第4話

「あ、堀さんが塾長のとこ?」


「そうそう」


 多分うちの講師全員の顔は知ってるだろうな。


「中学受験って何? 中学って義務教育でしょ」


「義務教育だけど、地元の公立中学じゃなくて私立や国立の中学に行くための受験だよ。中高一貫教育で上位の大学を目指すの」


「小学生がお受験ねえ」


 須藤くん、頭いいのに中学受験はしてないんだ。おばあちゃんが田中さんから聞いた話によると、ご両親とも研究職のエリートで教育熱心そうなイメージだったんだけど。


「小学校の先生になろうとは思わなかったの?」


「思ったよ。教育大出身だもの。でも、小学校の先生は勉強ってよりかは生活指導的なとこが大事なのよね。特に低学年は。私はもっとガチに勉強を教えたかったの」


「あー、中学受験塾なら勉強したい子が集まって来るから」


「まあ、言っても小学生だし色んな子がいるけどね」


 と話をしながら、須藤くんは私の方ににじり寄って来る。もう、同じ辺で隣に座っているのと変わらない。なんなら角度がついている分、顔が正面に近い。


 須藤くんがチューハイを飲む。……ん? 私の頭を押し寄せて、自分の口の中のチューハイを私の口に注ぎ込む。あ、さっきよりはだいぶ唇が人の温度になってる。


 口移しされたチューハイを飲み込む時、ゴクッの音がえらく大きく聞こえた。


「美味しいでしょ、これ」


「お……美味しい、けど……私も同じの飲んでるんだけど」


 いや、エロい! 須藤くんエッロ! こんなことするんだ、この子! めっちゃドキドキしてきた。


 須藤くんがゆっくり抱きついてくる。……始める気か?!


「ちょ、ちょっと待って! お風呂入って来る!」


「ええ〜……おあずけが長いよ」


「ご……ごめん」


 おあずけって……なんか須藤くんが言うとかわいい! もっと焦らしたくなる。


 私がリビングを出る所で、


「もう1本飲んでいい?」


 と須藤くんが立ち上がった。


「あ! 冷蔵庫に入ってるから! 他の戸棚とかには入ってないから!」


「え? そうだろうね」


「あ、そりゃそうか。お風呂行ってきます!」


「行ってらっしゃい」


 思わず慌ててしまった。何言ってんだ私。


 熱心に髪も体も洗って、湯船につかる。あー、体の芯まであったまるわー。今日めちゃくちゃ寒かったもん。


 これ……お風呂上がったら、確実におっぱじまるよねえ……。あんなイケメンくんが私を求めてるとか、超興奮するんだけど。でも超緊張する。


 まさか、ほとんど毎日顔合わせてたコンビニ店員さんをお持ち帰りすることになるとは……ラッキーだわ。あんなイケメン、そうそういない。


 お風呂の扉を開けると、正面の洗濯機の上に置いていた私のパジャマを須藤くんが広げて見ていた。


「えっ」


 慌てて扉を閉める。なぜ、いる?! お風呂上がれないじゃない!


「あれ? 上がるんじゃないの?」


「須藤くんがそこにいるから、上がれないのよ!」


「なんで?」


「恥ずかしいから!」


「今見るか5分後に見るかの違いしかないよー」


「その5分が必要なの! リビングで待ってて!」


「もー。早く来てねー」


 去って行ったっぽい……あー、びっくりした……。……って、え?


 お風呂から出て、洗濯機を見ると、パジャマがない!!


 持って行きやがったな、あの子!


 バスタオルで体を拭き、パンツを履く。


 もう、いいか。どうせ2分後には脱がされてるんだから。私は、バスタオルを巻いてリビングに戻った。

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