第7話 準備はいいかい
秋の川の土手を歩く僕と千鶴。腕を組んだままで話合っていた。
昨日の夢で思い出した怖い思いを語る僕に、千鶴が頷きながら聞き返す。
「そんな事があったんだ……なんで今まで教えてくれなかったの」
「本当に忘れていたんだ。あの後、夢だと大人達には決めつけられた」
「それで疑いもなく、大人言葉を信じて、小中高と学校を卒業して、自分でも不可思議な事な、あやかしは、ないと言う立派な大人になったわけね」
トゲがある千鶴の言葉に少し向きになった。
「そうだ、あやかしなどいない。そう思った」
「じゃあ、高校になっても時々、ズボンのポケットを触っていたのは、なんでかしら?」
「もしかして翼があるかと……ただ、今は思い出したけど、その時はなんとなく思っていただけで、何を探しているかさえ分からなかった」
「ふーーん。でも、どうして今日になって突然思い出したのかしら」
「千鶴、おまえのせいだと思う」
「はあ? あたしのせいって……」
思い出した女の子は、髪や服装は違うがおまえにそっくりだった。偶然にしてはできすぎだ。
「千鶴、おまえ、心当たりがあるんじゃないのか? この古い町で僕と出会って……何かを思い出してないか?」
「言っていいことなのかな。あのね、あたしも大切な記憶があった。でも、それが何か分からない。タカの話を聞いて何か思い出しそうだった。でも、なにかが邪魔をする。それはまるで思い出しちゃいけないと誰かに暗示をかけられたみたいに」
暗示か。大人達は忘れて欲しかったみたいだ。
でもそれも妄想なのかも。
今日、東京に帰る僕を送りながら、数キロはある桜の木が植えられた長い土手を歩いていた二人。
「あれ?…ヤバい! このままじゃ電車に送れちゃうよ!」
千鶴の焦った顔を見ながら、笑った僕。
「まずは、お化粧なおしたらどうかな? 電車は間に合あうから」
「え!?」
ポケットにあるものを手に取り出して、空へと掲げた僕。
「もしかしてそれがカイトの翼? 本当に出来るの?……空を飛べるの?」
僕が疑いに笑顔を返すと、瞳を輝かせた千鶴。
千鶴の手を取って、力強くカイトの翼を握りなおした。
「さあ、準備はいいかい?」
了
あやかし こうえつ @pancoo
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