第12話

 家に帰る。部屋は真っ暗だ。直くんの姿はない。


 ……まさか……まさか。


 朝もいつも通り、私がキスして、直くんがキスして、ラブラブだったのに。


 一応、電話を掛けてみる。……出なかったら、黒の可能性大かも……。


「はい。どうしたの? 仕事中じゃないの?」


 出た!! なんだ、やっぱり見間違いか。ホッとした。


「台風だから塾臨時休業になって、もう帰って来たの」


「今家なの?」


「そうなの。直くん、今どこ?」


「えーと、これどこだっけ……あ、書いてあるわ。ゴールデンリバーだって」


 やっぱりいるんじゃん!! え? どういうこと?


「なんでゴールデンリバーにいるの?! 誰と?!」


「なんか、最近よく来るお客さんがバイト終わったら待ってて、今日誕生日だからプレゼントに抱いてほしいって言われて。どういうこと? って聞いたら連れて来られたんだよ」


「え……ええ?! 何それ?!」


「あ、出てきた。杏紗帰ってるんなら俺風呂いいや。さっさとプレゼント執行して帰るね。じゃあ」


 電話が切れた。


 プレゼント……執行? 初めて聞くフレーズなんだけど、どういうこと?


 え……抱いてほしいって言われて抱くってこと? 意味わからん!!


 なんか、すんごく普通に言ってたけど、普通誕生日だから抱いてほしいなんて言わないし、普通抱かない。


 え?! 普通って何? 私が思う普通って普通なの?


 ボーゼンと立ち尽くしていたら、直くんが帰って来た。


「うわー、びっしょびしょだよ」


 と洗面所の脱衣カゴにTシャツを投げ入れた音がする。


「ただいま」


 上半身裸で、いつも通り抱きついて来てキスをする。唇も濡れてる。


「走って帰って来たからさあ、汗だか雨だか分かんないよ。お風呂入ってくるね。あ、湧いてないか。シャワーでいいや。一緒に入る?」


「……いい……」


「えー。じゃあ入って来よ」


 脱いだ濡れたジーンズをダイニングテーブルの椅子の背に掛けて、直くんはお風呂へ行った。


 いつも通り過ぎて、わけがわからない。


 でも、プレゼント執行して来たんだろう。急いで履いたのか、パンツが表裏逆だ。おしりからタグが生えてた……。


 これって……浮気よね? いやなんか、堂々とし過ぎてて……


 ボーゼンと立ち尽くしていたら、直くんが戻って来た。


「どうしたの? ボーッとして」


「どうって……なんで、なんでそんなことしたの?!」


「そんなことって?」


「抱いて来たんでしょ?! 胸のデカい女!」


「え? なんで知ってるの?」


「良かったですか、デカい胸は!」


「俺あんまりデカいの好きじゃない。ベッドに寝転んだら流れてなくなるくらいがいい。両手ですくって谷間作るのが楽しい」


 胸には好みがあったんだ?! よくやってるけど何してるのかと思ったら、楽しんでたんだ?!


「……怒ってるの? 抱いちゃダメだった?」


「ダメだよ!」


「なんで?」


「なんで?! 当たり前でしょ! 私が浮気許さないの知ってるでしょ?! 元彼と別れた時に直くんもいたじゃない!」


「浮気のつもりはなかったんだけど……杏紗あの時、お兄さんにやったから怒ったんじゃないって言ってたし……」


「あ……」


 言ったわ。あの時はたしかに体の関係に怒ったわけじゃなかった。


「もういい! お風呂入って来る」


「あ……行ってらっしゃい」


 浮気のつもりはなかったとか言ってたけど、そんなわけない! ごまかされてたまるか!

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