第7話「雪」「手を振る」「横断歩道」であっけらかんとしたお話を。

「ねぇ」

「んー?」

寒いので口を開けるのも少し億劫な気持ちが言葉に出ていたようだ。

彼女は少しも気にする素振りはなかったが。

並んでしばらく歩いて、行きに渡った歩道橋が見えた。


「あれなんだけどさぁ」


どうやら話があるようだ。


「寄り道しない?」

「寄り道?どこに」

「ここを真っ直ぐ」


彼女は顎で道の先を示す。この先には何かあるわけじゃない。むしろ、行きたいところがあるのではないのかもしれない。


「歩道橋登るの面倒になったか?」

「うん」

「そうしようか」


そう言って足を進め続ける。

行きより荷物は増えているし、雪で滑りそうだ。多少は歩く距離が伸びてもいいだろう。


思い出したようにポツリと話しながら、足元に、あるいは見慣れた山々に目をやる。

そうしていると歩道橋よりさらに遠くに見えた信号の元に着いた。

ここの信号は長い。そのことに特に思うこともなく。

緑なのか青なのか分からなくなる光に進んでいき、戻って行く。


歩道橋を通り過ぎる時、隣を歩く彼女の姿が僅かに後ろにズレて、衣擦れの音。

目を向けるとなんらかの動作を終えて、腕を下ろす姿が見えた。

私が見ていたことに気づいた彼女は先んじて「なんでもないよ」と答えた。


返事を返して、これまでのようになんでもない話をする。

暖かい我が家が近い。


アパートの敷地に入ったあたりで、ふと彼女の動作が手を振っていたのだと分かった。


何に?タイミング的に歩道橋に、だろうか。

そう考えるが答えは出ない。


ただ、まあ。

こんな静かで、2人しかいないような夜は、なんだか大事な時間に思える。


だから、より長く。

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