第17話

 孝寿はにらむようなキツい目で直くんを見ている。顔はかわいいんだけど、眼光鋭いのよね。


「俺は杏紗ちゃん以外の女とチューしたりしねーよ。男で我慢してる」


 うわー、そのかわいい顔でチューとか言い出したらもう超絶かわいいわ。


「学校で男とチューしてんの? おもしろい子だなー」


 直くんが笑っている。


 いや、その男の子かわいそうじゃない? 同意は得てるの? 今みたいに不意打ちじゃないでしょうね?


「なんか……直くん全然怒らないね。孝寿のこと。拓人の時と態度変わり過ぎじゃない?」


 付き合いが長くなって来ると、やっぱりそんなものなのかしら。私に対する興味関心が薄くなってきてたりしてるのかなあ……。


「えーだって、俺17歳はやったもん。17歳ってどんな感じか分かるじゃん。30歳は俺やったことないからさー」


 ……思い切って聞いたのに、回答を得られてもよく分からなかったわ。直くん的には、年下にはムキにならないってことなのかしら?


「俺のこと子供扱いしてんじゃねーぞ、おっさん」


「孝寿! 口のきき方ってものがあるでしょ! それに直くんがおっさんだったら私どうなるのよ」


 なんでこの子は初対面の直くんにこんなあからさまな敵意持ってんのよ。


「杏紗ちゃんは特別。永遠におばさんになんかならねーよ」


 いや、いつかはなる。おばさん化しないよう最大限の努力はするつもりですが。


「さっき結婚がどうとか言ってたよね。親同士が決めた許嫁とかなの?」


「そんな漫画みたいな話ないよ! どういうことなの? 孝寿」


「はー、覚えてないか。しょうがないな、俺が思い出させてやるよ」


 孝寿がダイニングテーブルの椅子に座る。直くんも向かいの椅子に座った。男達勝手だな。私、立ってるしかないじゃん。椅子2脚しかないんだから。


「初めて会った時だよ。あの時俺、杏紗ちゃんにチューして俺と結婚してくださいって言ったら、杏紗ちゃん笑っていいよーって言ったじゃん。思い出しただろ。忘れられるわけねーよ」


「初めて会った時って……孝寿のおじいちゃんが亡くなった時でしょ? 孝寿こそ記憶あるの? 3歳くらいだったでしょ」


「忘れるわけねーだろってば」


 ……うん、たしかにそんなことあったなあ。3歳の孝寿がめちゃくちゃかわいかった覚えがある。


 当時11歳だった私はいきなり3歳児にキスされてびっくりしたけど、きゃーかわいい〜って孝寿のほっぺたにチュー仕返したら


「おれとけっこんしてくだしゃい」


 って、たどたどしく言った。


 もーかわいすぎて悶絶しながらいいよーって、たしかに言った。


「だって、3歳の子に結婚してくだしゃいなんて言われたら誰でもいいよーって言うでしょ」


「婚約成立」


「してない、してない!」


「で、俺は交際0日婚でも全然いいんだけど、杏紗ちゃんもそれでいいのかなって聞きに来た。入籍まで1年付き合った方が安心して結婚できる?」


「えっ?」


 ……この子……3歳の時の約束を具体化しに来たの……?


 高校生が入籍とか結婚とか……何言ってるの、この子?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る