?


「じゃあ俺、準備してくるね」


「頑張ってね。あ、じゃあ、私もそろそろ」


「杏紗ちゃん! いつから直くんと付き合ってたの?!」


 あーこれ、絶対おばあちゃんに報告するつもりだ……。


 もういいか。変にごまかして詮索されるのも嫌だし。


「えーと、去年の2月からかな」


「去年の2月? もう1年半も付き合ってたの?! なんでおばあちゃんに言わないのー。おばあちゃん心配してたのよ、杏紗もいい歳なのにまーだフラフラしてるみたいだって。でも杏紗ちゃんだってちゃんと就職したし、頑張ってるわよねえ」


 結構おばあちゃんと私の話してるっぽいな、これ。直くんのこともおばあちゃん色々私にも話してたもんな。


「は、はあ」


「直くんが大学行くって聞いた時は驚いたけど、杏紗ちゃんのためかしらねえ〜」


「いやいや、そんなことないですから」


 うわー、匂わせてる匂わせてる。


「やっぱり、ねえ? まだ若いとは言え、フリーターだと、ねえ?」


「……さあ? 何でしょう?」


 すっとぼけるしかないんだけど。


「直くん、すっかり見違えてしっかりしてきたものねえ。頼りがいのある旦那さんになりそうよねえ」


 ダイレクトに旦那さんとか言い出したよ。どうしよ……。


「あはは……」


 変に笑うしかできなかった。


「あ、杏紗まだいたんだ」


 店員スタイルの直くんがスタッフルームから出て来た。帰りたかったんだけど、引き留められたんだよー。


「あ、ううん、私この辺で。田中さん、またね」


「あらもう帰るの? また、ゆっくりね」


 やだよ。


「はいー」


 コンビニを出る。はー。なんか、どっと疲れた。


 え、もしかして結婚とかって話になると、今みたいな感じで直くんのご両親に紹介されたりもするのかしら。


 いつから付き合ってたの? とか、ご両親のご職業は? とか聞かれたりするのかしら。


 て言うか、それが×2だよ。うちの親も絶対いろいろ聞いてくるし……。


 ……結婚って、2人だけの問題じゃないんだもんな。ちょっとめんどくさ……。


 家に入った所で、電話が鳴った。あ、お母さんだ。珍しい、何かあったのかしら?


「はい」


「杏紗! あんた彼氏ってどういうこと? 二股かけてたの? 恥ずかしい!」


「は?!」


「孝寿と結婚するんでしょ! 何なの、彼氏って!」


「は……は?!」


 語気が荒すぎてちょっとよく聞こえなかったんだけど?!


「お父さん、怒ってるわよ! 電話替わるわね!」


 怒ってるの?! 何に?


「杏紗! お前結婚間近でコンビニ店員の彼氏ってどういうことだ!」


「ちょっと待った! 結婚間近って何なのよ!」


「孝寿くんなら安心だと思ってたのに!」


「孝寿?! 孝寿と結婚間近だって言うの?!」


「当たり前だろうが! コンビニ店員との関係を速やかに精算しなさい! この恥知らずが!」


 電話が切られた。


 ……はあ?! え、なんで私、両親からボロクソに言われてるの?!


 何? 世界線が交錯してるような気持ち悪さなんだけど!


 こっちの世界では、直くんから田中さんに彼女だって明かされて直くんとのエンドに向かってるのに、知らない世界で孝寿と結婚することになってるんだけど!


 孝寿? なんで孝寿? 私、孝寿の話なんて親にしてな……孝寿か!!


 絶対、孝寿だ! 完全に、孝寿がうちの親を味方につけてたんだ!


 そうか……たしかに、もう真夏だもの。秋に結婚しようとしてる孝寿が、何もしてない訳なかったんだ!


 私の知らない所で、着々と周り固めてたのか……。あっぶな!


 ここで気付けたのは、逆にラッキーだったのかもしれない。


 てか、気付かなかったら私本当に孝寿と結婚してたのかしら? その場合、直くんをどうするつもりだったのかしら? 孝寿だって直くんを慕ってることに嘘はないと思う。


 直くんを傷付けるようなことを孝寿がするとは思いたくない……。


 ピンポーンとインターホンが鳴った。


 孝寿が来た! 何してどうしてこうなったのよ! 説明してもらおうじゃないの!


 ドアを開けた。


「何、勝手に鍵替えてんだよ」


「……拓人?」


 完全に予想外過ぎた。ついうっかり呆然としてしまったうちに、拓人が玄関に入って来てしまった。


「ガキ共は? 杏紗ひとり?」


「え……そうだけど」


「そうか」


 拓人が嫌な顔で笑った。


「酔ってない?」


「これくらいで酔ってねーよ」


「やっぱり飲んでるんじゃない!」


 うわ、めんどくさ! 拓人は酒癖が悪い。私今こんなもんに関わってるほど気持ち的に暇じゃない。


「帰って! この部屋はもう拓人関係ないの! 名義も私だし!」


「名義? 名義まで勝手に変えてんのかよ? ここは俺の部屋でもあるんだよ! 俺と杏紗の2人で借りた部屋だろうが!」


 そりゃ……借りた時はそうだったけど……。


「今は違うのよ!」


「杏紗! ガキと遊んでたことは忘れてやるよ。杏紗も俺の浮気のことは忘れろ。トントンだろ」


 ……トントン?


「私、浮気なんて人生で1回もしてないわよ! 何がトントンなの?!」


「20歳のフリーターと付き合ってどうなるってんだよ!」


 情報が古い!


「もう20歳でもないし、フリーターでもないのよ!」


「杏紗―――」


 玄関で押し問答してたら、ドアが開いた。


「あー、追い返したらいいって言ったのに」


「今まさに追い返してるの!」


「杏紗ちゃんには無理か。俺がやるよ」

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