鉄山靠のリュウホージュンvs武具百景の神崎ひなた
神崎ひなたは悔やんでいた。藤原埼玉を殺せなかった事を。
あいつは仇だ。友人を、恩師を、両親を、妹を殺したのは藤原埼玉、お前であると。藤原埼玉を殺すために研鑽を積んできた。血の滲むような特訓の日々を思い出す。しかし、それすら無駄な事であったのか。神崎ひなたは己の実力が藤原埼玉に遠く及ばない現実を前の試合で思い知らされた。
棄権するかな、と神崎ひなたは思った。もうこの大会で戦う理由がない。例え、優勝したとしてもそれは神崎ひなたにとっては価値の無いものであった。
鬼殺しのカップを揺らす。瓶に入っている空気が鬼殺しと混ざり気泡ができた。それを神崎ひなたは眺めていた。
神崎ひなたが無為に過ごしていると、そこに藤原埼玉が表れた。
「ひなたん。あのね、伝えたいことがあるの。」
全く空気を読まない藤原埼玉は神崎ひなたにそう語りかける。
「ふざけるな!お前と話す事など何も無い。」
神崎ひなたは藤原埼玉を邪険に扱い追い払おうとする。現代最強の魔術師、藤原埼玉。彼女がその気になれば神崎ひなたは一息を着く暇もなく亡くなることだろう。故に、藤原埼玉の口を閉ざす事はできなかった。
「あのね、ひなたん。どうしても一言だけ伝えたかったの。生きててくれてありがとう。それだけ。」
神崎ひなたは藤原埼玉が何を言いたいのかわからなかった。ただ、それだけを告げて過ぎ去る藤原埼玉の背中を見送る。
神崎ひなたはリュウホージュンを見つめる。こんな化け物に勝てるわけがない。無敵のビックオーガスは現代最高硬度の装甲を誇る。それを粉砕した相手に何ができるというのだろうか。何もせず立ち去ろう。そう、神崎ひなたは決めた。立ち向かう気力など残っていない。
空けた鬼殺しの瓶を地面に置く。それを自ら蹴ろうと足を動かした。しかし、瓶わびくともしない。藤原埼玉の魔術によって動きが止められていた。
「ひなたん。駄目だよ、そんな事したら。」
藤原埼玉が泣きそうな顔をこちらに向けている。
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」
神崎ひなたは藤原埼玉に向かって吼える。
「全部お前が悪いんだぞ!藤原埼玉!!お前さえいなければ。お前が私の全部を滅茶苦茶にしたんだ!」
「でも、ひなたんなら優勝できるよ。もったいないよ。」
「もう始めてもいいのか?」
リュウホージュンが呆れながらこちらに歩いてくる。
「うるさい!黙れ !!!」
藤原埼玉は魔術を行使する。リュウホージュンの動きが止まる、事はなかった。
「嘘?何で?」
神崎ひなたは目の前の現実が理解出来なかった。リュウホージュンの歩みは遅くなるも、一歩一歩こちらに向かってくる。
「ひなたん。あいつの動きは押さえているから!」
藤原埼玉の横顔に焦りが見える。最強の八極拳士は魔術ですら己の気功ではね除けていた。
あぁ、ムカつく。全員ムカつく。もうどうなってもいい。
神崎ひなたは禁術を発動した。
空が赤く染まる。同時に轟音が鳴り響く。空を見上げると、巨大隕石がここに墜ちてくるのがみえた。
メギドの炎。神話における兵器の1つ。堕落した人間への制裁のため、街を1つ滅ぼすのに使われたと伝えられる炎がここに降り注いだ。
全てを焼きつくす業火の中で1人の男が立っている。勝者鉄山靠のリュウホージュン。伝説の業火すら八極拳で退けたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます