第9話
「元彼なの。もう別れてるの。そこだけ強調させてもらっていい?」
「なんだ、元彼か」
「なんだとはなんだよ! お前らだって浮気してたんじゃねーか!」
「は?! してないわよ! 別れてからよ!」
「別れた翌日にやってんだから、水面下で付き合ってたんだろーが!」
「私をそんなふしだらな女だと思ってたの?! あんたと一緒にしないでよ! 須藤くんとまともにしゃべったのは昨夜が初めてよ!」
「え?! ほとんど知らない男とやったの?! そっちの方がふしだらじゃねーか!」
あ。うっかり論法を間違えたわね。
「だいたい、このガキいくつだよ?」
「俺20歳だよ」
「マジか! なんだよー20歳の大学生とか!」
何がおもしろいのか、拓人が高笑いをする。なんか、感じ悪いわね。
「俺20歳のフリーターだよ」
わざわざ訂正しなくていいのに……。
「20歳のフリーター?! なんだ、俺と別れてよっぽど寂しかったんだな。結婚してやるよ、杏紗。俺も30だし、そろそろ結婚してもいいかと思うようになったんだ」
結婚してやる?! この上からな無駄に俺様な所も嫌になってた。……でも、別れなかったのは、たしかに……結婚したかったからだ。
「25で公務員と結婚できれば勝ち組だろ」
「いい。同棲1年で刺激が欲しくて浮気する男と結婚したって不倫されるだけだもの。それに私今は、結婚より須藤くんをもっと堪能したいの」
「お前そんな女だったの?!」
「お姉さん、なんでこんなのと付き合ってたのー?」
さすが、須藤くんは鋭いわね。ほんと、なんでこんなのと付き合ってたんだか。
「小学校に教育実習に行った時に、拓人のクラスに入らせてもらったの。色々助けてもらって、イケメンだし気にはなってて……で、大学卒業する頃に急に連絡が来て、気が付いたら付き合ってた感じ」
投げやりに答える。憧れの職に就いてるイケメン先輩なんて、超かっこよく見えたんだよなあ、あの頃は。
「あ、分かった! 浮気相手も同じじゃない? 教育実習に来た大学生」
「え?! すごい! 大正解! なんで分かったの?!」
「バカは一度成功を体験すると、全く同じようにした方が成功すると考える傾向があるんだよ。それが相手のあることでも、相手によって臨機応変に対応することができないんだ。毎年同じように気に入った女子大生に連絡してたんじゃないかな」
「お前何者だよ?! 占い師かなんかだろ、絶対!」
……当たってるんだ……。
「私……去年も一昨年も浮気されてたんだ……」
「な……何被害者ぶってんだよ! 俺が家賃半額払ってるこの家で浮気するとか、最低だからな!」
「だから、浮気じゃない! 家賃のことはちょっと申し訳ないなって思ってたけど、別れた後のことなんて文句言われる筋合いないから!」
「ベッドなんか、俺が実家から持って来たベッドだし!」
え?! あ、そうだった! それはうっかり忘れてた!
「金払えよ! 家賃半額分と、ベッド代と! あ! ガキが着てる服、全部俺のじゃん! 服代も!」
こういう、お金に汚い所も嫌だった。家賃半額分は毎月くれてたけど、他はほとんどお金を出さないから家賃以外の出費はひとり暮らしと変わらなかった。
むしろ、男1人分多く食べるしお風呂入るし生活するんだから、ひとり暮らしよりも私の負担は大きかったはずだ。
……なのに、こんな言われようをするなんて……本当に、なんでこんな男と別れなかったんだろう。もう、自分でも分からない。
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