第14話
ある日は、休憩時間の終わりにコーヒーを淹れようと給湯室に行ったら、給湯室の窓から直くんにすがり付いて号泣する女が見えた。
直くんが諦めたように何か言うと、その女は嬉嬉として立ち上がり天神森の方向へ歩いて行く。
もしかして、また?!
給湯室を飛び出し、2人を止めに行こうとしたら電話が鳴った。電話……無視して行くか?! とも思ったけど、今事務スペースには私しかいない。
授業中の教室にまで電話の鳴り響く音は聞こえてしまう。あーもう! こんな時に! 仕方なく、電話に出た。
仕事を終え家に帰ると、直くんはいた。
「今日、ゴールデンリバーに行った?」
と単刀直入に聞いてみたら、
「よく分かったね」
と驚かれた。やっぱりか……。胸がえぐられるような、ぎゅっと掴まれたような、グンと重くなったような……。
「その女の人は何だったの?」
「ここんとこ毎日付きまとって来るから迷惑だって言ったら泣き出しちゃって。思い出作りに1回抱いてほしいって言うから、俺ちゃんと彼女が怒るからダメだって言ったんだよ。そしたら、すごい泣き方しだして……もうこれ、やって終わらせた方が早いなって思って」
たしかに、その方が早そうな泣き方してたけど!
「今度から、そういう時には私に言って! 私がお相手と話するから!」
「え? いいの? なんか悪いね」
「いいから! 気にしないで!」
ある日は、直くんのお給料日だった。
お給料日は直くんは吉野家で牛丼食べてビールガンガン飲むから、私は家で好きな冷凍パスタをチンして食べる。
パスタを買って家に帰ると、直くんがいない。
え? 吉野家で4時間以上も飲まないよね? またどこかで寝てるのかしら? パスタ食べたら探しに行こう。とりあえず、おなか空いた。
パスタを食べていたら、直くんが帰って来た。
「ただいま」
とダイニングテーブルの椅子に座る私を抱きしめる。
「おかえりなさい」
「ねえ、見て! 10万もらった!」
「は?! 誰に?!」
テーブルの上に、むき出しのお札を置く。うん、10万ある。
「吉野家にいたおばさん。言う通りにしたら10万くれるって言うからついてったら本当にくれた」
「ついてった?! どこに?!」
「ゴールデンリバー」
また来たか!! もう、目の前が真っ暗になって倒れそう……。なんで軽々しくついてくのよ……。
「知らないおばさんについて行っちゃダメ! ちなみにおばさんって、何歳くらい?」
直くんからしたら、もしかして私もおばさんかしら?
「50代くらいかな?」
ガチじゃん!! 直くん、雑食にも程がない?!
「出張ホストみたいなアプリ作ろうかな? 他にも1回やるだけで10万もくれる人いると思う?」
「思うけど、ダメ! 法に抵触する! 直くん、捕まっちゃうよ! やってること売春だからね!」
「そんな法律あるの?」
「ある!!」
法以前に、私に違反してる!!
「えーでも、月に3人もそんな人がいたら30万だよ? 杏紗にお金出させなくても生活できるようになるかもしれないじゃん。俺のバイト代だけじゃ少ないでしょ」
「いいから! お金のことなんて気にしないで! 今生活できてるから十分よ!」
頭はいいのに、倫理観どうなってるの?! この子!!
そもそも、そうだ、こんなイケメンがコンビニなんて手の届く所で働いてるからホイホイ女が近付いて来るんだ。もっと、声掛けづらい環境に直くんを置かなきゃ、きっとこれからもフラっと女抱いて帰って来る。
絶対、嫌! 断固、阻止!!
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