第24話

 仕事を終えて家に帰る。マンションの前まで来てふと、出勤する時に見かけた女子高生を思い出した。


 なんとなく周りを見回したら、暗くてはっきりとは分からないけど、多分同じ女子高生が電柱の影にいた。


 お昼と同じように、どこか一室を見上げている。


 ……もしかして、ストーカー?


 このマンションに好きな人でもいるのかしら? え、だとしても、何時間見上げてるの? この子?


 直くんではないよね。ストーカーなら尚更、昼間は直くんがこのマンションにいないことを知らないはずないもの。直くんのストーカーならコンビニを見張っていたはずだ。


 もう夜10時をとっくに過ぎている。帰るように声を掛けようかしら? 余計なお世話か。高校生は、私が思うほど子供じゃないんだった。


 あんなかわいい子にストーカーされるようなイケメン高校生がこのマンションにいるのかしら。こんな狭い激安1LDK、単身者かせいぜいカップルしか住んでないかと思ってた。


「ただいまー」


 と、部屋に入る。靴はないな。今日は孝寿来てないんだ。


「……おかえりー」


「あ、寝てた?」


「うん。おはよう」


 と抱きついてきてキスをする。夜中に帰って来ておはようって、あべこべだな。


 次の日も、その次の日も毎日私が帰る時にマンション前の電柱の影に同じ女子高生がいた。


 もう確実にストーカーだろうな。かわいいんだから、告ってみればいいのに。


 ある日帰ると、女子高生は電柱ではなくマンション入り口の脇に立っていた。ロビーからの明かりでいつもよりもはっきりとその姿が見える。


 肩にかかるくらいの茶髪で、細身でセーラー服のスカートが短い、メイクばっちりのギャルっぽい綺麗な顔立ちの子だ。大きめのボストンバッグを肩に掛けている。


 私がマンションに入ろうとすると、スマホと私を見比べるように目をやり、思いっきり私を睨みつけてきた。


 え?! 何?! 怖いんだけど。


 特に何か言ってくるわけでもない。私は目線に気付いていないフリをしながらマンションに入った。


 まだ私のこと見てるのかしら? 気になるけど、振り向いて目が合うのも怖い。私は振り返らずに、自宅に入った。


 孝寿の靴がある。孝寿、来てるんだ。


 あ! もしかして、孝寿のストーカー?!


 うちから出て来る孝寿を見掛けて、ここに住んでると勘違いしてるのかしら?


 そうか、きっとそうだわ。それで、私のことも孝寿の彼女かなんかだと勘違いして、睨みつけてたんだ。やだな、ちゃんと調べてから睨んでよ……あー、怖かった。


 でも、へー、孝寿が女の子にストーカーされるなんてねえ……まあ、良く言えば中性的なイケメンか。パッと見はかわいい女の子に見えるけど。


「ただいまー」


 と声を掛ける。


「おかえりー」


 と直くんが出迎えてくれる。いつも通りハグしてキスをする。


「おかえり、杏紗ちゃん」


 と、孝寿までキスして来た。え?! 今目の前で直くんとキスしてたの見てるのに、躊躇とかないの?! 直くんも何も言わないし、何なのこの2人。


「孝寿の学校にすげーおもしろい子がいるんだって」


 直くんが作ってくれたごはんを食べながら話す。


「おもしろい子?」


「サッカー部の後輩がハマってるんだけど、1年にめっちゃかわいい女子がいるのよ。で、その子が一目惚れしたコンビニ店員のことを調べて報告して、いい情報だと認められたらやらせてくれるんだって。めっちゃいい話じゃね?」


「どこがいい話なのよ」


 そんな女子高生がいるの?! 世も末ねー。


「後輩の子はやれたの?」


「やれたらしいよ。この前、その店員の住んでるマンション突き止めたんだって。超大サービスされたって喜んでた」


 ……え? この前ってどれくらい前? 嫌な予感しかしない。


「高1の超大サービスじゃ、大したことねーんだろうなあ」


「それが聞いたらかなり大サービスなんだわ。そんなホイホイやらせる女どうせかわいくねーんだろうなと思って見に行ったらかなりかわいいし。超いい話だろ」


「そりゃ男子高校生にとっては女神だな」


「後輩、もっと大きいネタ掴んでまたやりたいって張り切ってるよ」


「……その女の子って、もしかして髪これくらい?」


 さっき見た女子高生の髪の長さを思い出しながら、肩辺りを示す。


「うん、そんなもんだな」


「茶髪で?」


「うん」


「前髪ない感じの」


「うん、たしか前髪なかった。流してたな」


「メイク濃いめの」


「うん、ギャルっぽい子」


「大きいボストンバッグ持ってる?」


「それは知らない」


 絶対、あの子だ!!


 茶髪のギャルっぽい女子高生なんていくらでもいるけど、コンビニ店員に一目惚れして住んでるマンション突き止めて毎日通ってるんだとしたら、多分この辺りで1人じゃない?!


 あの子、直くんのストーカーだったんだ!! そう言えば、昼間に見掛けたのは初日だけだ。直くんがいないのを承知で、場所を確認しに来ていたのかもしれない。


 直くんには釘刺しとくとして、孝寿にも言った方がいいのかな? このドS高校生に言った所で悪い展開にしかならないかしら?


「杏紗、どうしたの? ごはん不味い?」


「ごはんはすごく美味しい……」


「あ! 分かった! 直、たしかコンビニで働いてるって言ってたっけ?」


 しまった! 孝寿に勘付かれた!


「うん、駅前のコンビニ」


 孝寿が鋭い目付きの笑顔で私を見てくる。


「そういうことか……」


 あー、あっという間にバレちゃった……迷った時点でダメだな。隠したいなら、即判断しないと……。


「俺、超大サービス受け放題だなー」


 ストーカー女子高生に情報提供する気?!


「やめてよ!」


「安心しろよ、冗談だよ。俺、他の女とやったりしねーよ」


「そうじゃなくて!」


 すでに他の女とやったくせに、よく言うわね!

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