第22話

 ドアの開く音がした。あ!帰って来た!


「孝寿! 絶対言わないでよ! 約束よ!」


「分かってるよ」


 直くんを出迎えに、玄関へ行く。


「ただいまー」


「おかえり! 今ね―――」


 直くんが抱きついてきて、キスをする。


 ああ、なんか、ビッチになってしまった気分……。ついさっき孝寿ともしたなんて口が裂けても言えない。


 でも、やっぱりこの唇がいい。背徳感を感じない、安心の唇だ。


「いきなり始まんの? 俺見てていい?」


 いつの間にか孝寿も玄関に来ていた。慌てて直くんから離れる。


「何も始まらないわよ! おかえりのキスよ!」


「ああ、挨拶の方か」


 意味深に笑いながら言う。約束、守る気あるんでしょうね?!


「孝寿くん、来てたんだ」


 玄関の靴、気にならなかったのかな?


「大人になった報告に来た」


「は? どういう意味?」


 意味……聞いたら驚くよ。信じられないこと、して来ちゃってるよ、その子。


「学校の子とやった」


「へーそうなんだ。同じクラスの子?」


 受け入れた!! 超あっさり受け入れた!!


 え? 男的にはそんなもんなの? この2人が特殊なの?


「孝寿くん、飯食ってかない? 初体験聞かせてよ」


 詳細を聞くの?! 私は聞きたくないよ?! 親戚の子の生々しい話なんて!


「これ作るつもりなんだけど、孝寿くん食べられる?」


「俺これ好き。2人分は食べる」


 直くんが孝寿にスマホを見せている。え……孝寿、ごはん食べて行くの? いらんことしゃべらないうちに早く帰ってもらおうよ……。


「マジでー。初めてなのにやるじゃん」


 ごはんを作りながら、直くんが随分詳細を聞いている。私はなるべく聞こえないように、リビングでテレビを観ている。でも狭い部屋だから、ちょこちょこ聞こえてくる。


 あー聞きたくない。でも、ちょっとだけ興味ある。


「何その子手慣れてんな。その子は絶対初めてじゃねーな」


「だよなー。初めてだっつってたけど、おめー絶対ちげーだろって俺も思った」


「孝寿くん的には相手も初めてが良かったんじゃねーの?」


「おりゃどーでもいい」


 なんか、男同士の会話って感じ。内容はともかく、しゃべり方とか、私と話す時とは違ってなんか新鮮。


 料理をする直くんの周りをチョロチョロしながら孝寿が話している。こうして見ると、兄弟みたい。微笑ましい。


 この2人、案外仲良くなったりするかしら? 雑食で酒飲みの天才と、高校生にしてドS傾向が明らかな猿のサッカー少年。気が合いそうにないな。共通の話題がない。


「杏紗ちゃんはお前が初めての相手なの?」


「ちげーよ、元彼がいた」


「そっかー。何人もやってんだろなー。杏紗ちゃん隙だらけだもんな」


「そうそう、それな」


 共通の話題があった!


 てか、やめてほしいんだけど! その話題!


「杏紗ちゃんー、今まで何人とやったー?」


 その話題に私を入れるのは本当にやめてほしい!!


 聞こえないフリして、テレビの音量を上げた。


 ごはんを食べながらも、孝寿はガンガン質問してくる。


「直と杏紗ちゃんはどういう経緯でやったの?」


 孝寿本当にもーそんな話ばっか! て言うか、直って呼んじゃってるの?! 秒で仲良くなったものだね!


「俺経緯はあんまり覚えてないんだよね。多分酔っ払ってて」


「へー。杏紗ちゃんは覚えてるの?」


 え、そりゃー直くんが酔っ払って寝てる所をおうちに連れて帰って更にお酒飲んでやっちゃ―――


「違う!!」


「え? 何が?」


「あ、え……何でもない! 違う話にしてもらっていい?」


「じゃあさー、直と杏紗ちゃんがやってるとこ俺見てていい?」


 いいわけ、ない!!


「仕方ないなー、孝寿は。写メ動画は撮るんじゃないぞー」


 直くんが孫に甘い祖父くらい甘い!!


「いいわけないでしょ!!」


「いいじゃん、孝寿は今色々と勉強したい時期なんだよ。協力してあげようよ、杏紗」


「良くない! 孝寿に甘すぎるよ、直くん!」


「だって、かわいいじゃん、孝寿」


 ……まさか、孝寿……私が目を離していた隙に顔がかわいいのを利用して、直くんを懐柔した……?!


 孝寿を見ると、自信満々な不敵な笑みで私を見ている。やっぱり、この子……!


 一転、かわいい笑顔で


「嬉しい! どんどん飲んでー直!」


 と缶ビールを開けて直くんに手渡す。


「ありがとー! 超かわいいな、孝寿!」


 しっかりしてよ! 何高校生の術中にはまってるのよ!!


「孝寿! もう10時だよ! さすがに帰らないと!」


「えー、俺家に帰ってもママ仕事だし1人だもん。寂しいよ。泊まらせてよ」


「そうなの? 泊まっていきなよ」


 ほんと、しっかりして! 直くん!!


「あ、明日学校だから帰らないと。来週は制服持って来るね」


「泊まって行かないの? うん! 制服忘れないでね」


 ……直くん! もーほんと、目を覚まして! 絶対わざと言ってるんだから!


 直くんと2人で玄関で孝寿を見送る。


「平日も俺6時半には帰ってるから。高校近いんだろ? いつでも来てよ」


「じゃあ部活終わりに1人の時に来るね。友達いる時は友達と帰るから」


 このドS高校生に友達なんているんだ? 学校では本性隠してるのかしら?


 孝寿が靴を履いて、


「おやすみ」


 と、軽く私の背中に手を当ててキスして来た。


 ……結局、直くんの目の前でするの?!


「ただの挨拶だよ」


 と直くんに笑いかけて、孝寿はドアを開けて出て行った。


「もー、孝寿の言ってた通り、杏紗は隙が多すぎるよ」


 え?! それで私が怒られるの?! 理不尽過ぎない?! 自分はあちこちでどれだけ隙つかれてると思ってるのよ?!


 何なのよ孝寿……孝寿!

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