第31話
うちのダイニングテーブルは2人用なので、4人分の料理は載らない。
孝寿が来た時の3人分が限界だし、椅子も2脚しかない上に孝寿用に買った丸椅子1つしかない。
すっかり寒くなったし、リビングにコタツを出して、そちらで食べることになった。なんとか4人分載るかな? って程度の大きさだけど。
「あ、でも、ダイニングテーブルとコタツと二手に分かれた方がいいかな? その方が孝寿と嵯峨根さん話せたりするかな?」
「あ、そうしよっか。若い者は若い者同士ね」
うん、それは名案だわ。2人分の料理をコタツに運ぶ。
ソファの孝寿が
「あ、できたんだ」
と立ち上がった。
「孝寿と瑚子ちゃんはこっちで食べて。テーブルに4人分載らないから」
「え?!」
瑚子ちゃんがガッカリした顔をする。ちょっと心が痛む。
孝寿がコイツやりやがったなって顔をする。何よ! 受けて立とうじゃないの!
「直ー、俺、杏紗ちゃんと食べたい! 嵯峨根にそっち行ってもらっていい?」
ストレートに交渉しだした!
「え? 孝寿、いいの?」
「いいよ、だって、俺恥ずかしいよ。何話したらいいか、分かんなくなっちゃう」
何、かわいこぶりっこしてるのよ! かわいいわね!!
「まあ、孝寿がそう言うなら。俺も嵯峨根さんと話すことなんてないんだけど」
サラッとひどいこと言うな、直くん。
孝寿が瑚子ちゃんに小声で指示を出す。
「嵯峨根、覚えたな?」
「うん、多分」
「よし、行け! 嵯峨根!」
「はい!」
瑚子ちゃんが直くんの前に座った。
孝寿、どんな話題を仕込んだんだろう? 好みのない直くんに対して、鉄板の話題なんて私も思いつかないんだけど? 孝寿ならサッカーの話題を仕込めば何とかなりそうだけど、直くんはなあ……。
「いただきまーす」
と声を揃え、二手に分かれての夕食が始まった。角煮食ーべよ、と口に角煮を入れる。
「あれ? これ見て下さい」
と、瑚子ちゃんが直くんに言ってるのが聞こえた。見ると、瑚子ちゃんは自分の手前のお皿を指差している。
「何か入ってる?」
と、直くんが立ち上がり、上半身を瑚子ちゃんの方に傾けて瑚子ちゃんのお皿を覗き込んだ。
瑚子ちゃんも立ち上がって
「須藤さん」
と呼んだ。
直くんが顔を上げると、瑚子ちゃんも直くんの方へ上半身を傾け、キスをした。
「ばっ」
びっくりして、口から角煮が出て行って床に落ちてしまった。
「何させてるのよ、孝寿! 角煮落ちちゃったじゃない! 角煮好きなのに!」
「はいはい、分かった分かった」
と、孝寿が自分のお皿から2つ角煮を私のお皿に入れた。ラッキー、1つ増えた。
「じゃない! 何させてるのよ、孝寿!」
「大事なのは、この後だよ」
「後?」
直くんを見る。
瑚子ちゃんが離れると、前傾してた姿勢から直立した。
「何すんの」
と不服そうに言うと、私の元に歩いて来て膝をついた。
「上書きね」
と、直くんは私の顔を両手で挟んでキスした。
……上書き……って、前にも言われたことがあった気がする……。
「あ、角煮食べたんだ」
「食べてたけど口から出たの。直くんがあんなん、されたから」
「そうなの? 俺の1個あげるよ」
「ううん、いいよ、孝寿が2個くれたから」
「じゃあ孝寿に1個あげる」
「ありがとー」
と言ってる間に、瑚子ちゃんはごはん完食してたらしい。
「ごちそうさまでした!」
と頭を下げて、走って帰って行った。
「あ。孝寿、送らなくていいの? あの子」
「俺まだ食べ終わってないもん」
「そっか。俺もこっちで食べよ」
直くんもコタツに自分のお皿を運んで来た。
……え、結局、この夕食会、何だったの?
夕食後、直くんが片付けをしてくれている。私が座るソファに、食器を流しに持って行ってた孝寿が座った。
「……何がしたかったのよ」
「なんか今日機嫌悪くない?」
「別に。瑚子ちゃんになんであんなことさせたの? 直くん、いい印象持ってないよ」
「まずはデータが欲しいからね。今の印象なんてどうとでも変わるよ」
「データ?」
「なんか、直変わってるからさ。今日にしたって、あのリアクションは予想してなかった」
「へー。孝寿でも分からなかったんだ」
ふーん。所詮はただの高校生よね。何でも見透かしてるようなフリしてるだけだ。
「何だよ。なんか杏紗ちゃんのリアクションも変だな」
「べーつにー」
「なんか今日子供っぽい」
「誰が子供よ!」
ただの高校生に子供言われる筋合いはないわ!
だいたい、気になる子って何なのよ、気になる子って。高校生ですらないわ、そんな表現。小学生レベルじゃん。
「孝寿、2年何組なの?」
「何急に? 1組だけど」
「ふーん」
隣のクラスか……1年の時に同じクラスだった、とかかしら?
「ああ、嵯峨根の言ってた情報なら、デマだよ。適当な情報吹き込まれたんだろーな」
「口止めしたくせに」
「え? 何? それで機嫌悪いの?」
それで? どれで私の機嫌が悪いって言うのよ?!
「女の子に暴力振るうなんて最低よ。普段からあんなことしてたら、2組の女の子にも暴力振るっちゃうかもしれないわよ」
「しねーよ。それに、彼氏が守るだろーし」
「へー。彼氏のいる子なんだ」
「だから何もないよ。デマだっつーの」
デマじゃないじゃん。瑚子ちゃんは2年2組のとしか言ってないのに、孝寿の頭には1人の女の子が浮かんでるんじゃん。かなり動揺しちゃってるな、実は。
「私との3歳の時の約束なんて忘れてさ、その子にチャレンジしてみれば? 高校生の彼氏なんてそのうち別れる確率の方が高いんだから」
「デマだっつってんのにしつこいな。俺が好きなのはその彼氏の方なの」
「は?!」
「俺のお気に入りなんだー。だから、別れてなんかほしくないの」
え……何それ? 冗談? 本気?
「俺には杏紗ちゃんだけだよ」
と孝寿がキスした。
……本当に?
じゃない! 嘘でいいのよ! むしろ、嘘の方がいい。
「またかよ! 実は杏紗がチューさせてんじゃないの? 上書きね」
直くんがやって来て、私の顔を両手で挟んでキスをする。
「そうなんだよ、杏紗ちゃんがこれ見よがしに隙さらしてくるからさー」
「そんなことないわよ! ねえ直くん、上書きって何?」
「え? そのまんま上書きだけど」
上書き保存の上書き? 何が何に書き変わってるのかが分からないんだけど!
「なんだろう……今のチューで言うと、何が何に上書きされたの?」
「杏紗の孝寿のチューが消えて、俺が上書きされた」
「消えるの?!」
頭の中のデジタル化が進みまくってる!!
あ……だから、浮気も軽くしちゃうんだ。泣いてる女の子の相手するのがしんどいから、やれば済むならやって、家に帰って私とやれば女の子は消えて私に上書きされる。
どんなシステム? 理解できたような腑に落ちたような私には一生分かりようもなさそうな……。
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