第21話
孝寿が立ち上がる。
「ごはん! ごはん食べて、孝寿! 食べ終わるまで、立っちゃダメ! 行儀悪いから!」
「俺、腹減ってねーよ。ソファでゆっくりお話しよーよ、杏紗ちゃん」
「……減ってる! 減ってるから!」
私の動揺を見透かすように、孝寿が笑った。
「これ食べたらソファで話できんの?」
「……食べ切れば……」
「楽勝! 俺、部活終わってから何も食ってねーから腹減ってんだよ」
「嘘ついたの?!」
「知りたいんだろ? 俺がなんで杏紗ちゃんを好きなのか」
……そうだけど……そうだけど!
本当にあっという間に孝寿はハヤシライスを食べ切ってしまった。
「ついでに言うと俺めっちゃ食うんだよ。足りない」
足りないのか……! いや、別に孝寿が食べ切ったって私に罰ゲームがあるわけじゃない。孝寿の話を聞くだけだ。
「じゃ、じゃあ言ってみなさいよ」
「俺がなんで杏紗ちゃんを好きなのか、そんなに知りたいんだ」
……なんでわざわざ、そんな言い方するかなあ……。
孝寿が立ち上がった。反射的に私も立つ。
「さ……先に、これ洗って来る!」
孝寿の食べ終えたお皿を持って、キッチンへ行く。
……こんなの、すぐに洗い終わっちゃうな……。
「丁寧過ぎねえ? 杏紗ちゃんいつもそんなに丁寧に洗ってんの?」
孝寿がついてくる。すぐ隣に立って、わざとらしく顔を近付けてくる。私はひたすらに流し台の中のお皿を洗う。
……なんか、見透かされてるなあ……。どうしよう。すでになんかドキドキしてるのに、この状態で私を好きな理由聞くの、嫌なんだけど。
孝寿が水を出して、泡でモコモコになったお皿を持つ私の手をつかみ水の下にやる。
うわ、意外と手は大きい。顔は女の子みたいなのに、手はゴツゴツしてて男っぽい……。
「めっちゃ綺麗になってるよ。まだ洗う?」
と、耳元で言ってくる。わざとだろうな……唇が耳に当たってくるんだけど。直くんに見せつけられた仕返しかしら……私にしないでよ。
なんかゾクゾクする。鳥肌? もうよく分からないよー……。
「ス……スプーン……」
「スプーンも綺麗になったね」
「そ……そうね、良かったわ」
何が良かったの?! これだけ洗えば綺麗になるよ、そりゃ!
ヤバい。何この高校生?! ちょっと落ち着くためにキッチンに来たのに、余計にドキドキしてる。なんでこんなにドキドキするんだろう。孝寿は大したことは言ってないのに。
「洗い物終わった?」
「……そうね。綺麗になったわね」
足を払われて体が浮いた。びっくりして掴まれるとこに両腕で掴まった。……うわ、孝寿の首だ。
男の子にしては小さいくせに、女のわりには背が高い私をお姫様抱っこなんてできるんだ?
お姫様抱っこされる時は、女性側が腕に力を込めた方が男性の負担は少ないって何かで見た。孝寿の首に掴まる腕に力を入れる。顔が近付くけど……仕方ない。私は細くも軽くもない。重いと思われたくない。
孝寿がソファに座ると同時に、普通にキスされた。ごく自然に。
……何してくれてんの?! うわ憎たらしい、なんか勝ったって顔してる。何も言わないのもムカつく……。
……何してんだかは、私だ。本当に、何してるのかしら。そりゃ勝ち誇った顔もされるわ。
ダメだわ。こんな高校生に好き放題やられてる場合じゃない。
2人がけのソファだから大して距離とれないけど、肘置きギリギリまで離れる。
「そんなに警戒しないでよー。俺襲いかかったりしないよ」
「……本当に?」
「とか言っといて実は襲われたくなった時のために合言葉決めよーよ。普通に俺とやりたいって言えばいいだけなのに杏紗ちゃん言えなさそうだから」
「言わないわよ!」
「俺とやりたいでオレヤリね」
「十分言いにくいし!」
「言う予定あるんじゃん」
うー……この悪ガキ、全然変わってないなあ……。昔は単純なイタズラだったのが、変に大人になった分余計に手に負えない。
「本当に私のこと好きなの? 2回しか会ってないのよ? それも3歳とかだし」
「好きだ」
即答……。ドキッとする。
「さ……3歳の時の約束なんて、無効だよ。3歳で人を好きにならないでしょ」
「3歳でこの人と結婚するって思ったよ」
「結婚ってものが分かってなかったでしょ、3歳じゃ」
「分かってなくて結婚するって思ったんだ。本能だよ。俺の本能が杏紗ちゃんと結婚するって言ってる」
「親戚同士で結婚とか、しないよ」
「いとこ同士でも結婚はできるよ。俺と杏紗ちゃんはもっと遠い親戚だし、血の繋がりもねーんだし、問題ない」
……言い返してくるなあ……。頭の回転が私より余程早いんだよなあ。
「私、一応教育に携わる仕事してるの。未成年と付き合うなんて、しかも高校生だなんて、下手したら職を失っちゃうかもしれない。大人は18歳未満と付き合えないのよ」
「結婚を前提とした真剣交際なら問題ないらしいよ」
「え?」
「調べた。安心した? オレヤリ使う?」
「つっ……使わないよ!」
「大人しくやられてろよ」
こ……高校生の言うこと?! 思わず絶句しちゃったわ!
でも、顔は真剣だった。真剣な目で、私を見てくる……。
私の頭に手を伸ばし、孝寿の方に寄せる。キスしながら、頭にあった手が背中へと降りてくる。……なんか、手が……体触ろうとしてる?
慌てて孝寿の腕を押し返す。
「やらないってば!」
「なんだ。否定しないから、大人しくやられる気になったのかと思った」
「ひどいこと言うから、絶句してたの!」
「杏紗ちゃん、やらせないくせにチューは簡単にさせるんだね。もう3回したかな?」
うっ……なんか、避けられなかったのよね……。
「ま、まあ、それくらいは外国では挨拶だからね」
大人の余裕を見せながら答えてみる。
「へえ、じゃああいつに言っても問題ないね。3回挨拶しただけだもんね」
「それはダメ! 言わないで」
って言ったところで、この悪ガキが素直に聞くとも思えないけど……。
「いいよ。俺と杏紗ちゃんの2人だけの秘密ね」
えっ……。
固まってたら、またキスされた。
「はい4回目。4回目も秘密にしとく?」
孝寿は勝ち誇った笑顔だ。うわー、憎たらしい!
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