第30話
翌日、仕事を終えて帰ると、マンションのロビーに制服姿の瑚子ちゃんが立っていた。
……孝寿が呼んだのかしら? ストーカー継続中なのかしら?
「こんばんは……」
「おせーよ! こっちはさみーんだよ! おめーがいねーとお前んち入れないんだと!」
うわ! 孝寿がいないと気性荒!!
「そ、そりゃ私の家だもの」
「めんっどくせーな、もう!」
マンションに入り廊下を歩きながら、直くんの前では聞にくいことを先に聞いておく。
「ね、ねえ、学校で男の子達に直くんの情報集めさせてたって本当なの?」
「本当だよ。ちなみにいい情報にはご褒美あげたのも本当。そうすれば、やりたい男共が勝手に頑張って情報集めてくれるからね」
本当なんだ……。
「そのご褒美は、やり過ぎじゃないの? もっと自分を大事にした方がいいよ」
「うっせーババア。体でお礼すりゃ金もかかんねーし早く濃い情報が集まって1番効率的なんだよ。私は自分の時間を大事にしただけ」
効率的?! 効率を考えて体でお礼しちゃうの?!
「で、得た時間と情報でストーカーしてたってわけ?」
「悪い?」
悪いか悪くないかって言ったら、どうなんだろ? 直くん自身はストーカーの存在に気付いてないし。
自宅の鍵を開け、部屋に入る。すでに2足の靴がある。更に2足の靴が足されると、玄関がほぼ靴で埋まった。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングに入ると、キッチンから出てきた直くんがいつものようにハグしてキスしてくる。
え?! 瑚子ちゃんがいることに気付いてないのかな?
「おかえり、杏紗ちゃん」
と、孝寿もキスしてくる。もうなんか、して当たり前みたいな空気作ろうとしてない?
「……偉そーなこと言って、お前もクソビッチじゃねーか」
「違うわよ!」
孝寿のせいで、瑚子ちゃんに誤解されたじゃない!
「まあ、ただの挨拶だからね」
と、直くんが言った。
あ! そういうことか! なんでキスされても何も言わない時とハグだけでも怒る時とあるのかと思ってたけど、直くん的に挨拶に分類されるかどうかが判断基準だったんだ!
またひとつ直くんを理解できたけど、ほんと頭の中どうなってんだろ。
「え! 挨拶だったら、私も?!」
瑚子ちゃんが真っ赤になる。……え? 挨拶だからって直くんとキスする気? させないよ、もちろん。
「え? 孝寿の親戚なの? このお客さん」
「親戚じゃねーよ、ただの後輩だよ」
なるほど。挨拶のキスが許されるのは親戚間だけなんだな、きっと。
「ほら自己紹介しろよ、憧れの須藤さんだぞ」
と孝寿に言われて、瑚子ちゃんが更に真っ赤になった。
「やめろよ! お前の情報もあるんだからな! お前だって気になる子がいるだろ! 2年2組の―――」
孝寿が瑚子ちゃんの顔面を手のひらで覆ってつかんだ。
「痛い……」
「勝手にしゃべってんじゃねーよ。この部屋から追い出されたいか?」
「孝寿! やめなさい! 瑚子ちゃん、大丈夫?」
差しのべた手を瑚子ちゃんに邪険に振り払われてしまった。
「心配してくれてんだから、言うことあるだろー。瑚子ちゃんー」
「……ありがとうございます」
……て言うか、今完全に、口封じに攻撃したよね?
孝寿、学校に気になる子なんているんだ……。
ふーん。なんだ、孝寿だって普通の高校生らしい所あるんだ。学校に気になる女の子がいたりするんだ。へー。ほー。ふーん。
「嵯峨根 瑚子です……」
直くんの前で、消え入りそうな声でうつむいて瑚子ちゃんが言う。そんな声じゃ聞こえませーんって言いたくなる。
「あ、
あ、そっか。直くんは孝寿が瑚子ちゃんを狙ってると思ってるんだった。なんか、ややこしいな。てか、直くん名前通りストレートだな。
うつむくばかりで、瑚子ちゃんは何も言わない。直くんに会いたくてうちに来たんじゃないの? 何よ、何の時間よこれ。私おなか空いてるんだけど。
急に瑚子ちゃんがこちらを振り向いて近付いてきたと思ったら、
「何話せばいいんだよ?!」
と、小声で聞いてきた。
え? 何、急に小学生みたいになっちゃってるの? クソビッチのくせに。
「知らないわよ、なんで私に聞くのよ。私が瑚子ちゃんと直くんが楽しくおしゃべりする手助けするとでも思ってるの? する訳ないでしょ。私が直くんの彼女なのよ」
「お前なんでキレてんだよ」
「別に」
「嵯峨根、何してんの? 直キッチン行っちゃったぞ」
と、学校に気になる子がいる孝寿が来た。
「何しゃべったらいいんだよ?!」
「それくらい考えとけよ」
「考えてたけど、頭真っ白になっちゃって」
「もー、しょうがねえな、こっち来いよ」
と、学校に気になる子がいる孝寿が瑚子ちゃんをソファに連れて行く。
あんなに口も態度も悪かったくせに、直くんの前だと何なの? ツンデレですか? ひと昔前に流行りましたねえ、ツンデレ。1人でブーム再来しちゃってるの?
……なんか、ムカつく。無性にムカつく。理由もなくムカつく。
おなか空いてるからかしら。キッチンの直くんのそばに行く。
「何か手伝おうか? お皿出す?」
「いいよ、また割れたら嵯峨根さんのお皿足りなくなっちゃうよ」
「あ、鶏の煮物?」
「豚の角煮だよ。大根も入ってるよ。杏紗、好きでしょ」
私が好きだから作ってくれたんだ! 嬉しい!
直くんがお皿を出して、菜箸で角煮を盛り付けていく。
「ねえ、味見したい」
と、口をアーンと開けた。
「ちょっと待って、杏紗には熱いかも」
と、直くんが角煮をひとつ取ってフーフーしてから、私の口に入れてくれた。
「どう?」
「美味しい!」
「良かった」
直くんがにっこり笑う。超絶かわいい!
チラッとソファの方を見る。案の定、瑚子ちゃんはこちらを見ている。
見たか! これが、彼女ポジションだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます