第11話 『日のささぬ海底』 『座布団』 『悼む』
水は透明なのになぜ底まで見通せないのだろう。
手のひらで掬った海水は透明なままこぼれ落ちていく。
少し目を閉じると、穏やかな波が体を揺らす。
小舟の上に私がひとり。今日はこの海の上に墓参りに来たのだ。
オールを漕いで荒くなった息が落ち着く頃には私は陸に戻り、太陽が顔を見せ始めていた。
腰が痛い。小舟の無骨な椅子のせいだ。次からは座布団でも持って行こうかと思ったが、濡れるだけだろうか。
太陽の光が朧げなものから眩いものに変わっていく。
目を細めて何も考えずに立つ。願うことはなく、祈ることもなく、ただ1人の顔を思い浮かべて悼む。
あの人の遺骨を散骨したのは5年も前だった。
誰も来ない。道もない。そんなへんぴな場所を選んだのは自分だ。
誰にも知られたくなかったから。
この輝く水面をかき分ければ、見えない海底まで辿り着いて、あなたはいるのだろうか。
あなたはまだいるのだろうか、日のささぬ海底に
練習用のお話を。 @sode1202
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。練習用のお話を。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます