第5話「月明かり」「机」「放置」でうれしいお話を。

扉を押し開けて、鞄を部屋に投げ入れる。

忙しい日々に動作が荒くなった自分を自覚して顔を顰める。

深く呼吸して、ひとまず落ち着いたフリをしてカーテンで遮られていない窓に目を向ける。

日が暮れてから数時間経ったとは思えないほど差し込む光に、今日は満月だったかと思った。

窓に足を進め、膝を深く曲げてガラス越しの空を見ると煌々と月が照っていた。


月明かりが差し込む先には、積み上げられた書籍や段ボールに占められた机が見えた。

机に向かう暇もなかったのだなと少し口を歪めた。

月明かりと、廊下からの明かりが照らす部屋は薄暗いを通り越していた。

けれど、なんだか明かりをつける気にもならなくて椅子に腰掛けた。

物が積み重なった机を直視するも片付ける気にもならなかったが、目に止まった封筒を手に取り中身を取り出す。


中に入った紙切れの正体を、月明かりに照らして理解すると久しくワクワクした気持ちになった。


仕事で擦り切れたのか、掠れた記憶が色づくようだった。


途端に小躍りしたくなる自分を俯瞰して、ゲンキンな物だなと思うが、吸い込む息すら瑞々しく感じる自分もいた。


そうして浮き立つような気持ちで少し豪華な夕飯のメニューを考え始め、キッチンに向かった。



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