第18話
「来年18歳になったら即結婚するつもり?」
直くんが冷静に聞く。なんか、私よりも冷静だな。私ちょっと浮き足立っちゃってるんだけど。
「俺の誕生日に入籍する。決定事項」
「勝手に決定しないでよ! 普通に無理だよ。まだ高校在籍中でしょ」
「高校在籍中だと婚姻届出せないとでも?」
「……知らないわよ。考えたこともないもの」
高校生のくせに、なんか威圧的だなー。この鋭い目で不意打ちで見られると、なぜかドキッとする。
「入籍してどうすんの? 杏紗と一緒に暮らすつもり?」
「当面は別居婚もやむなしかとは思ってる。その辺は応相談」
入籍から応相談にしてよ。
「だったら入籍もそんな急ぐ必要なくない?」
おー、直くん、話を引き出して説得するつもりだったんだ。さすが大人。スマートでかっこいい!
「他の男に取られないためだよ。お前みたいなのがいるんじゃ尚更だ。俺の18歳の誕生日に入籍するのは決定事項なんだよ」
「俺は、今すぐ入籍できるけどね。大人だから」
あ……なんか、張り合いだした。スマートな大人はどこに行った。
「できるのにしないのは、する気がないからだ。お前は今すぐ杏紗ちゃんと入籍したりしねーよ」
……論破された。この高校生、強い!
そういえば、たしか孝寿も頭良かったな。中学の先生は神山手高校を勧めるのにサッカー続けるために違う高校行くんですってーもったいない話よねーってお母さんが言ってた気がする。
……本気で結婚するつもりっぽいなあ。全く、子供はこれだから。色々と見えてなさ過ぎる。
「孝寿、私この人とこの家で一緒に暮らしてるの。たしかに結婚とかそういう段階じゃないけど、でも私、別れるつもりなんてないの」
そうだ。私は、いくら浮気されて心がズタボロになっても直くんのそばにいると決めた。彼女の座を他の人に譲り渡す気なんてない。毎日、直くんの顔を見て過ごしたい。
一瞬、鋭かった孝寿の目が悲しげに伏せられて、うつむいた。
うっ……なんか、なんだろうこの気持ち。罪悪感のような、ひどいことを言ってしまったような……言わなきゃ良かったって、後悔のような……。
孝寿はすぐに顔を上げると、また眼光鋭く私を見た。
「俺は過去は気にしない。杏紗ちゃんが誰と付き合ってようと、誰を好きだろうと俺には関係ない。杏紗ちゃんが最後に選ぶのは俺だ。途中経過はどうでもいい」
……この高校生、やっぱり強い。ズタボロの私の心にキュンキュンくることばっか言う。
「誰が途中経過だよ」
珍しく直くんがムッとしてるみたい……立ち上がると、孝寿の前に立っている私を後ろから抱きしめ、私の肩にあごを乗せて孝寿を見下ろした。
「大人になってから、そういう大口は叩けよ」
「大人って何だよ。お前だって俺とそんなに年変わんないだろ」
たしかに、孝寿と直くんよりも私と直くんの年の差の方が大きい。
「3歳から杏紗が好きで会うのが5年ぶりなら、お前未経験だろ。俺は杏紗とガンガンやってるから。悪いな、チェリーくん」
私の耳に直くんが唇をつけてくる。
最っ低なマウントの取り方!!
「高校生にそんな言い方しないでよ! 親戚の子なのよ! 私が恥ずかしい!!」
孝寿が立ち上がると、思いっきり直くんの太ももを蹴った。
「痛ってえ!!!!」
直くんが崩れ落ちる。
「大丈夫?! すごい音したけど?」
私は見えてないから何が起きたのか分からないけど、ものすごく想像はつく。
「やってりゃ大人かよ! 分かったよ!!」
大声で叫んで、孝寿は出て行った。乱暴にドアを閉める音が響く。
「もう……あんな言い方するから……大丈夫?」
「あんな小さいのにすごい蹴りするんだな。びっくりした……痛ってえ……」
「孝寿ずっとサッカーやってて鍛えてる上に、ものすごく手が早いの。手って言うか足が出るんだけど。昔っから何回も暴力事件起こしてて」
「そういうことは先に言ってよー」
「直くんがあんなこと言うからじゃない。そりゃ怒るよ」
「17歳に1番効くだろうと思ったんだけど、効き過ぎたみたいだね。言い過ぎたかな……ごめん」
「……言い過ぎだよ……でも、孝寿もやり過ぎだよね、ごめんね、狂犬みたいな子で」
「あの子帰ったらすぐやろうと思ってたのに、動けないよ。ここでいい?」
「良くない! 冷やした方がいいのかな? 保冷剤取ってくる!」
「杏紗!」
立ち上がろうとした私の腕を直くんがつかむ。膝を付いた私にゆっくり抱きついて、キスしてきた。
「俺、途中経過なの?」
不安げに私の目を見る……かわいすぎる!!
「しゅ……終着駅だよ!」
「あはは! 急に電車になった」
直くんが笑った。あーもう、超絶かわいい!! この笑顔、大好き!!
「あ、痛……笑うと響く。あの子マジですごい蹴りだね」
「大丈夫? 保冷剤取ってくるね」
あー、直くんの足の前に私の顔冷やした方がいいんじゃないかしら。めっちゃ顔が熱い……。
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