第3話
須藤くんをお風呂に見送り、私はまずは今晩須藤くんと過ごすであろう寝室を見回す。
昨日までこの部屋で生活してたんだから当然なんだけど、元彼の私物、多!! 服も寝室のクローゼットに収まりきらず、一部積み上げられている。あちこちに元彼の痕跡がある。
どうしよう?! おばあちゃんが田中さんから聞いた話を聞いた感じ、須藤くんは変わり者な所があるように思っていた。実物も変わり者なのかしら? 須藤くん、お風呂から上がってどんな行動をするかしら?
てか、須藤くんのお風呂が長いのか短いのか分からない。男の人って、早い人はちゃんと洗ったの? ってくらい早かったりするし。体が冷えきってるから、そこそこ長いだろうとは思うんだけど……。
もうとにかく、ベッドの部屋は超危険だからここから元彼の物は撤去しないと!
でも、うち激安1LDKだから、寝室NGだともうリビングから繋がってるダイニングとカウンターを挟んだだけのキッチンしか残らないんだけど?! 考えるんだ! 1番、安全な隠し場所はどこ?!
んー……かなり苦渋の選択で、キッチンかしら? お酒を冷やした冷蔵庫以外は安全なんじゃないかしら?
流しの下、コンロの下、戸棚、とありとあらゆる扉の中に元彼の私物をぶち込む。
……あ! 服! 須藤くんに貸すための服はいる!
須藤くんの服は多分パンツまでびしょ濡れだろう。えー、パンツ……男物のパンツがあるのは、同棲バレるよねえ……。
パンツは我慢してもらおう。他は、元彼の服で女子が持っててもギリOKなやつを探そう。
「着替え、置いとくよー」
と、声を掛けてお風呂の前に置いてる洗濯機の上に元彼の服とバスタオルを置く。
湯船で動いたのか、チャポンと聞こえる。
「えー、着るの?」
「着て!」
全裸で上がってくるつもりだったのかしら。いや、ていうか本気でやるつもりなら私もお風呂入りたいし。
多分これで、同棲バレないでしょ。激安1LDKで逆に良かったわ。一人暮らしだって言っても全然違和感ない。
お風呂から上がって来たらつまみ程度に何か食べるかしら。コンビニで買っておけば良かった。
冷蔵庫には、昨日晩ごはんにと買ってた元彼の分のお弁当がある。食べる前に、浮気されてたことが分かってこの部屋から追い出した。私は、浮気不倫が大嫌いだ。
このお弁当のおかずをお皿に盛り直すか。2時間ほど賞味期限を過ぎてるけど、問題ないでしょ。よし、準備OK! 須藤くんが上がって来たらチンしよう。
そうだ、私もお風呂入るとして、何着ようかな。まあ、パジャマでいいよね。1番かわいいやつ、出しておこう。
寝室からお気にのパジャマを手に出てくると、須藤くんもリビングに入って来た。うわー……見慣れない須藤くんが見慣れた部屋着を着てる……。
須藤くんは背が高いから、ズボンの丈が合わずにくるぶしが出てるのが気になった。
「あー、ちょっと短いね」
「これ、男物?」
「え? ……ううん、私の」
嘘ついちゃった。
「なんか飲む?」
「うん、乾杯しようよ。あ、でもお姉さんも体冷えてるよね? お風呂入って来る?」
「えっ……」
お風呂入ったら始まるんじゃないかしら。もうちょっとお話とかして、打ち解けてからにしたいんだけど。
「か、乾杯してから入ろうかな」
と、冷蔵庫からチューハイを2本取ってリビングのコタツに運ぶ。
真四角のコタツの一辺に須藤くんが入る。私はチンしたお弁当のおかずを持ってきてその隣の辺に入った。
「ここ、来ないの?」
「え、だって、狭いでしょ」
「ふーん」
なんか不満げだ。きゃー、かわいい!
チューハイの缶を開けて、乾杯する。あー、美味しい。
「お姉さん毎日店来るけど、職場が近いの?」
「うん。聖天坂の駅前の中学受験専門塾で講師やってるの」
講師って言うか、まだ2年目に入るとこで授業をしたこともないし雑用しかしてないけど。
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