第10話『真っ赤な鳥居の下』 『シャープペンシル』 『果てる』

いくら吸っても足りぬとばかりに空気を肺に入れ続ける。体が軋みを上げているような感覚がする。思考する余裕も剥ぎ取られ、動き続けることに精神力を費やして、腕を振る。


僕は山の中腹にある神社に向けて、全力で走っていた。

神社に続く階段は僅かに手前側に向けて傾斜しており、階段の険しさを一層強めていた。


目線を上げると、真っ赤な鳥居が見えた。

疲労から階段に目線が下がり、しばらくして平坦な石畳が見えた。足を緩めて歩き出す。


呼吸を深く、目線が上がると、鳥居が見えた。

足の力が抜けて鳥居の柱、そのすぐ側に横たわる。

日頃ここまで強度の高い運動をするわけではない。

それなのにこうして横たわって果てているのには、いちおう訳がある。


僕にとってはとても重要で、でも他の誰かにとってはどうでも良かったり、笑い話にでもなるだろう。そんな話だ。

僕にとって重要だから、こうして走って境内に転がっている。

でもきっとここのかみさまは許してくれるだろう。

ここは縁結びの神社なのだから。


そう思うと、また頭に浮かんでくる。

振り払おうとして走ってきたのに、落ちたシャープペンシルを渡した時の手の柔らかさを思い出す。


恋をしてしまったのだ、僕は。






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