完全版 青春短し、恋せよ乙女――ただし人狼の。 04

「まあ、それはおいておいてやな」

 気を取り直して、銀子が話を戻した。

「ホンマの話、どないするつもりやねんな?」

「どうって……」

 銀子の言いたい事は分かる。でも……

「……どうにもならないけど、せめて、気持ちだけでも、伝えたいなって」

 あたしは、思っている事を素直に言う。

 だって。気付いちゃったらもう、あたしは、この気持ちを無しにする事は出来ない。なら、どうせダメになるんだとわかっている・・・・・・なら、何もしないより、何かしてからダメになる方がいい。

「……って、まさか蘭ちゃん、告白するつもりなん?」

「……うん」

 ぐっと前に出てきて問いただす銀子に、あたしは、答える。

「告白して、もしOKやったら、まさか付き合うつもりなん?」

 銀子が、重ねて聞く。

「正体、隠して?」

 直球勝負で。一番重要な事を。


 あたしと、銀子ぎんこと、たまき。三人に共通する、「髪の色が黒くない」以外の共通点。いや、実を言えば、髪の色はこっちの理由の結果でしかないのだけれど。

 それは。

 あたし達が、獣人けものびとである事だ。


 そう。あたし達は、人として暮らしてはいるけれど、けものとしての本性を持った、獣人。

 あたしは、入学式の当日、すぐに気付いた。同じクラスに二人、獣人が居る事に。匂いで。

 だから、あたしはすぐにその二人、銀子と環に声をかけた。二人も、あたしが声をかける頃には気付いていた。

 あたし達は、種族が違っても、友達になれる。どうしても相容れない種族もいるけど、それでも、学校とか会社とか、同じ組織にいるなら、極力いがみ合わず、可能な限り仲良くする。人の中で暮らすあたし達は、無用なトラブルで自滅するのを避けるため、自然にそうする様に暗黙の了解が出来た、あたしは婆ちゃんからそう聞いていた。だから、あたしはすぐに二人に声をかけ、すぐに友達になった。狐である銀子と、白蛇である環と。

 あたし達は人間社会では圧倒的に少数派だけど、それでも、規模にもよるけど学校に一人居るかいないか、その程度の比率では居ると、これもあたしは婆ちゃんから聞いていた。でも、同じ学校、同じ学年に三人同時に居るってのはなかなか珍しいって、婆ちゃんもびっくりしてた。そして、狐はともかく、蛇、それも白蛇とはなかなか珍しいとも言っていた。

 そして、あたし達、人狼はもっと珍しいんだと、婆ちゃんはその時、そう付け加えたっけ。


「正体は……そりゃ隠すわよ」

 銀子に聞かれて、あたしは、一瞬詰まってから答えた。

「正体ばらしてメリットある?」

 聞き返したあたしに、銀子が答える。

「そらそうやけど。いやな、ウチの言いたいんはそういうんとちゃうねんけど……」

「……初恋なのよ、あたし。多分、これがあたしの初恋」

「いやあの、ランちゃん?」

「あたしは、蘭馨あららぎ かおるは人狼の娘。所詮、同族以外とは、人間とは結ばれない運命……それはわかってるの」

「蘭ちゃん?あの、かおるさん?」

「でも、でもね?あたしも女の子だもん、誰かを好きになるのは止められないわ……銀子、あんただって女の子だから、わかるでしょ?だからね」

「もしもーし?」

「だから、あたし、決めたの」

 意を決して、あたしは宣言する。

「せめて今だけ、せめて気持ちだけでも、伝えようって……」

「立派なお覚悟どすなぁ。うち、応援しますえ」

 盛り上がりきって人の話なんかまるで聞いてないあたしに、目を細めて微笑みながら、たまきが言った。

「……まあ、うちも女の子やし、分からん事もないけどもやな」

 あぐらをかいた膝の上で頬杖をつきながら、銀子も、半分諦めたみたいな口調で言い足す。

「でしょ!」

 なんだかんだ言っても友達だ。あたしは、恥ずかしいのと不安なのとでドキドキしてた所に同意がもらえて、嬉しくて、安心して、二人を見つめる。

「……あのな、蘭ちゃん、よー聞きや。ヤーマダ君のクラスの娘から聞いた話やねんけどもな」

 眉を寄せた銀子が、低めの声で言う。え、何、止めて、もう誰か好きな娘が居るとかそういうの止めて。

「蘭ちゃん盛り上がってるとこ、わるいんやけどもな」

 ぐっと、銀子が前に出てきて、言った。

「……ヤーマダ君な、イヌ、嫌いらしいで?」

「……は?」

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