第2話

 アルコールの棚の前で、冷蔵の扉を開けながら須藤くんがこちらを向いた。


「お姉さん、何飲むの?」


「私はチューハイ」


「9%いっときなよ。これ、美味しいよ、俺も好き」


 須藤くんが2本、カゴに入れる。……アルコールの強いチューハイ飲ませる気? 自分が飲みたいから私にもってだけ?


 後は選んでるようには見えない。適当にポイポイとカゴに入れてるだけじゃないかしら。私チューハイしか飲まないのに。


「買い過ぎじゃない? 12本もあるんだけど」


「1人1パック分6本」


「……須藤くんはやめといた方がいいわよ」


 すでに出来上がりきってるのに。


「俺がおごるよ。今日給料日で全部おろしたから金持ってるんだ」


 え、そんな状態で路上で寝てたの? 見つけたのが私で良かったわね、ほんと。


 須藤くんが財布を出したけど、びっしょりと濡れていてお札が出せない。


「お姉さんー……」


「分かった! 私が出すからそんな顔しない!」


 須藤くんの泣きまね顔がめちゃくちゃかわいくて、年甲斐もなくドキッとしてしまった。やっば! やっぱり超好みだ。


 お金を出しながら考える。彼氏と別れたタイミングでこの流れって、さっき須藤くんが言ったのが聞き間違いじゃなくてやるの意味が違うとかでもなければ、付き合う可能性もアリ??


 ただなー……。


 お釣りを受け取りながら考える。私、年上のイケメンしか興味ないのよね。超好みなんだけど、5歳も年下って付き合うにはなー。結婚とか考えられないし。須藤くんフリーターだもの。ナイな。


「俺持つよ」


「え? 持てるの? まあ、さっきよりはだいぶしっかりしてきたっぽいけど。重いよ、12本も買うから」


「大丈夫! 俺できる子!」


 本当にしっかりしてきたみたい。さっきまで半目だったのが、パッチリ大きな目が開いている。


 超絶かっこいい!! やっぱりアリかも!


 8分ほど歩くと、自宅マンションに着く。けど……。


 私の自宅ってか、昨日別れた元彼との同棲部屋なのよね。まあ、その分この濡れ鼠に貸せる服も十分あるんだけど。


 別れた次の日に男連れ込むとか、なかなか最低な行為じゃないかしら。しかも、家賃前払いだから今月分は元彼も半額出している。


「どうしたの? ここがお姉さんの家?」


 立ち止まって動かない私に、須藤くんが鋭い観察眼を見せる。う……バレたか。バレちゃあしょうがない。


 いやーでも、同棲部屋だってのはバレない方がいいよね? いくら変わり者でもさすがに須藤くん気持ち萎えるわよね? いや、萎えてもらってもいいんだけど。超ビッチな女だと思われそう。それは嫌。


「えーと……ちょっと部屋散らかってるかもだから、ちょっと待ってて」


 鍵を開けながらそう言った。部屋のドアの前まで来て、やっぱり元彼の物は隠したくなった。


「散らかっててもいいよ」


 須藤くんがニコッと笑う。うわー……超絶かっこいい! 思わず見とれて動けなくなる。


「早く入ってやろ」


 須藤くんが勝手にドアを開けて私の腕をつかんで玄関に入って行く。部屋の中も超寒い。


「いや! ちょっと……え?!」


 仕方なく電気を付ける。玄関には多分元彼の物はないかな? ササッと見渡す。よし、OK! 靴箱開けられなければセーフ!


 須藤くんは靴を脱いで、キョロキョロしている。


「ベッドは?」


「は?! いや、お風呂入って温まった方がいいんじゃない?! 体冷えてるでしょ」


 と、須藤くんのコートを触った。え?! びっくりするくらい、冷たい……。


 須藤くんのほっぺたを触ってみる。


「ちょっ……尋常じゃない冷たさじゃない! すぐお風呂いれるから、入って!」


 お風呂の給湯スイッチを押しに行こうとしたら、思いっきり抱きしめられた。うわあ、顔近……! 須藤くんのほっぺたの冷気を感じる。


 狭い玄関の廊下で、壁ドン状態に追い詰められる……お互い、無言だ。これは、きっと……来る!


 私も背は低くないけれど、須藤くんは背が高い。少しかがんで、須藤くんの顔が更に近付いてくる。やっぱり、来た!


 唇も、信じられないくらい冷たい……けど、私は一気に体が熱くなった。こんなに冷たい唇なんて初めてだ。


 でも、この冷たさはさすがに多分危ない。


「ま……まずは、お風呂入って! 信じられないくらい冷たいよ」


「ええ〜……あ、一緒に入ろ?」


 うわ! かわいい言い方するなー。


「だ、ダメだよ、1人で入って!」


 その間に、私元彼の私物隠すから!

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