第3話「雪」「靴」「終末」勇ましいお話を。
汝の勇気は如何なるもぞ。
人と戦う、獣と戦う。この二つに大した違いはないだろうが、私はそれを生業にしてきた。
だが眼前の王は違う。この王は、血の気の多い、鍛冶と戦いを愛する我が国にあって、清流のようなひとであった。書物を愛し、静かさとともにあった。
その清流のような静かさばかりと思っていた王から出た言葉には、熱が、炉から吹き出す熱気よりはるかに強い温度を、覚悟を感じさせた。
戦支度は早々に済んだ。国の戦士は隊列を組み、門を開き、打って出た。
我々には剣と槍、そして弓や弩のみ。
遠くに見える相手は夥しい異形の軍勢。その相貌は童がこねくり回したような奇妙な形をしていた。加えて、奇妙な術を使うものもいるようだ。
その証拠にか、常の戦場にはあり得ない風景が広がっていた。
人が倒れていないのだ。
いや、正確に言えば人がいた痕跡は残っている。槍が、弓が、鎧が、服が、靴が散らばっているのだ。
肉体は朽ちたのか、灰のような有様になり、風とともに雪のように舞った。
その光景を見て、腹にすじんと落ちた感情はあまりに重かった。
絶望とはこのように、身を竦ませるのか。
他の国からの連絡が途絶えたのも肯ける。
人類はもう終末を迎えているのだ。
ここはもう捨て鉢でも勇を示して散るしかない。
そう暗い覚悟を固めた。
「我らの勇気は何するものか」
強い熱を感じた。
「我らの勇はただ死ぬためだけに示すものではない」
身体の震えが止まる。
「我らの勇気は、勝利のためにある」
軍勢が吠えた。
王からの命が降る。
術を使う異形を、弓と弩で制し、それ以外を槍で押し留める。
単純な指示ではあるが、間合いの指示が実に巧妙だった。
かの異形の術には効果を及ぼしうる範囲があるようだ。近間で避けようがないなら、それより外から攻めれば良い。
我らが恐れを覚えた光景に、王は一つの勝ち筋を見ていたのだろう。
諦めず、ただ勝つために考え続けていたのだろう。
ひとたび優勢を得た我が軍勢も、圧倒的な数の異形に飲み込まれつつあった。
しかし、槍を振りながら確信する。
我が王こそ、真に勇在るものだったことを。
そう確信して、王共々異形に飲み込まれて行った。
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